第2話「大チャンス?」
破滅 ⇒ 滅亡 ⇒ 亡霊 ⇒ 霊気 ⇒ 気弱 ⇒ …………
このように二字熟語でしりとりをし、二つ目の漢字が次の最初の文字になる。これを俺は「二字熟語しりとり」と呼んでいる。
二字熟語しりとりは面白い。その漢字から始まる『二次熟語』を導き出さねばならない。俺みたいな天才からしたら、普通のしりとりなんぞ、容易な心理戦に過ぎない。そして四字熟語よりかは、二字熟語の方が白熱する。俺の経験上の話では。
この世に「ぢ」や「づ」から始まる言葉はない(辞書にない)ので、しりとりでは『
たしかに、濁点や半濁点が最後になったときは、それがついていないものでもOKというルールにする場合も多い。その場合でも、単語の数が少ない文字に持っていくのが大事である。「る」攻めや「む」攻めなどが有名だ。
しりとりで勝つためには、無論、心理戦が必要だ。
俺からしたら、しりとりというのは、楽しみであっても、お遊びではない。楽しい楽しい究極の心理戦だ。
俺は昔から、ダントツで学校の成績が良い。高校2年生になった今まで、通知表でもテストでも、満点しかとったことがない。
勉強をたくさんするわけじゃないのだ。みんながするから勉強してみるが、授業でやったことは完全に覚えている。記憶力がとても良かった。教科書や資料を読んでみたり、問題をたくさん解いてみたりしてみるが、本当につまらない。
ただ記憶力がいいだけじゃなく、頭も良かった。難しい『らしい』応用問題も、なぜだか即座に解けてしまう。
俺はいつも天才と呼ばれ続けてきた。当然だろう。もっと学力の高い学校へも行けたのだが、コンピュータ関連の仕事に就きたいと思って、少し偏差値の低めだが技術的なことが学べそうな学校に入った。低めと言っても、高い方ではあるらしいのだが。
しかし、俺からしたら当然も当然だが、その天才っぷりとは裏腹に、俺は全然モテなかった。俺も、天才丸出しのガリ勉野郎とかじゃないから、友達ともワイワイやるし、女子ともよく話すが、彼女ができる気配なんて全くなかった。逆に、俺とよく話すような女子とは、徐々に距離ができていくように感じた。
ただ向こうが意識的に離れていくというより、自然に、気付いたら距離ができているような、もどかしい感覚。
だから俺はそういう運命なんだ、彼女は一生できないんだと諦めかけていた。独り立ちして、高校に通っている今でも、女っ気が一切ない。
――しかし今、俺は告白されている。めちゃくちゃ可愛い女の子に。しかも、相手は『死神』という、これを逃したら二度とないであろう大チャンス(たぶん)。
死神がどういう存在なのか、全くわからない。試しに彼女を観察してみると、髪の毛は銀色のロングヘアで毛先が少し巻いていて、瞳の色は神秘的な紺色で、唇は美しいピンク色で。衣服は流行りのファッションっぽいやつ(俺にはよく分からんが)。
死神っぽさは全くない。人間と何が違うのかわからない。分からないことだらけすぎて、かという俺も頭を悩ませていた。
「私と付き合って、そして一緒に暮らしてほしいのだけど」
今、更に要求を出された。『一緒に暮らしてほしい』というフレーズが、俺の頭をぐるんぐるん回っている。
……ですって。こんなに好条件なことってあります? まあ向こうが要求してきてるんですけどね。
「可愛すぎる」
「え?」
俺は思わず声を漏らしてしまった。それに困惑する可愛い死神ちゃん。人呼んで、きゅーと❤ぐりむりーぱー(可愛い死神)。
「ああ、シェラちゃん。ハイ、名前まで可愛い。天使みたい。ん? 天使? シェラちゃんは、死神……。うわっ。死神って聞くと怖くね、なんか。逆に可哀想だわ。……そう可哀想だ。誰だよ、シェラちゃんを振ったやつ。彼女ができない? こんな可愛い女の子に? 意味が分からない」
「…………」
「ほんっと、何考えてんだ。ぶっ飛ばすぞ。えっと……死神のボス、とかいるんじゃねえのか? こんな可愛い子放っておいて、何してんだ? さっさと、顔を出せ! ぶちのめしてやる!」
俺がそこまで言い切ると、急にシェラの顔が曇った。
「アレニズム様を馬鹿にしないで」
「へ? あれにずむって……どちら様?」
「最高死神様よ。一番偉い死神よ」
「ちなみにそいつの性別は?」
「男性よ」
「絶対許さねえ!!」
俺が振り上げた拳を、必死に制するシェラ。……可愛い。すると、ニヤつく俺をよそにシェラは真剣な顔で言った。
「聞いて。アレニズム様も、元々は私たちと同じ女性だったのよ」
「元々は女性? 性別が変わるってこと? どゆこと?」
「そうね――」
シェラは一度手の甲を顎に押し当て考えるようなしぐさをする。そして真っすぐこちらを向きなおして、言葉を紡ぐ。
「――あなたは今わからないことだらけだと思う。だから、全部説明するわ。私があなたにプロポーズしている理由まで含めて全部」
「お、おう。わかった」
興奮しているからなのかもしれないが、理解が追い付かないこの状況も可愛い女の子と一緒に居られて楽しいと思ってしまっていた。
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