2「知りたい。知りたい。知りたい。」

 一月二日、新年。親戚が来た。


「あんた、あいさつしなさい」


 こう俺に向かっていたのは、母さんだ。もちろん人間の。


「あ、こ、こんにちは(棒)」


「もう、ちゃんと言いなさい(怒)」


「いいのよ」


「ごめんなさいね(謝)」


「いえいえ……ははは(微笑)」


 俺はこの会話が理解できなかった。


 なぜか。


 人はいつか死ぬからだ。


 いつかは死ぬのに、なんでそんなに悠々と話せるんだ。なぜ笑えるんだ。


 『いつかは死ぬ』のが怖い。


 その怖さを紛らわすためにやっている?


 怖いなら死ねばいい。


 俺は怖くない。だから人生を楽しみたい。


 俺にとっての「人生を楽しむ」とは、この世界を知ること。無知ほど、つまらないものはない。でも、ほかの人間の心情が理解できない。


 これはサイボーグになる前からだ。


 大病で苦しんでいたからそういうことを考える暇は、ほとんど与えられなかったはずだが。


 本の面白さがわからない。


 テレビ番組の面白さがわからない。


 ゲームの面白さがわからない。


 ――でも知りたい。だから人に聞いた。


 そうすると人は皆、言葉にできないと言う。


 面白さとは、人に聞くのではなく感じるものだ――そう言うのだ。

 だから俺は死ねない。人間の感情を知りたい。


 知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。し……。


 おっとまたバグった。バグりすぎるとどうなるか俺にも分からない。



 が、自我を保てなくなったら俺はお終いだ。

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