第5話 錯綜・開始・レビュタント
『極悪犯罪者 カミラ・シュビッチ
ナイムル大牢獄を脱獄し、指名手配のまま逃亡中――――だったのですが……。
――今、速報が入りました。
なんと、カミラはいつの間にか牢獄の中に戻って来ていたということです――』
へぇ…………。初めてニュースというものを見たが、面白いじゃないか。脱獄して、――その後、再び自ら入獄……か。
「ふん……」
――朝はパン。僕は、そう決めている。
そして、朝といえばコーヒー。トボボボボ、と音を立ててコーヒーを淹れる。この音がまたいいのである。
ふぅ……ため息を吐く時間。最高だ。この時間ももうすぐ遥か彼方の世界になってしまうのが何とも惜しい……。
「カミラ・シュビッチ、ね。覚えたよ。君が僕のターゲットだね」
情報入手に最適だが使い慣れない
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犯罪者を駆逐する。第一目標はコレになる。
殺人ではない。真っ当な処刑である。社会不適合者の排除である。
そんなようなことを、俺はボソッとラミィへ零した。たった今、一人の犯罪者をこの手で排除した俺の愚痴のような一言。
ラミィは――頬に手を当て、首を曲げた。
「理由を付ければいいってものじゃないと思いますが……ま、いいです。思い切りやっちゃいなさいな」
神は乗り気ではなさそうだ。だがそれでもいい。
幸せな世界を造るんだ。
大悪党から順番に。
コソドロまでも駆逐する。
――と、「ねえ」神は言う。「アナタは死んでいない。だから恨みのある人物がいれば、そいつを捕らえて好きにすることもできるんですよ」
「ああ、そうだな、、、。でも……」
俺には新たに生まれた信念がある。
「俺一人の感情で殺すのは……まだ、止めておこう。犯罪者になっちまうし」
「? 警察に捕まることだってないんですよ? すぐにココに逃げ込めばいいわけですから」
「いや、そういうことじゃなくてね……」
少し俯いて。
しばらく考えてから、
「好きなものは後から食べる派なんだよ」
と決め台詞のように俺は言う。
そして、ニヤリ。
ガハハハハ。
不気味な笑みが自然と零れる。
「安心……しました」
レミィはため息交じりにそう言った。
神は、きまぐれに人を助けることがあるらしい。それは善人だけではなく、分け隔てなく悪人にも助けを貸す。神が面白いと思ったらそれまでで、見捨てられてもそれまで――だそうだ。
「じゃあ、まずはコイツだ。本名、
フフフ……この感情は、どう表現すればいい? 最っ高の――最っ大の喜びを……!
――ガチャリ。
俺は――レバーを思いきり倒した。
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怖い……。罪悪感はないのか?
壊れてる。ガラクタ、ゴミ、スクラップ、ただの埃、塵芥。
狂ってる。何か危ない薬でもヤってるんじゃないの? 彼をここまで壊した人間は、今どんな生活を送っているだろうか。のうのうと笑い、悲しみ、苦しんだりしているのだろうか。はっ……どうでもいいか。
……私は神様。彼がぶっ壊れた
…………ついに、というべきか。まず一人目の犠牲が出た。これからどんどん増えていくだろう。
彼をハメる策は、いくつか持っている。だがすべて…………うまくいくかどうかは賭けになる。
最初は、確認だ。彼を使う事による周りの影響と、創造することで変化する彼の感情の数々を。
「作戦開始」
彼に聞こえないようにぼそっと呟き、左腕の腕時計型通信機を起動――スグ《CONNECT》
「聞こえる、カミラ? そっちはどう?」
『ああ、ラミィか。こっちは順調だなァ。笑えるくらい。ガハハハハ!』
応答する声は、やけに元気な女。
「そっちの生活はどう?」
『どうって言われても困るが……普通の大犯罪者用の牢獄さ。警備が無駄に厳重すぎて抜け出せねェな』
「抜け出す気?」
『いいや、何というか――――暇でな。なんとか暇つぶしに看守の男と遊んでみたりするんだけどさ、面白くないのなんの。人間味がナさすぎる。あいつら何のために生きてんの、って感じだなァ』
「ごめんね。でも安心して。あと少しの辛抱だから。報酬はアレよ。お願いね、最期まで、指名手配犯を演じきって」
「りょーうかい! 絶対アレ、忘れんなよ」
――プツリ。
そう。私は、一つの作戦の下準備をすぐに始めていた。
作戦名:レビュタント(Les Butantes)。
カミラという女を最大限に利用した、上位神にも感知されない、最っ高の偽善陰キャ男の使い方。
これからがその――—―本番である。
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