戯れて

 脱衣所から浴室の引き戸を開けて入ると双子ちゃんは並んでお座りしてるわ。

 小っちゃくて、なんて可愛らしいのかしら。

 もし『ぴょこん』って擬音が鳴っても全く驚かないと思うくらいに。


 先ずはシャワーの準備して軽く流したらボディシャンプーで洗いましょ。

 小さな子って体温も高くて熱いお湯は苦手だから、温度は少し低めの方が良いわよね。

 あたしはシャワーヘッドを持って、手の平にお湯を当て温度の確認してから紫音ちゃんと綾音ちゃんの身体を流して行く。

 そしてスポンジにボディシャンプーを取ったら――



「さて順番はどうしようかな? 一緒には洗えないからどうしよう」


「おねぇちゃん。あたし さきなの。あやねと じゃんけんで きめたの」


「そう。紫音ちゃんが先ね。綾音ちゃんはちょっと待ってくれるかな?」


「うん。ねぇね。きょうは しおねぇが さきなのよ。わたし まてるもんっ」


「うん。良い子ね。すぐ洗ってあげるから。寒かったら云ってね」


「だいじょうぶにょ。あたし れでぃ だもん」


「あらぁ。レディなんて難しい言葉を知ってるのねぇ」


「ママがゆーのよ。まつのも れでぃの ぶき なにょって」


「そっ、そーなのね……凄いわ。勉強になるわ」



『彩華さ~ん。こんな小っちゃな子に、なに教えてるんですかぁ。そしてどんな英才教育を施すんですかぁ』



「ねぇ、紫音ちゃん。痒い所は無いかな? 大丈夫?」


「うん。ないよぉ。きもちぃいの」


「はい。こんどは起っちしてこっち向いてね。うん。そう。はい。バンザ~イ」


「ばんざーい。えへへ」


「ふふ。紫音ちゃんも綾音ちゃんも素直で良い子ね」


「うん。いいこだよ」


「わたしの ほうが いいこ だもん。しおねぇママに めぇ されるよ」


「あやね だって めぇって されるもんねぇ」


「喧嘩はダメよぉ。あたしが『めぇって』しないといけなくなるじゃない」


「「はぁ~い」」


「はい。紫音ちゃん。今度は泡あわさん流しましょうね」


「うんっ」


「きゃぁっきゃ。やよいおねぇちゃん。くすぐったいよ」


「ごめんねぇ。でもちょっと我慢しててね」



 あたしはシャワーのお湯で身体のボディシャンプーの泡を綺麗に流しながら手の平で軽く擦って、ちゃんと濯げてるか確認するように丁寧に紫音ちゃんの身体を流してあげる。

 やっぱり脇の下とかはくすぐったいみたいだわ。ふふふ。

 小っちゃな身体を捩って擽ったがるのを視てると、どこか小動物と遊んでるみたいで癖にならないかと心配になるのだけど……

 つい悪戯心が顔を覗かせて擽ってしまいそうになるけど、そこはあたしの我慢が試される時よ。

 とは云えちょっとなら……いやダメよ弥生。

 ちゃんと我慢するのよ。

 振りでもなんでも無いんだからねっ。



「は~い。終わりよ。紫音ちゃんはちょっとお椅子に座って待っててね」


「うん。わかった。ありがと。やよいおねぇちゃん」


「はい。どう致しまして。おまたせ、次は綾音ちゃんの番よぉ」


「はぁい、ねぇね」


「お身体きれいきれいする前に髪をアップに纏めないとねぇ――――はい。良いわよ。それじゃお背中から洗いましょうね」


「ねぇね。おねがい しゅましゅ」


「ぷぷっ。畏まりました」



『まったく可愛らしいったらないわよ。おしゃまな綾音ちゃんは、おねぇちゃんを気取ってみるけど舌っ足らずでちゃんと発音が出来てないなんて』



「綾音ちゃんは時々難しい言葉使うけど、それはママから教わるの?」


「うん。ママが いってる から まね してるの」


「そうなのね。ママって素敵な方だから真似したくなるわよね」


「ママは れでぃ だから わたしも れでぃに ならなくちゃなの。しおねぇ みたく おとこのコ みたいだと およめさんに なれにゃいのよ。だから れでぃに なるの」


「そうねぇ。ママみたいに素敵なレディになれたら良いお嫁さんになれるわね。でも紫音ちゃんも充分に可愛らしくて良いお嫁さんになれるわ。大丈夫よ」


「「うんっ」」



『参りました。完敗ですよ。こんな小さな頃から花嫁修業してるのね。それに比べてあたしったら……』


 アナタモ スコシワ サイカサン ヲ ミナラッテ ショウジン ナサイナ。



 綾音ちゃんの身体も洗い終わったらお次は髪のシャンプーね。

 順番的にも髪の長さからしてもやっぱり紫音ちゃんからかなぁ。

 交代でボディシャンプーしたように待ってくれると思うけど、順番で髪も洗ってあげないと後で喧嘩しちゃったら可哀想だものね。

 それじゃ最初の順番通りにしましょ。


 シャンプーの前にシャワーで髪の毛を湿らさなきゃね。

 っと……その前にブラッシングしないと絡んでしまうわ。

 やっぱり女の子なのだから髪は命なのよ。

 ショートの紫音ちゃんでも必須な工程だわ。

 毛先から解していって全体を満遍なく梳かしてっと……

 柔らかくてサラサラして手触りも気持ち好いわね。

 ずっとブラッシングして触っていたいくらいよっ。



「はぁい、紫音ちゃん。髪の毛にお湯を掛けるからお眼々は瞑ろうねぇ」


「うん。わかったぁ。もうい~いよぉ」


「熱かったら云ってね。掛けるわよぉ――――はい。今度はお身体を真っ直ぐにしてね」


「はぁい」



 あたしは子供用の低刺激シャンプーを手の平に取り、少しお湯で延ばしてから紫音ちゃんの髪を洗い始めたわ。



「お眼々はちゃんと瞑ってるのよぉ。泡あわさんが入っちゃったら痛いからね。ねぇ、綾音ちゃんは寒くない? 大丈夫かな」


「だいじょうぶにょ。さぶくないわ」


「うん、良かった。もう少し待ってて。もし寒くなったらお風呂にドボンってしてね。紫音ちゃんはどこか痒い所は無いかな?」


「うん ないよっ」


「それじゃ、泡あわさん流すから少し前に屈んでみて。うん。そんな感じよ――――はぁい、いいわよぉ。良く我慢出来たねぇ。偉いわ。じゃぁこのシャワーでお顔も流そうかぁ。紫音ちゃんは自分で出来るかな?」


「できるよぉ。いつも してるんだよ」


「うん。あたしにもやって視せてね。綾音ちゃん、ブラッシングしようか?」


「ねぇねの しゅっしゅって きもちぃいのよ。ふわふわ してくれたの きもち よかったの」


「あぁ、さっきシュシュで髪を結った時のことね。そんなに気持ち良かったの?」


「うん。ねぇね じょうず にゃの」


「そう。良かったわ。またしてあげるからねぇ。紫音ちゃん、お顔は流せたかな? あらっ、上手ね。一人で出来るなんて偉いわぁ」


「わたしも あやねも できるんだよ。えらいでしょ」


「「ねぇぇ」」


「うん。紫音ちゃんも綾音ちゃんも偉いわね。ふふふ。それじゃ、紫音ちゃんはドボンってして良いわよ」


「ううん。まだなの。あやねと いっしょに おねぇちゃんの おせなか あらいっこするの」


「二人であたしのお背中洗ってくれるの? 嬉しいわ。綾音ちゃんの髪を洗ったらお願いするわね」



 あらぁ、光栄だわぁ。紫音ちゃんと綾音ちゃんに背中を流して貰えるなんてっ。

 あたしもお背中を流して貰えるんだったら、三人で並んで流しっこすれば良かったかしら?

 真ん中にあたしで、三人で背中流したら今度は反対に向きになるって感じのテレビアニメでよく在るシチュエーションのアレ。

 あのシーンって一回やってみたかったのよねぇ。

 ちょっと残念だけどまたチャンスは在る筈よ。



「ねぇね。おせなきゃ おにゃがし するわ」


「あやねは そっち はんぶん だけだよ。こっち わたしの ぶん だきゃらね!」


「いいわ。しおねぇも こっちは ダメにょ」



『あたしを取り合ってくれてるなんて気分好いわねぇ。本当に至高のひと時だわ。幸せってこう云うものなのかしら?』



「ねぇね。かゆい ところは にゃい かしゅりゃ?」


「おねぇちゃん。きもちいい?」


「うん。とっても良いわ。紫音ちゃんも綾音ちゃんも上手なのね。感心しちゃったわ」


「リオにぃにも パパにも して あげりゅ のよ。じょうじゅ でしょ」


「ママと ばぁばにも して あげりゅん だよ」


「そうなんだぁ。皆さんにしてあげてるから上手なのねぇ。納得したわぁ」


「おねぇちゃん。おてて のばして」


「ねぇね。こっちもぉ。おてて」


「二人共ありがとうね。凄く気持ち好いわよ」



 こうして紫音ちゃんと綾音ちゃんの身体を洗って貰えて得しちゃったわ。

 でも髪はあたしが自分でシャンプーしないと駄目みたいね。

 まだこんなに小さな娘達なんだから、髪まで洗ってくれるのは高望みが過ぎるってもので仕方ないけど。

 でもこうして双子ちゃんと一緒にお風呂すると、世の中のお母さん達が髪をショートにする理由も納得出来るわね。

 毎日の事だと、自分が長い時間かけてシャンプーとブローするの勿体無いって思っちゃうもの。

 時間を有効に使いたいって意味だけどっ。

 あたしは髪をシャンプーしてコンディショナーでお手入れしたら、アップに結って纏めたわ。

 これでお湯に浸かる準備は完了よっ。



「さぁて。お待たせしました。それじゃ三人でお湯にドボンってしようか」


「うん。ドボンするぅ」


「ねぇねの おひざの うえに のっていい?」


「あやね だけ ずるいの。わたしも おねぇちゃんの おひざ のりたぁい」


「いいわよ。紫音ちゃんと綾音ちゃん、二人共あたしのお膝の上でドボンってしよーねぇ」



 あたしは念の為にお湯の温度を確かめてから、紫音ちゃんと綾音ちゃんを先にお湯に浸からせる。

 小っちゃな子って体温が高いから大人が丁度良い温度でも熱がっちゃうのよね。

 直ぐに逆上せてしまったり身体が温まる前に出たがったりするから、少し気を遣ってあげなくちゃいけないわ。

 あたしは半身浴で、少し低めのお湯に永く浸かるのはリラックスする為によくやるから慣れてるのけど、きっと小さな子は飽きちゃうわよね。



「ちゃんと肩まで浸かってお身体を温めるのよぉ。分かったぁ?」


「うんっ」


「ねぇね。なんで おからだ あつく しゅりゅの?」


「それはね、これからご飯を食べたりするでしょ? お寝んねするまでの間に湯冷めって云ってお身体が冷えちゃうの。だからお風呂でちゃんと温まらないとお風邪になったり病気になっちゃうからよ。お風邪さんは嫌でしょ?」


「うん。あやね まえに おかぜさん なって おふとん だったよ。そしたら わたしも おふとん なったの」


「お風邪さんが紫音ちゃんに伝染うつっちゃったのね。お風邪さんになると辛くなっちゃうから、もう嫌でしょ?」


「いやなの。おふとん なると ずっと ねんね しないと いけないの。だかりゃ つまんにゃい のよ。」


「そうねぇ。治るまで寝んねしてると、詰まらないものねぇ」



『二人とも並んでお布団で寝んねしてるの想像したら凄く可愛いわねっ。可哀想だけど氷枕とかおでこを氷嚢やタオルで冷やしたりって、付きっ切りでいっぱい看病してあげたくなっちゃうわ』



「ねぇ。紫音ちゃんと綾音ちゃんはお風呂から上がったら、自分でお身体拭けるのかな?」


「うん! ふけるよっ」


「いつも してるから だいじょうびゅ なにょよ」


「二人とも凄いのねぇ。ちゃんとお身体拭けるのって偉いわ。髪の毛はあたしがドライヤーで乾かしてあげるからね。ブラッシングもちゃんとしてっ」


「ぶらしゅんぎゅ? ねぇね。なぁに それ」


「あぁ、ブラッシングはね。さっきふわふわを着けたでしょ? その時にしゅっしゅって髪を梳かしたじゃない? その事をブラッシングって云うのよ。知らない言葉を使っちゃったわ。ごめんね」


「ふわふわ のね。わかったぁ。また ふわふわ つけて くれりゅ?」


「うん。髪をちゃんと乾かしたら、また着けてあげるわね」



 ふふふ。綾音ちゃんはシュシュがお気に入りみたいで良かったわ。

 今度来る時のお土産に、いろんなお彩のシュシュをいっぱいプレゼントしてあげようかな?

 紫音ちゃんには……そうねぇ――

 活発だからカチューシャが良いわね!

 向こうに戻ったらプレゼントに、二人に似合いそうなのを探しに行かなきゃね。

 急に娘や姪っ子が出来たみたいで愉しくなっちゃうわ。

 何だかお母さんになったらこんな気持ちなのだろうって感じがするの。

 だってこんなに可愛らしいんだもの、色々と着せ替えて眺めて観たいじゃない?


 ソーネ。アタシ モ ミテミタイワ。

 カエッタラ ワスレナイデ サガシ ニ イクノヨ。


 忘れませんよぉっだぁ。

 そんな心配しなくても良いわよ。でもありがとっ。


 浴槽に浸かりながら双子ちゃん達といっぱいお話ししたの。

 ちゃんと身体が温まるようにって意図も在るのだけど、それだけじゃ無くてあたしにとっても凄く愉しい時間だったのよ。

 充分に身体も温まったら逆上せてしまう前に三人一緒にお風呂から上がったわ。



「お身体は拭けたかな? 大丈夫? お背中もちゃんと拭くのよぉ。」


「うん。わかったぁ」


「ねぇね。かみのけポタポタしゅるの。やって?」


「良いわよ。おいで。綾音ちゃんはロングだからちゃんと拭かないとね」


「わたしポタポタしないよ」


「紫音ちゃんはショートだから自分で出来るのね。感心しちゃう」


「わたしも おっききゅ なったら できる?」


「大丈夫よ。綾音ちゃんも直ぐに出来るようになるわよ。はい。これで良いわ。先に紫音ちゃんの髪を乾かすからお着替えしたら少し待っててね」



 あたしは綾音ちゃんの髪をタオルドライして包むように頭にタオルを巻き、ショートの紫音ちゃんから髪にドライヤーを充てて乾かす事にしたわ。

 髪が短いから時間的に早いし、小さな娘だと眺めて待ってるだけって退屈させちゃうじゃない。

 紫音ちゃんの髪を乾かすくらいの時間が、退屈しちゃっても我慢して待てる限界かなぁって。

 綾音ちゃんは何も云わないで視てるから、もしかするといつもの事なのかもね。

 本当にツヤツヤしてて、柔らかくてサラサラの羨ましくなるような髪ねぇ。

 念入りにケアしなくてもこの髪を維持出来るなんて驚きだわ。

 あたしがどんなに念入りにケアしたって、ここまでにはならないもの。



「はぁい。紫音ちゃん良いわよぉ。先に居間の方に行って璃央さんの相手してあげてね」


「ありがとぅ。おねぇちゃん。おにぃちゃんと あそんであげりゅ」


「うん。そうしてあげてね。綾音ちゃん、お待たせしてごめんね」


「わたし いつも しおねぇ さきだから へいき なにょよ」


「そうだったのね。綾音ちゃんはいつも待ってるのね。偉いわぁ。それじゃ、毛先をブラシで梳かしてから乾かすわよ。ロングだと絡まっちゃうから」


「はぁい。しゅっしゅって しゅるん でしょ?」


「そうよぉ。ちゃんと分かってるのねぇ。髪が乾いたらまたアップに結ってあげるからね」


「うん。ありがと。でもねぇ……きのう ねぇね みたいが いいのにょ。みっちゅに むすぶ やつ」


「そうなの? 良いけど、何であれが良いの? やっぱり色んな髪型でおしゃれしたいのかなぁ」


「ううん。ねぇね きのう かわいかったの。だから あれしたいの」


「あら。綾音ちゃん、ありがとう。嬉しいわ。うん。今夜は三つ編みで結いましょうね。もっと可愛らしくなるわよぉ」


「もっと かわいく なりゅの。リオにぃの およめさん にゃんだかりゃ」


「ふふふ。そうねぇ、璃央さんをもっと誘惑しちゃわないとだものねぇ」


「ゆーわきゅ? それ しらにゃい のよ。わたし」


「そうよねぇ。誘惑はね、もっと璃央さんに好きになって貰うって事よ。だからおしゃれしなきゃねっ」


「うんっ。しおねぇ より かわいく なって ゆーわきゅ すりゅっ」



 やっぱり女の子って本能的に可愛らしくなりたいのね。

 何もしなくても可愛いのにお洒落したらもっと可愛らしくなっちゃうわ。

 あたしなんか簡単に負けそうね。

 な・ん・てっ。

 いまは敵に塩を送っときましょ。ふふ。


 あ~んっ。でも紫音ちゃんと綾音ちゃんの敵にはなりたくないわねぇ。

 どうしよっ。

 こんなに可愛らしい娘達に嫌われたくないもの。

 そうだっ! いっそ三人一緒にお嫁さんになれば解決じゃない!


 アナタ ソレ ホンキ ナノ?

 オカシク ナッテナイ? ダイジョウブ?


 あぁ……やっぱりそう来るかぁ。

 その突っ込みは何となく来るって思ってたのよねぇ。

 あたしだって学習くらいするわよ。


 ナッ……ナニヨ。ソノクライ オミトーシヨッ!

 アタシヲ ミコシテ ボケタ ノ デショ?


 ドモったわね。バレバレなんだからっ。

 今回ばかりはあたしの勝ちよ!


 ソーユー コト ニ シテアゲル ワヨ。


 ふふん。あたしの完全勝利ね。

 悔しがるアタシさんが眼に浮かぶわよ。

 顔は視た事ないけど、きっとあたしと同じ顔の筈だし。


 あたしは綾音ちゃんの髪をブラッシングしながらドライヤーを充ててしっとりするくらいに乾かすと、可愛らしい感じを出すのにふんわりと緩~い三つ編みにしてシュシュで纏めてあげたの。

 柔らかい髪の質感と相乗効果で何とも云えない魅力に溢れてるわ。

 お人形さんみたいにガラスケースに入れて飾って置きたいくらいよ。


 アナタ ソレ ハンザイヨ。

 マチガッテモ ソンナコト サセナイ ワヨ!


 もうっ、冗談なのだから真に受けたら負けよぉ。

 こんなに直ぐに出て来るなんて、アナタさっきの相当悔しかったのね?

 憎らしいだけかと想ってたけど意外に可愛いところも在るじゃない。

 これからは『クーデレさん』って呼んであげようかしらねっ。

 

 アタシ ガ イツ デレタ ノヨ?


 ふふん。いまは何を云っても墓穴を掘るだけなのだから、諦めた方が良いのじゃない?


 ――――――――


 あっ。黙っちゃったわ。ふふふ。可愛らしいわね



「綾音ちゃん終わったわよ。凄く可愛らしいわ。お鏡で視てみて」


「ねぇね。かわいく してくりゅて ありがと」


「どう致しましてっ。ふふ。さぁ、璃央さんを誘惑して来るのよぉ」


「うんっ! わたし リオにぃ ゆーわきゅ して めろめろに しちゃうのよ」


「そうね。璃央さんをメロメロにしなきゃね! いってらっしゃい」



 あたしは綾音ちゃんがどんなふうに璃央さんを誘惑するのかって、想像するだけでニマニマしちゃいそうよ。

 双子ちゃん達を優先してあたしはまだ下着を着けただけだから、早く自分の髪も乾かして観戦しながら応援してあげなきゃねっ。

 こんな微笑ましいイベントは見逃せないでしょっ。


 《アァ コノコッタラ モゥ。 ソンナ ヒトゴトデ イイノカシラネ?》


 あたしは髪を半乾きくらいにして、髪をお団子にアップして纏めると着替えを置きにお部屋に戻りそれから居間へ向かう。


 何で昨夜みたくしないのかって?

 それだと綾音ちゃんと被っちゃうじゃない。

 あんなに可愛らしくしてあげたのよ?

 綾音ちゃんと比べられたらあたしが不利どころか確定負けでしょ。

 これはあたしなりの作戦なのよっ。

 でも何の為の?

 まぁ良いじゃない。

 これもいまのあたしの気分だし。

 そうしたかっただけだしぃ。



「リオにぃ わたし かわいいでしょ?」


「あぁ、そうだな。可愛い、可愛いよ」


「ねぇねが してくりゅたのよ。いいでしょっ」


「良かったな。綾音」


「おにぃちゃんっ。わたしも かわいいよ。みてみてっ!」


「うんうん。紫音も可愛いな。良かったじゃないか。良い子にしてたか?」


「うん。わたしたち いつも いいこだよっ」


「いつもってのはちょっと云い過ぎだろ? だから怒られるんだろ?」


「そんなこと にゃい もんっ。いいこ だもんっ!」


「そんな事あるだろうぉ。この前だって婆ぁばに怒られてたしな」


「あれは しおねぇが いたずら しっぱい しゅるから なのよ」


「悪戯するから怒られるんだよ。まったくお前らは懲りないんだから感心するよ」



 あたしが居間に行くと、璃央さんと双子ちゃんが仲睦まじくお話ししてるわ。

 なによっ! 若い娘の方が良いのねっ。ふんっ!

 と云うのは冗談だけど。

 ちょっと云ってみたかっただけよ。


 紫音ちゃんが師匠に怒られた悪戯って何だろう?

 是非聞いてみたいわねぇ。

 きっと可愛らしくて、あたしだったらニマニマしちゃって叱れないような悪戯に違いないのだから。



「お風呂頂戴しました」


「あぁ、うん。さっぱりした? こいつらと一緒だと大変だったでしょ?」


「そんな事ないわよ。お背中を流してくれたり、愉しかったから毎日でも良いくらいよ」


「毎日は大変だよ。彩華さんだって音を上げるんだからさ」


「あら。そうなの? そんな事より紫音ちゃんが悪戯して婆ぁばに怒られたって聴こえたけど、いったいどんな事したのか教えて欲しいわ」


「それねぇ。いつもの事だよ。まぁ些細な事なんだけど躾の一環かなぁ」


「だったら勿体ぶらずに教えてよ」


「なぁ。紫音。弥生ちゃんにお前が何して婆ぁばに怒られたか教えてやれよ」


「うん、いいよぉ。あのね。ばぁばね わたし ぺんって したの」


「えっ? それだけ? その訳が知りたいのよぉ」


「ねぇね。あのね。しおねぇが ばぁばの めがねさん かくしたの。めがねさんの はこ しおねぇの うさぎさんめがねにしたの。あさの かみのごほん みりゅ とき つかう めがねさん とりかえたのよ」


「う~ん……こうゆう事ね? 紫音ちゃんは婆ぁばの眼鏡とウサギさんの眼鏡をすり替えて怒られちゃったって事かな? 神様の御本って婆ぁばのお仕事で使う本のこと?」


「それ違うんだ。俺が補足してあげるよ。神様の本じゃなくて紙の本。つか新聞の事だよ。こいつら新聞って発音出来ないから紙の本なんだ。紛らわしいでしょ?」


「新聞なのね。なるほど。ニュースペーパーとも云うから紙には違いないけど、本では無いわよね……でも書籍って紙で出来てるから間違ってはない……だとしても可愛らしいから全然ありだと思うわ。ふふふ。」


「そうそう。こいつらの云う事はその辺りが紛らわしいんだよ」



 やっぱり可愛らしかったじゃない!

 師匠の眼鏡をウサギさんの眼鏡?

 ウサギのプリントでもして在るのかしら?

 う~ん。謎ねぇ。

 でも、いまは考えるの止めましょ。


 どこまで考えたかしら。えっと……そうよ。

 眼鏡をすり替える悪戯なんて微笑ましくて良いじゃない。

 でも師匠が叱ったと云う事はきっと一回や二回じゃないのね。

 それで怒られちゃったのだわ。

 璃央さんが云ってた『懲りない娘』って頷けるかも。

 悪戯するのも愉しくて仕方ないのよね。気持ちは解かるけど。

 少しずつ色んな事が出来るようになってくると、きっと魔が差すみたいに閃いちゃうのよねぇ。


 彩華さんがこのお部屋に居ないって事はお夕食の支度してるのね。

 お風呂を先に戴いたし、あたしも何かお手伝いしなきゃだわ。

 昨日みたいな豪華な献立じゃないと思うけど、手が在っても邪魔にはならない筈。

 紫音ちゃんと綾音ちゃんは璃央さんに任せて、あたしはお台所に行きましょ。

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