第4話 狂気の沙汰
――――――カチ。
時計の針が止まったような音がした。
ただそれだけで、周りの景色に何ら変わりはない。
「これで……止まったのか?」
「はい。早速ボタンを押して、レッツ
味わったことのない優越感が体をまとい、いつの間にか俺は、上空から小さな地球を見ていた。
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――これは、私が〝神様〟へ昇格する前の、〝天使〟の頃の話である。
全ての人間は、無能である。
そう思って生きてきたわけだし、今もその考えは変わらない。
けれど、無能なりに頑張る人間の醜態が、これほどまでに美しいとは。
気づけば私は、人間というものに興味を持っていた。
私たち天使のほとんどは人間と関わろうとしないのだが、人間のふりをして人間界に降り立つ天使が現れることが度々あった。
そのほぼ全員が、人間と似通った思想を持ち帰って来て、天界に大胆な改革計画を持ち込む。
そして――いつも七対三くらいで反対派の勝利。
だがしつこく改革改革言うものだから、彼らは消されてしまったそうだ。
そして五千年くらい経って、私たちも人間界へ赴くことが禁止となった。
が、その掟を破ろうとする者もいた。
天使や神様だからといって、ルールを守るとは限らない。
天使や神様に課せられた義務は、ただ笑顔で人間を見守ること。
偽りの笑顔が許されない、などというルールも存在しないし、そんなルールがあったとしても誰も守らない。
あーあ。
一回行ってみたかったんだけどな、人間界。
大抵のことは簡単にできてしまう天界に生まれたからこそ、大抵のことができない人間界っていうのも経験してみたいんだよね。
あーあ。
あーあ。
あーあ。
……いつからだろう。感情を表に出すことがなくなったのは。
誰がどんな極悪非道なことをしようと、心を痛めなくなったのは。
天使失格だ。だけどそんな自分を責める者なんていない。
とても気分が悪かった。だから私は、反抗しようとしたのだろう。
人間界と天界をゲートで繋げたのだ。
三百二十七億六千十四万年もかかってしまったが、ついに完成させた。
天界の方が時間の進みが早いので、人間界の時間で言うと、約一億九百万年といったところか。
これほど時間をかけてまでゲートを造ろうとする馬鹿がいるとは、神たちも想定していないだろう。
それも、私のような下級天使が。
普通、神は何かを創造するときには『天使』を使役して造らせる。造らされる側にある天使が、その権利を持つはずがない。神よりも知能の低い天使に、そんなことは不可能だと勝手に見下されているからだ。
こんなに時間をかけても造れるかどうかという代物を、下級天使一羽だけで作ろうとする私は、やはり文字通り馬鹿なのだ。
なぜ私に造ることができたのか。はて、どうだったか。運が良かったのだろうか。
はっきりとは覚えていない。
気の遠くなるような時間も、私にとっては一瞬に思えるほど、私はどうかしていた。
――どうかしていた理由もよくわからないが。
私が冷静に戻ったときには、時すでに遅しというやつだった。ゲートはしっかりと人間界へ繋がっていた
その人間界のごく一部――人間が誕生し、人間界の一部となったばかりのとある世界の惑星。
その惑星に、私は特に興味を持った。
そこは、2番目に理不尽だといわれる『地球』という惑星だった。
不平等な生まれ持った個性。
不平等に振り分けられた喜劇と悲劇。
裕福な者と貧困な者。
――差別性の非常に高い社会が、心の発達した人間の精神を蝕む。
こんな残酷な世界ができたのも、理不尽な世の中での人間の成長っぷりが楽しみな神様たちの気まぐれでしかない。
ほんと気の毒だと思うよ、地球の皆達の気持ちを借りて言うならね。
本当はそうは思えないんだけどね、私たち天使ってのは。感情とかそういう曖昧なものを、神や天使や悪魔ってのは、基本的に嫌うから。
人間にはそれを強制してるのにね。
同情など一切できず、すべての人間に優しい笑顔を振りまく――それが天使というものだ。偽りの笑顔は許されるが、特定の人間だけを優遇するというのは、許されない事なのだ。
神様の監視――というか、そういう『
それは概念的なものではないから、外すことに成功出来た天使もいる。
私もその一人だ。本当なら、ゲートを造ろうとすれば、一瞬で消滅するはずなのだ。
私の秘めたる力で破壊したのも、バレてしまえば消滅する。
概念自体の消滅。
――――誰の記憶からも消え失せる。
私もたぶん、数羽の天使たちのことを忘れていることだろう。
先述の『反対運動で天使が消滅した』という話も、書物に記してあっただけで、別にそれを覚えているわけではない。
見たのかもしれないが、見てないという書き変わってしまったのだ。
そして、今……………
私は――――ラミィは――――天界最大の裏切り者として、世界創造主を造り出そうとしているのだ。
これは私の気まぐれにすぎない――――かつての天使たちが遊び半分でやったようなことにすぎない。
神様は、完璧だと歌われているが、実際はそうではない。
人間を操ることは完璧でも、神様や天使だけは操ることができない。
その穴を、突く。
悪の、正義執行だ。
人間を助けるような行為をする。
変えてみせるよ、地球を。
…………素晴らしい世界にして見せるよ。待ってて、繝ェ繝ェ繝輔Λ繝ウ繧ケ。
アレ? 今、私、何て…………?
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キュイーン! 煌びやかな光と共に、モスキート音のような高い音が耳を劈いた。
気づけば『神様』へと昇格していた私は、目の前にいる『
ハハハハハハ、ハハハ、ハハハハハハハ……。
この笑い声は、彼には聞こえていないだろう。
聞こえていたら、言い訳に困ってしまうが…………。
「ははは、利用させてもらうよ。梨桜くん♡ 自惚れるなよ。あんたみたいな被害者ぶってるクソ野郎が、犯罪ってのを引き起こすんだ。せいぜい正義のために利用されて、絶望感じて泣き呻け」
正義の執行には、悪も必要だと誰かが言った――「私」もそう思うから。
しばらくしたのち、段々と光は晴れてゆく。すると、ハハハとあの男の笑い声が。生理的に受け付けないような声、とでも言うのだろうか。悪役にお似合いだ。ダークヒーロー役は彼に決まりだろう。
「とりま犯罪者一人殺した。反応でも見てみっか、かはは」
人が苦しむ姿を見るのは、この人間にとっては何よりも幸福なことなんだろう。それが犯罪者だからと言って、殺していいわけがないのだが。
……理解できない。
――――だって私、イイ神様だから。
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