瘡蓋に滲むもの Vol2ー2



「こっち来て。バイクは後ろから支えてるから跨ってみてよ」


「うん。普通に乗れば良いんでしょ?」


「そうそう。そのままステップに脚も載せてハンドルに手を伸ばしてみて」


「ねぇ。これってガソリンタンクにお腹が当たるけどそれが普通なの?」


「そうだよ。タンクを抱える様な感じで乗るもんなんだ」


「へぇ。前傾姿勢って云うのかな、かなり腕に力を入れないと身体を支えられないのね」


「それは弥生ちゃんが実際に疾ってないから、ちぐはぐな感じになっちゃうだけだよ。バイクってハンドルに体重載せたら操れない乗り物なんだ。だから上半身は腹筋と背筋、それに内転筋をメインに使って支える。腕はハンドルに添えるだけってイメージかな」


「内転筋って太腿の内側の筋肉の事よね?」


「うん。取敢えずタンクをニーグリップでガッチリとホールドしてみて。それだけでかなり上半身の自由度が増すから」


「本当だぁ。ニーグリップしただけで腕に力を入れなくても身体を支えられるのね」


「疾しるには腹筋と背筋も使うから頑張って鍛えてよ」


「そうなんだぁ。大変なのね。全身の筋肉を使って乗る感じかな?」


「細かい事を云い出したらその通りだね。動力はエンジンだけどバイクは人間が操る乗り物だから」


「やっぱりトレーニングジムに通って鍛える必要あるかしら?」


「最初からウエイトで負荷掛ける必要は無いかな。弥生ちゃんは腹筋運動を何回くらい出来る?」


「う~ん……三十回くらいかなぁ。最近はやってないし」


「それじゃ全然お話しにならないなぁ。最低百回は出来るようにならなきゃ」


「いまの三倍以上が最低ラインなの? これからは毎日筋トレの日々になりそうだわぁ」


「そう云う事になるね。頑張るんだよ」


「なによ! 他人事ひとごとだと思ってお気楽なもんね。そう云う璃央さんは出来るの?」


「そのくらいのメニューは毎日やってるよ。他にもしてるけど時間ある時はその倍やってるし」


「そ、そうなのね……頑張るしかないかぁ……」


「このバイクに乗る為なら何だってするって啖呵を切ったばかりなのにもう音を上げるのか?」


「あ~。もうぉっ。筋トレぐらいで弱音なんか上げてやらないわよ! やってやるんだからぁ視てなさいよ!」



 璃央さんは眼だけ揶揄うようにわらってあたしを覗き込んでる。

 負けないんだからっ。何がなんでも華麗にこのバイクに乗って雪辱してやるんだからっ。

 こんな挑発のされ方して黙って引き下がったら女が廃るってものだわ!


 アナタ ワ ナニ ト タタカッテル ノヨ。


 決まってるじゃないのっ。

 璃央の揶揄うような憎ったらしいあのとよ!

 あたしはやり遂げて驚かせてやるんだからねっ!




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