エピソード1 ~海老名と嘘つきエビ~

   1

 海老名えびなだよ。僕の親友をご紹介!

 僕と一番仲のいいエビは、通称「みやうちエビ」というやつなんだ。みやうちエビは嘘をつくのが大好きだ。今日も、

「今日は3月11日だ」

 と、嘘をついていた。本当は10月16日だ。で、僕はそれを信じちゃったんだ。その次の日、僕は

「3月12日だ」

 と、叫んじゃった。それはほかのエビたちにも聞こえて、みんなに笑われちゃったよ。

 みやうちエビの物語ものがたり、おしまい。


   2

 ――と思ったら。


 そのまた次の日、朝起きたみやうちエビは、

「海老名! 今日は3月13日だぞ!!」

 と、叫んだ。本当は10月17日だ。しかし、海老名からいつもの返事がない。不思議に思ったみやうちエビは、目をこすって、海老名を探し始めた。

 ……海老名はいなかった。みやうちエビは何回も何回も目をこすってみたが、海老名はやっぱりいなかった。

 みやうちエビは、悲しくなった。本当は海老名のことが好きで好きでたまらないのだ。

「海老名…………」

 その後、みやうちはほかのエビたちに協力を仰ぎ、海老名を探した。

 しかしいつまでたっても見つからなかった。家に帰りふとベッドに横になったとき、頭の方になんだか違和感を感じた。枕の下に紙が挟まっていたのだ。その中には、

――――――――――――――――――――――――

        みやうちエビ様へ        

                         

1億円を挙げる代わりに海老名様をもらっていく。

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        助けたければ

そこから北へ3500mいったところの牢屋に来い。

               差出人:怪盗かいとうエビ   

――――――――――――――――――――――――

 と、書かれた紙が置いてあった。そして、横には先ほどまでなかったスーツケースがずらりと並んでいた。

 みやうちエビがそれを開けると、中には大量の札束が。

 1億円? すごい。でもそれと引き換えだとしても、海老名は渡さないぞ。

 みやうちエビは決意を固め、改めて紙をよく見ると、紙の右下には、『差出人:怪盗エビ』と書かれていた。

「怪盗エビって、あのエビだけさらう怪盗の?」

 みやうちエビは、誰もいないのに、驚いて声を出してしまった。すると、


「――そうだよ」


「え?」

 なぜか、海老名の声が聞こえた気がした。

「助けに行こう」

 みやうちエビは、すぐさま、ほかのエビに助けを求めた。

「海老名がさらわれたって?」

「早くいかなきゃ」

「3500mって、どれくらいだ?」

「たしかに」

「北に行けば、どこに行けばいいかわかるだろう」

「北ってどっちだ?」

「分からないから、手分けして探そう」

 そんなこんなで、エビたちはいろいろな方角へ歩き始めた。みやうちエビは、北東の方へ行った。南東、東、西、北西など、全員違う方向へ行ったが、北へ行くものはいなかった。


 ――日が暮れて、みんな元の場所に戻ってきた。

「見つかった?」

「いいや。全然見つかんない」

 みんな、見つけられなかった。

 夜になりみんなが寝静まったころ、みやうちエビは、こっそり家を出て、広い海の北の方へ泳いでいった。

 みやうちエビは、家を出る前、夢を見ていた。海老名を助けに行く夢だ。夢の中のみやうちエビには、なぜか北がどっちなのかわかっていた。家を出て、そのまま真っすぐ行った方が北だった。

 夢を見たみやうちエビは、起きてすぐに、どんどん真っすぐ行った。が、海老名を見つけることはできなかった。しょうがないので、みやうちエビは、家に帰った。


 ――夜が明けて、エビたちが眠りから目覚めた。みやうちエビは、エビたちに、

「もう一度海老名を助けに行こう」

というと、よくわからない答えが返ってきた。

「はあ?」

 エビたちは不思議な表情になっていた。

「どうした、みやうち。海老名はここにいるじゃないか。お前夢でも見てたのか?」

「えっ?」

 みやうちエビは驚いた。気が付かなかったが、すぐ目の前には、さらわれたはずの海老名が立っていた。

「どうせ、いつもの嘘に決まってるさ」

 と、海老名は言った。

 みやうちエビは、ポカンと口を開けたまま、軽く頷いた。みやうちエビは夢を見ていたのだろうか。全部夢だったのだろうか。みやうちエビは、それからしばらくの間、口を開けたままだったそうだ。


   3

 海老名は神社で、

「僕たちは10歳です」

 と、言った。


 ――嘘をつくのはやめましょう。

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