=ODT= <ディストピア>

星色輝吏っ💤

1「休暇 = 襲撃」

 ――アメリカ・××××州――


「映画かぁ。久しぶりだなあ」


 アメリカに来て七日目か。まあこの映画を見たら帰ろう。


「あのぅ」


 声をかけられた。二人の女が細い目でこちらをまじまじと見つめてくる。


「「一緒に映画見ませんかぁ」」


「……構わないが」


 何か目的があるのかもしれないが、まあいい。


 一人でも三人でも同じだ。


 俺達は、チケットを買いに行った。


「『恋のブリリアン』を一つください。席は……ここで」


「恋愛に興味があるんですね。じゃあ……私が楽しませてあげましょうか?」


 俺の耳元に甘い声で囁きながら、体を擦り付けてくる女たち。


「えへへ。冷たい顔しちゃってぇ、こっち見てぇ。楽しもぉ」


「……」


 楽しめたらいいんだが。アメリカに来てからろくなことがない。ゆっくり映画が見たいのに。


「お前らは勝手にチケット買って、勝手に席に座っとけ」


「もーう(棒)」


 さらに密着してくる女たち。気分が悪い。


「好きにしろ」

 

 ――映画は無事に終わった……のだが。様子がおかしい。


 女の一人が小刻みに震えている。


 俺にしっかり密着しているから、その振動がよく伝わる。そして、


「絶対逃がさないんだから(ニヤリ)」


 もう一人ががっしりと手をつかんでくる。


 うっとうしいので振り払おうとする――が、離れない。


 本当に女の力か? あの細い腕でどうやって……。


 手をつかんだ女は、天井を見上げ大きく深呼吸した。そして――


「――絶対殺す(超殺気)」


「……!」


 まさか……こいつらも組織のメンバーなのか……?


 震えている女の方の腕は、あっさり離れた。


 もう片方がどうしても離れない。離せる気がしない。


 くそっつ!


「おっらー!(勢)」


 がしっつ。前方の席の男からも、手をつかまれた。


 ヤバい…どうする? 今、何ができる?


 ……足は自由だ。ただ足をどう使う?


 蹴ってみるか? ……サッカーか。小学校以来だな。


 やるしかないっしょ……!


「おらーっ!(勢)」


 足で前方の椅子を駆け上がり、踵で男の頭を――。


「ナイフ!?(驚怖)」


 そう。一瞬にして、前方の椅子の陰からナイフが現れた。


 避けることはできる。


 できるのだが、このままだと足が椅子に引っかかる。


 結局刺されてお終いだ。


 体勢を整えろ! 体を思いきり捻る。捻る。


 だが腕は片方掴まれている――がしかし、……ふっ。なんでこうも運がいいのだろうか。選択肢は一つだ。



「《ドリルスラッシャー》!!(技)」



 ドリルのごとく俺の腕は回転し、女の手をすり抜ける。


 ゲほっ! この能力は使うとかなり消耗する。吐血してしまった。


 だが、まだ捻じる。捻り続ける。


 そして空中で回転し、着地地点を予測。それと同時に体勢を整え、足が地についたと同時――いやそれよりも少し早いくらいに震えていた女のほうへと転がり込み、男により投げられたナイフを避ける。


 いけた! ドリルになっていたはずの右腕は、もう元通りだ。


 これが俺の〝能力〟だ。


 …ああ言うまでもない。俺はこの能力のせいで、ある組織に追われている。


 能力なんて普通人が持つはずもない。漫画とかで目にする、架空の力だ。俺はこのことを公表していない。したら大問題だ。きっと生きていけない。


 しかし能力を持つ人間となれば誰でもその研究をしたがる。


 つまり、俺を容赦なく殺しに来る、ということだ。


 この女たち――いや震えていた女は違うのかもしれないが――その仲間だろう。


 さて。さすがに動きが早い。血を吐きながらの戦いは気分が悪い。


 早めに終わらせないと貧血になりかねない。


 俺を掴んでいた女はスピードならまあまあなようだ。


 震えていた女は未だびくびくしている。


 このことを知っていた? それで震えていた?


 でもなんで途中から……。


 「!」


 ……女はイヤホンをしている。もう一人の女も、男も。


 早く気付くべきだった。


 組織に脅されていたんだろう。そういう奴は多い。


 新人か何かか? 殺してこないというなら救ってやりたいところだな。


 ――いや、そんなの俺に利益がない。


 無駄な正義感が脳内を支配してくる。


 守りたい。守りたい。守りたい。守……。


 危ない。頭がバグる。


 俺はサイボーグだ。ただ、完全な人造人間ではなく、元人間だ。大病を患っていたらしく、研究中でまだ使用できないはすだったサイボーグにしてしまったために、能力とやらができてしまった。


 俺の他にもこういうやつが数人いるらしい。


 そしてその全員が、組織に追われている。


 これまでにも三人ほど奴らに連れていかれたそうだ。


 すまん。今は見捨てるぞ。ごめんな。


 震えている女にウインクし、急いで映画館から逃げる。


「ふッ……逃げられたか。ちえっ(舌打ち)」


 そんな男の声が漏れ聞こえた。もうベテラン、という感じだった。


 ――ダンッ!


 奴らでも、大きな騒ぎは起こせまい。


 アメリカの警察が大人数で来たら、奴らでもやられるかもしれない。


「あばよ(グッバイ)」


 軽く言い残し、その日は安いホテルで一晩を過ごした。


「早く帰りたいのに……(願願)」


 ――次の日の早朝、飛行機で日本へ帰った。

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