第2話 競パン戦士の弱点!○○ナイト

ある夕暮れのことだった。

街は家路を急ぐ人々であふれている。


そのなかに様々な背格好の青年たちが含まれていた。


リュックサックを背負った帰宅途中のサラリーマン。

夕食を買いに出たタイパンツのフリーター。

カフェでは男子大学生が勉強に励んでいる。


偶然にも、この三名はごく小さなエリアに居合わせてしまった。

彼らが集まることで、ある「システム」が作動することになったのである。


システムの作動に伴う微かな異変。

それを青年たちは敏感に感じ取った、彼らは各々の作業を止めて、周囲の様子をうかがう。


その時だった。

はるか彼方から爆発音が響く。

音の方向に目をやる三人。

彼らの視線の先には飛行体があった。

何かが彼らに目掛けて発射されたことは明らかだった。


「競パン!チェンジ」


三名は各々に叫ぶ。


すると、彼らの下の股間が急速に勃起を始めた。


スーツの男のぴったりとしたスラックスも、

フリーターの緩いタイパンツも、

大学生のデニムも、突き上げられて盛り上がる。


次の瞬間、彼らの衣類が光に包まれ消滅。

光が消え去った後には、競パン姿の青年たちが現れた。


競パン!ウルトラマリン!

競パン!ネイビー!

競パン!スカイブルー!


彼らは紛れもなく競パン戦士であった。

競パン戦士たちは、ダークセイバーの攻撃に備えて、人間社会のあちこちに配置されてたのである。


それぞれ異なる色の名前を持った競パン戦士たち。

彼らのコスチュームはその名前通りの色に輝いている。


変身したかと思えば、彼らはすぐさま飛行体の着地点に集合した。


飛行体は巨大な岩だった。

大型トラックほどもある岩をダークセイバー が打ち上げ、この地点に落とそうとしている。


ダークセイバー は競パン戦士のエネルギー反応を検知するセンサーを至るところに配置している。

ひとたび競パン戦士が出現すれば、自動的に攻撃を仕掛けるシステムになっているのである。


しかし、ダークセイバーといえど、変身前の競パン戦士の微弱なパワーを検知することはできない。

ただ、今回は三名の競パン戦士が、たまたま同じ地点に居合わせた。

三名分の微弱なパワーが掛け合わさり、不幸なことに攻撃が発動したのだった。


飛行する岩は、まるで恐竜を滅した巨大隕石のように市街へと急速落下する。

そして、競パン戦士たちを押し潰した…かに見えた。


ガッシッ!


だが、三名はこれの巨石をしっかりと受け止めたのである。


これほどの岩が地面に衝突していたら、相当な衝撃波が街を襲っていたことであろう。

その被害を三名は食い止めたのだ。


「久しぶりだな!ネイビー!スカイブルー!」


サラリーマン姿に変装していたウルトラマリンが、二人に声をかける。

その口調は巨石を持ち上げているとは思えぬ程に快活で余裕に満ちていた。


「そうだな!研修以来じゃないないか?」


うれしそうにフリーター姿だったネイビーがそれに応えた。

彼らはどうやら顔見知りのようである。


「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」


事態を最も深刻にとらえているのは大学生に変装していたスカイブルーだった。

彼の言う通り、ダークセイバー がこのような単調な攻撃を繰り出すはずがない。

確実にこの後、何らかの罠を仕掛けているはずだ。


「そうだな。ひとまずこの岩を置いて、少し距離を取ろう!

 何かあるとしたら、この岩の内部の可能性が高い」


ウルトラマリンの指示にネイビーとスカイブルーは従うことにした。

彼らが岩を慎重に地面に置いた瞬間だった。


岩がピキピキと音を立てて割れ始めたのである。

そして、中から緑色の青色の光が漏れ出した。


「これは!」

「まさか!」

「あの伝説の!」


三人の顔が一気に深刻なものになる。


三人は青い光が見えた瞬間、その場を離れた。

しかし、どことなしかその動きは精彩を欠いている。

青い光が、競パン戦士たちに何らかの影響を与えているようだった。


刻一刻と亀裂が深まり、青い光が強くなる。


「ヤバい爆発するぞ!」

「あの光を全身に浴びたら俺たち…!」

「みんな、変身を解除するんだ!」


「競パン!チェンジ!オフ!」


彼らの全身は光に包まれ、元々着ていた服へと戻っていった。


その後ろで、巨石は爆破。

激しい爆風。

周囲に青い光と破片が降り注ぐ。


変身を解いた競パン戦士たちは、間一髪で地面に伏せたため難を逃れた。


青い光は一瞬で消え失せ、後にはその残り火のような青い破片が散らばっていた。


「くっ、間一髪だったな…」


競パン戦士たちは体に降り注いだ破片を払いつつ、立ち上がる。

その破片もわずかに青みがかっている。


「これは、やっぱり…」


その一粒をスーツ姿に戻ったウルトラマリンが拾い上げる。


「触って大丈夫なのか?ウルトラマリン?」不安げなネイビー。


「大丈夫だよ。この鉱物は人間モードの時は反応しないんだ」


ウルトラマリンは冷静に答える。


「これは…、間違い‎なく噂の『アクアナイト』だよな」


ネイビーの声かけに、ウルトラマリンは黙ってうなづいた。


アクアナイト。

それは競パン戦士のパワーを無力化する鉱物であった。

この光を浴びた競パン戦士は、たちまち力を失い、本来の能力を発揮できなくなってしまうのである。


アクアナイト、それは競パン戦士たちにとって、スーパーマンのクリプトナイトと同じ効果を持つものだった。


「この存在を敵に知られてしまったとは…」


ダークセイバーの競パン戦士に対する分析はここまで進んでいたのである。

アクアナイトが競パン戦士の弱点だと割り出したのに加え、それを宇宙のどこかで発見。

大量に採掘したうえに、既に兵器に仕込むまでの段階に達している。


ダークセイバーの恐ろしい執念。

それほどまでに競パン戦士を憎んでいるのだ。


「これから…厳しい戦いになりそうだな」


重々しい口調でウルトラマリンがつぶやいた


ウルトラマリン、ネイビー、スカイブルー。

三人の表情は暗い。

しかし、その瞳の奥には確かに闘志が燃えていた。



以上

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