紡がれる刻に彩りを
彩華さんには面白がられてしまったのだけどお弁当はどうしましょ。
そうねぇ……
何を作ろうかなぁ。焼きおにぎりが良いかな?
今朝のご飯がまだ少し残ってるし。
普通にお醤油でも良いんだけどオーソドックス過ぎるかしら?
だったらお味噌をお酒と味醂で伸ばして、刻んだお葱を練り込み山椒で風味付けすると少し変わった感じで良いかも!
璃央さんがお気に入りのご飯だから中には何も入れないでシンプルにね。
あとは定番の卵焼きとウインナーかな。
このメニューだとお野菜が足りないからサラダも必要だわ。
そうだ!お店からここまでの間にお野菜の直売所が在ったわね。
新鮮なお野菜を買ってサロンをお借りして調理すれば、美味しいサラダも自然に加えられるはずよ。
さてっ、メニューも決まった事だし早速作りましょ。
まずは焼おにぎりから。
これは普通にご飯を握って素焼きしたらお味噌塗って、香ばしくなるまで軽く焼いたら完成。
今朝は出汁巻きの卵焼きで少し甘い味付けだったわね。
同じテイストだと飽きちゃうから刻んだお葱とお醤油の味付けが良いかな?
ウインナーは皮に包丁入れて炒めるだけ。
粗挽きコショウを軽く振ってスパイシーにするくらいが良いわね。
サラダは直売所のお野菜を視てから決めればオッケーだわ。
お借りした籐のランチボックスにアルミホイルやレタスをパテーション代わりに敷いてウインナーにプラスチック製のピックを刺したら可愛らしく詰めてお弁当の出来上がり。
「あらまぁ。眼でも愉しめるお弁当になってるじゃない。弥生ちゃんの盛付けって天性のものなのねぇ」
「彩華さん、それはちょっと褒め過ぎなんで照れちゃいますよぉ」
「そんな事ないわよぉ。おにぎりの形を丸くしたり海苔で顔にしてあげたら、あの娘達も喜びそうだわ。このお弁当を参考にして今度作ってあげようかしらっ」
「良いですねっ。あたしも紫音ちゃんと綾音ちゃんに作ってあげたいです」
「でしょうぉ。でも璃央君にキャラ弁は似合わないから、大人用にはこの感じが良いわね」
「キャラ弁を食べてる璃央さんも可愛らしいかもしれないですよぉ」
「弥生ちゃんも璃央君に悪戯したくなっちゃった? ふふ」
「愉しみですねっ。それじゃぁ、婆ぁば、彩華さん。ちょっと早いですけどお弁当届けて来ます」
「あら。車で送って行くわよ。もうちょっと待ってて貰えるかしら?」
「送って貰うなんてお手間を掛けさせちゃいますし、お散歩も兼ねて行く心算ですので。それと途中、直売所でサラダにするお野菜買ったりしたいので大丈夫です」
「そぉ? 殆んど真っ直ぐだから路に迷う事は無いと思うけど、歩いたら三十分くらいは掛かるわよ。田舎で信号もないから車で数分でも距離は在るのよ」
「三十分くらいなら時間的にも丁度いいお散歩になりますよ」
「良いじゃないか。弥生もちょっと一人でぶらついてみたいだろうよ。気晴らしも兼ねて行くと良いさね」
「それもそうね。でもスマホは持ってて。何か困ったら直ぐ私に連絡よ。ねっ!」
「ありがとうございます。彩華さん、了解しました。困ったら頼らせて貰います」
「うん。気を付けてね。いってらっしゃい」
「行っておいで」
「はい。いってきます!」
彩華さんにお借りしたエコバックにお弁当を入れて肩に通してお散歩中。
お野菜を買う心算だから、お弁当だけじゃ大きいけどこのくらいはないとねぇ。
昨日と同じように晴れ渡って良いお天気。
暑くもなく。寒くもなく。
ホント気持ち良いから気分はどんどん上がってスキップしちゃいたくなるくらいよ。
思い出したようにスマホでカシャカシャって写真を撮りながら観光気分で散策してるの。
時々すれ違ったり、畑で作業してる方達に
『こんにちはぁ。良いお天気ですねぇ』ってご挨拶するのも愉しいわ。
何人かは立ち止まってお話ししてくれたりするのよ。
あたしの事は視ない顔だからだいたお聞かれるけど、師匠のお宅に滞在してる旨を云うと皆さん直ぐ笑顔になってお話しも弾むの。
これも師匠や彩華さん、それにお祖父様の人徳あっての事だから失礼の無いようにしなきゃだわ。
「こんにちは。お野菜を譲って下さい。視せて貰って良いですか?」
「こんにちは。この辺じゃ視ない顔だねぇ。どこの人だい?」
「あたしはいま、月詠家の婆ぁばのお宅に滞在してる弥生です。昨日、東京から来てご縁の巡り合わせでお世話になってるんですよ」
「そうかい。しとね婆ぁにご縁が在る人なんだね。並んでるのはみんな朝取りのばかりだから美味しいよ」
「この先のバイク屋さんにお弁当を届けるんですけどサラダにするお野菜が欲しくて……」
「修理屋の璃央君にかい? 確か好き嫌いは無かった筈だからそうだねぇ……」
「ご存じでしたか? そうです。璃央さんにお弁当を作って来たんですよ」
「知ってるも何も。この辺の家は皆、璃央君に農作業の機械やら何やら修理して貰ってるんだよ」
「そうだったんですか。あたし昨日お知り合いになったばかりで何も知らないでごめんなさい」
「謝るような事じゃないからさ。それよりサラダにするんだったね。トマト、キュウリにレタス。今日はサニーレタスがお薦めだよ。それにこのトウモロコシは初物だからサラダにも良いんじゃないかい?」
「初物のトウモロコシですか! 素敵。どれも本当に美味しそうで目移りしちゃう」
定番お野菜のトマトにキュウリ、サニーレタス。
初物って言葉に惹かれてトウモロコシも。
あと凄く美味しそうだったから人参も買ったわ。
さぁて、どうしようかな?
普通にサラダとしてのイメージで盛付けるのも良いけど、何か物足りない気がするわね。
さてさてどんな感じのサラダにするのが良いかしらねぇ。う~ん……
お弁当が焼おにぎりでおかずはウインナーに刺したピックや爪楊枝で摘まめるし。
これも定番だけどスティックサラダかなぁ……
でもトマトが在るから駄目ね。
あっ! そうだわっ!
お野菜をダイスカットにしたスパイシーサラダ。
サニーレタスを器に見立てて盛付けると綺麗よね。
葉っぱで手巻き寿司みたいに包んで食べて貰えば大丈夫だし、手で摘まんでそのまま食べるのって気軽だし何より美味しいもの。
サロンには調味料も揃ってたから問題ない筈っ!
「こんにちは~。お弁当持って来たわよぉ」
「いらっしゃい。弥生ちゃん。早かったね」
「サラダをこっちで作りたくて。それで早目に来たの」
「サロンで作る? 俺ん家でも良いけど」
「それは誘ってるの? ふふふ。魅力的なお誘いだけどまだ早いわよ」
「弥生ちゃんを誘惑できなかったか。残念だけど仕方ない。サロンの方は鍵開いてるから」
「うん、そうする。準備出来たら呼びに来るわ。それじゃ後でね」
あたしは璃央さんと気軽に冗談を云い合ってサロンに向かったの。
さぁ、早速だけど始めましょうか。
トウモロコシの皮を剥いて茹でる所からね。
それと並行してお野菜をダイスにカット。
そうねぇ。七ミリ角くらいかしら?
でも人参は生だとちょっと堅いから食感を併せるのに小さめにしたわ。
人参とキュウリをカットしたらボウルで塩揉みして冷蔵庫で寝かせる。
サニーレタスは洗って外側の大きな葉っぱは器代わりにするからそのままで、残りはダイスサラダを包んで食べられる大きさに千切る。
いい感じに茹であがったトウモロコシの粗熱を取ったら、ボウルに包丁で削ぐように実取りして、冷水を張ったボウルに重ねて冷やして置く。
塩揉みで出て来た水分を捨てて塩加減の確認。
うん!良い感じだわ。
そこにカットしたトマトとトウモロコシを混ぜ合わせて、味付けはタバスコと粗挽きコショウにお塩で調整。
缶詰のコーンを使うともっと手軽に出来るけど、やっぱり旬のお野菜である初物には適わないわ。
こう云うのは巡り合わせだから大事にしたいわよね。
このサラダは少しトマトを多めにして水分が在ると、サルサソースみたいにトルティアチップのディップにしても美味しいの。
お好みでセロリを混ぜても良いし、逆にセロリのディップにしても。
ビールと相性抜群だから試してみてね?
使わない分のトウモロコシはおみやげで持って帰って、紫音ちゃんと綾音ちゃんのおやつ代わりにも良いわよね。
お外の気温は薄っすらと汗ばむくらいで、このサラダも気候的にも冷たい方が美味しいから、盛付けは配膳しながらする事にしてボウルごと冷蔵庫で冷やして置こうかしら。
「璃央さん、準備出来たわよ。お仕事のキリが良くなったらいつでもオッケー」
「ありがとう。弥生ちゃん。もう少しでキリが良いからちょっと待ってよ」
「ここに並んでるのがフロントサスペンションを分解したパーツ?」
「そうだよ。この他にもフォークオイルって云う泡立たない特殊なオイルが必要だけどね」
「へぇ~。泡立たないオイルねぇ。何でそれが必要かは解らないけどそう云うものなのよね」
「うん。簡単に説明すると。ほら、このパーツに小さな穴が幾つもあるだろ? ここをオイルが通過してサスペンションの減衰力を発生させるんだ」
「減衰力? なにそれ? あたしには全く解らないわ」
「そうだよね。減衰力って云うのは、このスプリングの動きを止める為に必要なんだ。スプリングは一度動き出すと伸縮を繰り返す特性が在って、サスペンションではその特性が邪魔になるから早く収束させる為の機構なんだ。簡単に説明するとこんな感じかな」
「やっぱり解らないわ。ごめんなさい。でも必要な機構って云うのは理解したわ」
「うん。物理の話しになるし専門知識がないと理解し難いよね。内部パーツが眼の前に在るから説明が専門的になっちゃったよ。こっちこそごめんね」
「ううん。説明してくれてありがとう。安心してお任せ出来るもの」
「それは任せて置いて。夕方までは掛からないけど予定の変更はないから」
それからお仕事のお邪魔をしないように見学させて貰ってると璃央さんの作業もひと段落したみたい。
昨日と同様にサロンでお食事するのに移動して、お取皿や食器とダイスサラダを盛付けて配膳した。
璃央さんとあたしの二人分の量を用意した心算だけど足りるかしら?
ちょっと心配になるけど、きっと大丈夫よね。
璃央さんは彩華さんの云うように好き嫌い無くモリモリ食べてくれるのが微笑ましくてニマニマしちゃう。
こんなに美味しそうに食べてくれるなんて視てるだけで嬉しいもの。
あたし的にはそんなに手間を掛ける事も無く、ちゃちゃって作ったお弁当なので申し訳ないって想っちゃうのだけど。
でも豪華なお料理だけじゃなくて、食べ慣れてる食材でシンプルなお料理も出来るのよ。って事は分かってくれたかしら?
あたしの意図を酌んでくれると良いんだけどなぁ。
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