負けるな(負けろ!)競パンヒーロー

らぶか

第1話 縮小!競パン戦士~悪魔の光線

激しい蹴りを食らったレッドはそのまま弾き飛ばされ、壁に激突した。

レッドは強い衝撃にしばらく動くことができず、敵がこちらにやって来るのを見守ることしかできない。


――くっそ…あの光線。避けねばならないのに…。


レッドは敵の発するある光線を最も恐れていたのである。



・・・・・・・・



かねがね敵のアジトではないかと疑われていた廃墟に競パンレッドは単身乗り込んだ。

競パン戦士の所属する地球防衛軍は優秀な組織であるものの、ある種の大企業病にかかっており判断が遅い。

この廃墟がダークセイバーの本拠地であることは99.9%正しいにもかかわらず、地球防衛軍はまだ総攻撃をためらっていたのである。


――何か確かな証拠をつかめば防衛軍も動き出すかもしれない。


そう確信したレッドは危険な賭けに出た。

この廃墟が敵の本部である証拠つかむために、仲間にも内緒でここまでやって来たのだ。


廃墟の内部ではこれまで感じたことのないほどの禍々しいオーラが漂っている。

レッドの全身の筋肉が引き締まる。

圧倒的な敵意が彼に向けられていることにレッドは気づいていた。


その時だった。

レッドの第六感が危険を告げ、彼は真横に飛びのいた。

しかし、レッドがそれまで立っていた場所に何らかの攻撃が加えられた気配はない。

廃墟の汚れた窓から漏れる光が、埃だらけの地面を照らしているばかりだ。


――いや、これは自然光ではない!


レッドは研ぎ澄まされた感覚で、その微かな光が敵の攻撃であることを悟った。

先ほどは窓から入る自然光だと思った光は、廃墟の壁にひっそりと設置されていた照明器具から発せられたものであった。


「ちっ!!!」


レッドは再び横に飛びのく。

彼の足元にはまた別の光源から発せられた光が照射された。


次も、また次も光はレッドに向けて放射される。

照明は廃墟のいたるところに設置されており、光はレッドの移動先の先手を打つように次々と照射される。

しかし、レッドはその全てを俊敏な動作でかわしていった。


光は本来ならば宇宙で最も早いはずである。

しかし、レッドは超人的な集中力と身体能力で、敵の攻撃を先読みし全てを避けたのである。

それだけ、その光が競パン戦士にとって…いや、全ての生物にとって驚異であることをレッドは気づいていたのである。


だが、レッドは「攻撃」を食らってしまった。

彼は正体不明の光にばかり気を取られ過ぎていたのである。

俊敏に飛び回る彼に静かに忍び寄る「敵」の存在に、彼は全く気づかなかった。


こうして彼は蹴り上げられ、廃墟の壁に激突したのだ。


「くっ…くっそ…」


全身を貫く衝撃に彼はほとんど身動きが取れない。

これでは先ほどの光線の良い的である。


動け…動け…とレッドは必死に体に命じ続ける。

しかし、動くは彼の競パンの中身ばかりで、四肢には力が入らない。

彼の焦りを示すかのように、彼の競パンの内部は心臓のように脈打っている。


この痛みは数秒もすれば収まり、再びレッドは動けるようになるだろう。

しかし、彼は先ほど彼を蹴り飛ばした敵の予想外の「姿」に驚き、再び固まってしまうのであった。


そこにいたのは競パンレッド本人であった。

最初、鏡がそこにあるのかとレッド自身が勘違いしてしまった程、敵の姿は競パンレッドそのものであった。


すらりとのびた四肢も鎧のように体を覆う筋肉も、そして、競パンの下に息づく圧倒的なエネルギーもまさにレッド自身のものだ。

何より胸のクリスタルから放たれるオーラは、競パンエネルギーそのものだった。

事態を把握することができず、レッドの意識と肉体は完全に停止してしまったのである。


もちろん、この競パンレッドはダークセイバーが作った偽物である。

ただの精巧なロボットに過ぎず、筋肉も競パンの膨らみ見掛け倒しだ。


ただ唯一本物があるとすれば、ロボットの胸に埋め込まれたクリスタルである。

これは過去の戦闘でダークセイバーが捕獲した競パン戦士から奪ったものである。

しかも、このクリスタルを経由して、ダークセイバーは「例の光線」を打ち出そうとしていた。


完全に偽レッドのクリスタルに目を奪われているレッド。

そのクリスタルから、レッドの全身に例の危険な光線が発射された。


「あぁぁぁぁっ!」


光はその柔らかさに反して、激しい痛みをレッドにもたらした。

全身が焼けつくような痛みにレッドはもだえる。


――焼けつくような痛み。


レッドの感覚は正しかった。

その光線はレッドの全ての細胞を文字通り焼いていたのである。


レッドの全身の細胞は光線の不思議な効果で熱せられ、少しずつ縮んでいった。

まるで彼の体積の大部分が「焼滅」するかのようだ。

そして、彼の全細胞は本来の姿よりもかなり縮んでしまったのである。


「あぁっ…、はぁはぁ…」


光線の照射が終わり、レッドは痛みから解放される。


――生きて…いる…


レッドはその事実を確認し、ひとまず安堵した。

命さえ奪われなければ、逆転の目はある。

競パン戦士は過酷な環境も生き延びるために、いつも希望を失わない。

しかも、レッドは自身の股間がまだ勃起しているのも確認できた。

下半身が重く熱い。

これは間違いなく彼にエネルギーが満ち満ちている証だった。


そして、すぐさま目の前の敵を確認する。

とりあえず、敵の次なる攻撃を避けなければ始まらない。


――攻撃を避けつつ…、反撃のチャンスを狙う!


競パンレッドは既に自身そっくりの競パンレッドが、こけおどしの偽物であることに気づいていた。

冷静に対処すれば簡単に倒せる相手だ。

レッドは冷静さを取り戻しつつあった。


しかし、レッドの戦意はすぐに挫かれることになった。

レッドの前に立ちはだかっていたのは、巨大化した敵の姿だったからだ。


「なっ…」


あまりのことにレッドは言葉を失う。

レッドは敵の全貌を確認するのに見上げねばならなかった。

そして、その量感にレッドは絶句する。

まるで高層ビルを見上げているようだ。


真下から見る競パンの膨らみも圧倒的な大きさだった。

その大きさはレッドの全身と同じくらいではないか。


「くっ……」


状況がうまく飲み込めず、レッドは絶句する。


「ふはははは!戸惑っているようだね。競パンレッド君」


廃墟のがらんとした空間にダークセイバーの声が響き渡った。


「君は敵である『偽競パンレッド』が巨大化したと考えているのだろう。ちょうど戦隊ヒーローのロボットのようにね」


いつものように人を小馬鹿にするような口調が腹立だしい。

しかし、レッドはその声の一言も聞き漏らすわけにはいかなかった。

今の状況を理解するために、レッドは少しでも多くの情報を得る必要があったのだ。


「だが、偽競パンレッドが巨大化したというのは君の大きな勘違いだよ。なぜなら、偽競パンレッドが巨大化したのではなく、君自身が縮んだのだからね!」


衝撃的な事実がレッドに伝えられた。

たしかに、周囲をよく観察すれば、廃墟全体の空間が大きくなったようにも感じられたし、窓も高い位置にあるようだ。

何より、もし、敵が巨大化しているのだとするなら、廃墟の壁や天井を突き抜けてしまわないとおかしいではないか。

受け入れがたい事実ではあったが、レッドが小さくなったという事実は動かしようもないものだった。


「くっ…貴様たち!俺を小さくしてどうするつもりなんだ!」


レッドは凄む。

それは本来なら敵を威圧する効果があったが、今やウルトラマンのソフビ人形程の大きさになってしまったレッドの声は、ただただキーキーと響くだけで、むしろ滑稽にさえ感じられた。


「どうするって?そんなの簡単だよ。さあ、偽競パンレッドよ。レッドを摘まみ上げろ!」


偽物の競パンレッドは、レッドの頭を指で挟んで、彼の顔まで持ち上げた。

レッドは自分自身そっくりな巨大な顔の前にして、危機的な状況にもかかわらずひどく妙な気分に襲われた。

まるでガリバー旅行記やシューレアリズム作品ではないか。


「いくら世界最強の競パン戦士といえど、小さくなってしまえば倒すのは簡単だということさ。さあ、偽競パンレッドよ!レッドの弱点をつぶしてしまえ!」


偽競パンレッドはつまんでいたレッドを片手に持ち替える。

レッドは巨大な手のなかで必死に抵抗するが、それは巨大な偽競パンレッドからすれば、芋虫の蠕動運動くらいにしか感じられなかった。


そして、ついに偽競パンレッドの親指が、レッドの弱点へと向けられる。

それはレッドの「例の部分」を押しつぶそうとしていた。


「くっそ!やめろ!やめろ!」


その親指の行く先を悟ったレッドが、喉が引き裂けそうな程の悲痛な声で叫ぶ。

しかし、相手は冷徹なロボットである。

命乞いに意味はない。


ついにその親指がレッドの股間の膨らみに触れた。

そして、その指先に力が加えられた!


音がした。

それは虫を押しつぶした時のような音だった。

いや、むしろ梱包材として使われている空気の入ったプチプチのひとつをつぶした時の音の方に似ていたかもしれない。

耳を澄ませていなければ聞こえないような小さな音ではあったが、それでも縮んでしまった競パンレッドに致命傷を与えるのには十分だった。


偽競パンレッドの手の中で競パンレッドは全身を痙攣させる。

偽競パンレッドはその姿が醜悪に感じたのか、レッドを自身の手から放した。

落下したレッドは地面に激突。

そして、体の痙攣も止まってしまった。


「ふん。もういいだろう。拡大光線を照射しろ」


全ての様子をモニター越しに見ていたダークセイバーが言う。

その口調から彼がレッドから完全に興味を失っているのがわかった。


倒れ伏したレッドに柔らかい光が浴びせられる。

まるで慈愛に満ちているかのような優しい光だった。

その光を浴びて競パンレッドは元の大きさに戻っていったのである。


だが、戻ったからといって彼が「股間」をつぶされてしまった事実は変わらない。

地面に横たわる彼は落下の時についた傷が痛ましい。

それ以上に競パンの膨らみがはた目から全く確認できないことの方が、より彼の悲劇的な姿を際立てている。


競パンレッドは完全に絶命している。

それは誰の目にも明らかだった。


「よし。偽競パンレッドよ。レッドの亡骸からクリスタルを奪い取れ!」


ダークセイバーの指令を受け、偽レッドは緩慢に動き始めた。

最早、近くに敵などいないのだから素早い動きなどは必要なかったのである。


偽レッドは競パンレッドの胸板から突き出たクリスタルを「むんず」とつかんだ。

本来であれば必死に抵抗するはずの競パンレッドであったが、もはや彼にはそんな力も意志も消え去ってしまった。

筋肉も生きている頃よりは張りを失っている。


クリスタルはいとも簡単に抜けた。


「はっはっは!ついに最強の競パン戦士レッドのクリスタルを奪うことができたぞ!これさえあれば地球は我々の手に落ちたのも同然だ!」


高笑いするダークセイバー。

彼の意識はもはやレッドのクリスタルばかりに向いており、競パンレッドの肉体のことを全く意に介していないようだった。


最早、レッドの体は処分されるだけなのだろうか?

だが、そうはならなかった。

レッドの体には最後の使い道があったのである。


・・・・・・・・・・・


一時間後、競パンレッドの生体反応が消えたとの報告を受けて仲間の競パン戦士たちが例の廃墟にやってきた。


「くっ…レッドめ…あんな危険な場所に一人で乗り込むなんて」


ブルー、イエロー、グリーン、そしてブラックは悔しさに歯噛みする。

しかし、起こってしまったことは仕方がない。

一刻も早くレッドの安否を確認し、救出しなければならなかった。


廃墟に侵入した競パン戦士たち。

彼らはいとも簡単にレッドを発見することができた。


レッドは廃墟のがらんとした部屋の中央に仰向けで寝かされていた。

股間の膨らみが全くないのに加えて、クリスタルの光も暗い。

かなり危機的な状況であることは間違いなかった。


「レッド!」


慌てて駆け寄ろうとする四人。

しかし、その軽率な行動が彼らの死を招いたのである。


彼らは動き出した瞬間に気づいた。

レッドのオーラが本人のものでないこと、そして、邪悪なオーラがわずかだがクリスタルから発せられていることを…。


突然、クリスタルが輝きだした。

その光は強く、競パン戦士の目を眩ませる。

さらに、クリスタルの光は全方向にまんべんなく放射されたので、競パン戦士たちに避ける手段はなかった。


彼らは光を完全に浴びてしまった。

そう。例の「縮小光線」だ。


「はっはっは。競パン戦士たちよ。君たちはまた我々の罠にかかってしまったようだな」


光が弱まると廃墟全体にダークセイバーの声が響き渡った。


「罠だと?ダークセイバー!この光は何なんだ?もしかして、レッドもこの光でやられたのか」とブルーが叫ぶ。


「ふっふっふ。さすがブルー君、察しがいいね。この光線は競パン戦士を色々な意味で『小さく』してしまう光線なのだよ。先ほどもレッドを『小さく』して倒してしまったのさ。いやあ、小さくなったレッドはそれはそれは情けない姿だったよ」


「何だって!レッドを愚弄すると許さないぞ!」


ダークセイバーの暴言にグリーンが憤った。

本来ならあらゆる敵がグリーンの怒声に怯んでしまいそうな勢いではあったが、ダークセイバー側にかなり余裕があるように見えた。

何せ彼らは既に「光線」を浴びてしまったのだから。


「実は小さくなる光線には色々な効果があってね。別な効果を君たちの肉体で実験させてもらおうと考えているのだよ。レッドの胸に『縮小光線』発射用のクリスタルを取りつけて君たちを待っていたというわけさ。直情型の君たちならレッドの亡骸を見たら、すぐに駆け寄ってくると思っていたわけだが、まさかこんなにうまくいくとは!いやあ、レッドの亡骸を取っておいて良かったよ!」


作戦の成功を確信しているダークセイバーはいつも以上に饒舌だった。

完全に馬鹿にされた競パン戦士たちだったが、彼らが反論することはなかった。

それぞれの競パン戦士の額には汗が浮かんでいる。

何らかの症状が彼らに起こっているのは明らかだった。


「くっ…みんな気づいているか…?」


「あぁ…体がおかしい…?」


「エネルギーの存在がほとんど感じられない?」


「いったいこれはどういうことなんだ」


4人ちたちの体には明らかに異変が起こっていた。

虚脱感とエネルギーの欠乏。

それが示すのはたったひとつの事態である。


――エネルギー生成機関の異常。


四人の競パン戦士はおそるおそる自身の股間に目をやった。


「!!!!」


自身の股間に起こっていた事態に4人は声を失った。

そこにあるはずの彼らのエネルギー生成機関が「消えて」いたのである。


「ない!俺たちの!俺たちの!股間がない!」


四人は必死に自身の股間をまさぐりその存在を探そうとする。

しかし、競パンの中に膨らみはなく、女の股のように平らだ。

それまで圧倒的な存在感で競パンの下に窮屈そうに収まっていた彼らの局部が、消えてしまったのである。


「くっそ!ダークセイバー!俺たちの股間をどこにやったんだ!」


イエローが叫ぶ。

その声は少しばかり涙声になっているようだった。

股間が消えてしまうという事態は彼らにとってはそれだけ深刻なものだったのである。


「くっ…あっ…」


叫んだイエローの後ろで、他の戦士たちがどんどん崩れ落ちていった。

股間を失うというのは生命エネルギーを失ったのも同義である。

立っていることはもちろん、このまま命を維持できるのかも怪しい。


「くっそ…俺たちの股間をどこに…」


悔し泣きをするイエローに対して、ダークセイバーが答えた。


「何、競パンイエローよ。何も泣くことはないよ。君たちの股間はちゃんと本来の場所にあるよ」


「本来の場所だって!?」


イエローが再び自身の股間を確認する。

しかし、やはりそこには膨らみがなく、生地の余った競パンが見えるのみだ。


「そんな…一体どこに…」戸惑う競パンイエロー。


「競パンイエローよ。よく探さないとわからないと思うよ。なんせ君たちの股間は通常の1000分の1のサイズに縮んでしまったんだからね」


「1000分の1だって!?」


今度は残された四人が声をそろえて叫ぶ。

レッドに埋め込まれたクリスタルから、縮小光線が放射された。


しかし、今回のそれは競パン戦士の全身に効果をもたらすものではない。

ある特定の部分…、そう、彼らの最大の弱点である男性器だけを縮小させるものだったのだ。


「俺たちのあそこが…」


「1000分の1だと…」


この事実は競パン戦士たちの心に恐ろしいダメージを与えた。

競パン戦士はひそかに自身の股間のサイズを誇りに思っているのである。

そして、彼らのプライドの源泉であるペニスが顕微鏡でしか見えないようなサイズに縮小してしまった。

その事実は彼らを精神的に痛めつけた。


「うっ…あっ…」


戦士たちは嗚咽を漏らし始める。

彼らは肉体的な痛みでなく、精神的な痛みで泣いたのである。

その惨めな姿をダークセイバーはとても満足げに見守っていた。


「つっ…ちくしょう」


悶え苦しむ競パン戦士たち。

ダークセイバーもいい加減、彼らの辛気臭い醜態を眺めるのに飽き始めていた。

そこで、彼らは彼らに最後の仕上げを施すことにしたのである。


レッドのクリスタルが再び光を帯びて、周囲の戦士たちを照らし始める。

完全に打ちのめされた戦士たちには、最早避ける余力も残ってはいなかった。


さらに浴びせられた光は、彼らの股間をさらに縮小させる。


競パン戦士の股間が消える。


それは同時に彼ら自身が消えることを示す。


「あぁっ…」


光のなかで競パン戦士たちの輪郭がぼやけていく。

彼らの肉体は透き通り、そして、光のなかに溶けてしまった。

後には、彼らが身に着けていた色とりどりの競パンのみが残された。


廃墟に残されたのは数枚の競パンと、股間がつぶれたレッドの亡骸だけだった。


「ふっふっふ!ついに!ついに!やったぞ!競パン戦士たちを全滅させた!」


廃墟のなかでダークセイバーの高笑いが響く。

今この瞬間をもって彼らの地球侵略の最大の障害であった競パン戦士が消え去ったのである。

最早地球はダークセイバーの手に落ちたといっても過言ではない。


これからダークセイバーによる一斉攻撃が始まろうとしていた。

競パン戦士を失ってしまった地球人に、抵抗する術は残されてはいない。



以上

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