第6話 不可解・熱源・稚拙

「先生、迷宮入りしたはずの事件が急に解決したってどういうことですか?」



 とある青年が、『上司』である中年男性に訊いた。



「いや、それがな……」


 その『上司』――原田恭祐はらだきょうすけは、未だ困惑している頭を乱暴に掻いた。




「俺も本当かどうか判別がつかないんだが……どうやら警察内部の人間が、重大な物的証拠を隠蔽していたらしくてな。で、犯人はそいつの兄弟だったとか。……信じがたい話だよな」



「そ、そうですね……」



 言いながら、案外想像通りの言葉が帰ってきて安堵する青年――犬飼桧臺いぬかいひむろ




 彼が『先生』と呼ぶ原田は、犬飼の務める警察署の『上司』である。捜査一課の頼れる上司である。











 犬飼は原田の話を聞き、最近の憂鬱な日常を思い浮かべた。



「それにしても、先生……」


「なんだ……?」


「最近は妙なニュースが多いですよね」


「そうだな。脱獄犯が牢獄に自ら戻ってきたり、政治家が東京の雑居ビルの倉庫に心停止した状態で格納されてたり…………物騒な世の中になったもんだ」


「ですね……しかも、現実では不可能だとされるような事件ばかり……。牢獄は鍵も開いておらず、壁に穴が開いているわけでもなかった。見張りも怠っていなかったというのに、どこからどうやって? 政治家の事件のほうは、唯一の出入り口であるドアの前には監視カメラがあった。カメラ情報を偽装した? しかし、今のところその痕跡はゼロ……」


 自分で口にし、唇を嚙む。





 何か違和感がある、犬飼はそう感じた。いや、それは未解決事件なのだから当然だ。



 だが、そういうのではなく……もっとこう、事件のトリックとかそういう本質的な部分に、まだ見えない何かが隠れている気がした。






 しかし、そんな気がしただけでは――この違和感は収まらない。犬飼は、警察の端くれとして、このもやもやとした気分をどうにかしたいと心から願った。






 そして、捜査三課の俺が何を考えているんだと冷静になり、ため息が漏れ――――ん?






 はぁ……というため息の音に敏感になり、それと同時、突然の天災のように『閃き』が降ってくる。自然と、「あ」と微かな声が漏れる。





 それに対し、「ん? どうした?」と聞き返してくる原田。








 犬飼は――直感的にあることに気が付いたのだ。






「あの、先生」


「なんだ?」





「これまでの事件に『共通点』を見つけました。これが事件の解決につながるかはわかりませんが……」




「…………言ってみろ」







 原田の優しい目は、鋭い目つきに変化した。







 刑事の勘、というやつか。






 原田は目の前の青年のそのたった一言で、何かが変わる気がしたのだ。





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「武田はヤった。次は…………どうしようか?」









 高ぶる感情を抑えきれない。




「………………」








「次はやっぱり気持ちイイところを……」






 神様に意見は尋ねてみるけれど、俺に神の意見を聞く気など毛頭ない。







 それを神は完全に理解していて、先程から一言も言葉を発さない。








 ただただ俺のことを見つめていて、なんだか少しパッとしない――が、今はそれでころではない。












 気持ちのいい所――つまり、至極最っ悪の大罪人。大量虐殺とか普通にヤっちまう、イカれたやつらの削除デリート










 さっそく始めようか――脅迫して買春行為を繰り返した政治家は、ただ心臓を止めただけで終わらせてしまった。まあ、実験みたいなものだったからな。









 じゃあ今度は――――派手にヤろう。









 今、俺は安全な場所にいる。








 誰も俺の領域エリアには踏み入れられない。








 神でもなくちゃ――な。










 ガサゴソ………………。





「ん……?」




 ラミィが音を立てて、何やら白い箱の中身を漁っていた。





 そして、すぐにお目当ての品を見つけたようで、それを取り出し箱を放る。








 ――取り出した『それ』は、スマホだった。









 いやスマホ型の別の何かなのかもしれないが……俺にはそれがスマホにしか見えなかった。






 ラミィはそれをサササと操作したのち、グチャリ。




 簡単に握り潰したかと思うと、『それ』は一瞬にして霧散した。












 ああ、そういうの気が散るからやめてほしいのだが――








「――神に対して怒りをぶつけたってなあ。神なんだから、どうしようもできないしなあ」



「………………」






 そんな風に呟くが、依然として神は何も言わない。








 

…………まあいい、始めるか。








 心の準備? そんなのいつだって準備万端だよ。






 えっと、ターゲットの名前は…………








「――――アルトゥール・リーベット。コードネーム《神風》か……ふふ」






 俺は、自分でも感じられるほど、満っ面の笑みを浮かべる!











「死んじゃえ!」








 残酷な情景を脳に鮮明に焼き付けて、俺はレバーを力強く押し倒した。

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