DEADLY LOVERS

星色輝吏っ💤

第1話「死神ちゃん」

 ポタッ、ポタッと水の滴る音が聞こえる。


「んっ、んん〰〰。フわ〰〰」


 俺は大きな欠伸をして、目覚ましを止めようとゆっくりと手を伸ばす。


「…………」


 ――ガバッ! 俺は勢いよく跳び上がった。


「――て、鳴ってねええええええ!」


 ドシンッ! ごろんっ。


「痛った!」


 どうやら、ベッドの上から落ちたようだ。


 …………………………。


「――て、ここベッドじゃねええええええ!」


 どういうことだ? よく考えれば、そもそも俺の家にベッドなんてないから、落ちて痛いなんてことはないと思うが……。


 目を擦って、よく見てみる。……うん。ここ、風呂場だな。え、風呂場? なぜこんなところに?


「とにかく――」


 起き上がって、改めて辺りを見渡す。


「――まずは状況整理からだな」


 冷静になれ、なぜ風呂場にいるかもう一度よく考えてみよう。俺は昨日、確かに敷布団で寝たんだが……。


 て、あれ? シャンプー台の下の汚いカビが全くない。それに、掃除せずにそのままにしていた、天井の黒ズミが綺麗さっぱり消えている――いや、そうか。そうじゃないんだ。


 ここは、俺ん家じゃない。少し似ているだけで別の家だ。


 ……まさか、誘拐された? この俺が? 何のために?


「とりあえず外に……」


 はっ! ドアノブに伸ばした手が止まる。


 嫌な思考が脳裏をよぎる。……もしかしたら風呂場に監禁されてるとか? 


 勇気を振り絞ってドアノブに手をかけて、捻る。


 ガチャッ!


「普通に開くじゃん!」


 すんなり開いたドアを抜け、俺が浴室を出ると、そこにはいつもの汚らしいトイレと洗面所は無く、綺麗で清潔な洗面所だった。やっぱり俺の家じゃない。


 そして俺は、怯えながらも洗面所のドアも開けようと手を伸ばす。


 ミシィ……。


「…………!」


 開く途中で手が止まった。


 扉の向こうに、誰かの後ろ姿が映ったのだ。


 髪の長い、少女……?


 あれが……もしや誘拐犯⁉ ヤバい……! 気づかれる!


「――あら、起きたのね。そう怖がらないで。君にはこれから私の彼女になってもらうから」


 バレた! やばい! 殺される……! ――って、今なんつった?


「…………は?」


 意味深な発言をした彼女は「何こそこそしてるの?」と、言いながら勢いよくドアを全開にした。そして、


「だから――彼氏のいない私と……交際してほしいという頼みなんだけど…………」


 少し照れたように言いながら、彼女は俺を真っすぐに見つめた。


 可愛い、と思ってしまった。ただそれだけが、頭の中に残――いや、それ嘘。本当は全部聞こえてる。だからこそ、空耳を疑うわけで。


「今の、聞き間違いだよな。交際してほしい……っていや待て何かほかの意味が……」


「何を言ってるのよ。そのままの意味よ」


 …………しばらく思考。うん。意味わからん。


「……え? おいおいちょっと待て。この俺にプロポーズ? 初めての青春がこの可愛い女の子と? 俺今までプロポーズ成功したことないんだけど⁉」


「はぁ……。別に、性格とか顔とかは相違点がわからないし、もうだれでもいいんだけどね」


 そう言ってから、彼女は俯いて、


「実は私――死町しにまちシェラは、死神の中で唯一、彼氏がいないのよ……シクシク」


 ……沈黙の時間が流れる。俺の目は泳いでいた。疑問と驚愕が、入り混じっていた。


 誘拐犯(?)から『プロポーズ』され、更に『死神』というパワーワード。


 え、ちょっと待てよ?


 彼女が欲しいと嘆いた俺だったが、今はプロポーズされたのに嬉しいという気持ちが現れなかった。


 誘拐されているのかもとか彼女が死神だということからの恐怖のせいか。それともただ単純に、彼女に魅力が感じられなかったせいか。あるいはその両方か。


 俺の青春は、とても複雑になりそうだ。


 彼女いない歴イコール年齢の俺――俵山たわやまミツルに、人生初の彼女ができるのか……?

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