瘡蓋に滲むもの Vol2ー1


 ジジッ……ジジッ……

「ねぇ。ずっと探してくれてたの?」

「ああ。ずっと探してたよ」

「迷ったりした?」

「迷子になってた」


 貴女の零れる涙は一向に止まる気配は無い。

 でもそんな事は全然気にならない。 

 この涙には悲壮感なんて欠片も無い

 純粋な歓喜のから溢れる涙なのだと俺は知っている。


「あたしも迷子になってたかも」

「そうか。二人で迷子になってたのか」

「そう。あたしはここから一歩も動けなかったけど迷子だったのよ」



 《何なんだこれは……?》


 ついさっき魅たばかりの弥生ちゃんの涙と同じだ。

 微笑みながら零れるように頬を伝って止め処なく流れる雫。

 俺はあの瞬間ときに美しいと感じてずっと視ていたいと想った。

 それ程までに弥生かのじょの涙に魅了されて釘付けになったんだ。


 理由わけもなく抱きしめたくなる衝動を抑えるのがやっとだった。

 だから軽口で誤魔化した。いや……遣り過ごしたんだ。


 わだかまりが解けて行く。

 理屈いいわけが赦しを得たように感情に溶けて行く。

 仄暗い奥底に晄を魅い出した。

 まるで蜘蛛の糸みたいなあの晄を標にして。

 霞の先できっと待ってくれてる。

 あの瞬間ときのように彼女が。




「弥生ちゃん。カスタムする前にあのレーサーに跨ってみないか? どのくらいライディングポジションが変わるかの確認なんかの意味でも」


「そうよね。あんなにハンドル位置がが低くなると相当違うわよね。うん、甘えさせて貰って跨ってみる」


「出来るだけ明確なイメージが出来るようにスタンドから降ろして跨るのが良いかな」


「面倒じゃないの? さっき云ってたでしょ?」


「視るだけならスタンドから降ろすの面倒だけど跨るなら話は別だし。スタンドの掛けたり外したりってコツは在るけど手間って程じゃないから大丈夫だよ」


「そぉ? それなら遠慮なくスタンドから降ろして貰って乗ってみるわ」

 

 あたしが同意すると璃央さんは「ひょいっ」って感じで簡単にスタンドからバイクを降ろしてくれた。


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