師匠のお宅にお邪魔します Vol2ー2
「ご苦労だったねぇ。助かったよ」
「助かっただなんて、そんなそんな。運んだだけですよ」
「それでもだよ。物のついでにもうちょっと良いかい? これを奥まで運びたいんだよ」
「勿論です。お手伝いさせて貰います」
「頼むよ。そこらの物持って着いて来ておくれな」
「その前に一つだけ聞いても良いですか?」
「そりゃ良いけど。何が聞きたいんだい?」
「あちらの観音様の事なんですが、やっぱり婆ぁばが彫られた作品……と云うと観音様に失礼ですから彫刻された像なのですか?」
「あの『十一面観音菩薩像』の事かい? そうだよ。あたしが彫った観音様さ。どうだい。あたしもちょっとしたもんだろ?」
「ちょっとなんて騒ぎじゃないですっ。柔和なお顔や繊細な細工彫りまで芸術品だと思います。あたしは素人なんで、詳細な技術や名称なんかは解らないですけど神々しいです」
「褒めてくれるのは有難いが、あたしの技術なんてまだまだなんだよ。あの十一面観音菩薩像はその戒めでも在るのさ。毎日のように眺めてりゃ、彫った時は気付かなかった失敗も視えて来るもんさな。もう亡くなってしまったが、あたしの師匠はもっと凄かったからねぇ。少しでも高みに近づくには満足なんて無用の長物なのさ」
「素晴らしいお考えですね。これ程までの技術に満足しないで更にもっと高みを目指すなんて」
「学ぶ事を辞めたら衰退するだけなんだよ。だから一生涯掛けて学んで行くのさ。人間なんてそう云うもんだ。また機会が在れば話してやるよ。さてっ! 片付けてしまおうじゃないか」
「はい。お手伝いします。それと、勉強になりました。ありがとう御座います」
「あいよ。それじゃぁ手に持って奥に着いといで」
そう云うと師匠は、どこか照れたような昔を懐かしむような、柔和な笑みを湛えてゆっくりと踵を返した。
奥と云うのは恐らくキッチン? 台所? だと思うわ。呼び方なんてどうでも良いけど。
あたしは師匠に着いて進むと、料理店の厨房並みの広さを持つ明るいキッチンへと足を踏み入れたわ。
そして何となくだけど違和感みたいなものを感じたの。
大きなテーブルの上に一輪挿しが置いて在り、松の葉の枝が差してあるのよ。
お華じゃないのは何でなのだろ?
そんな少しの違和感と疑問を覚えつつもテーブルの上に手に持った物を置いて、玄関とキッチンを数回往復し全部運び込んだわ。
途中から彩華さんも加わってくれたので、意外にも早くあっけなく済んでしまったのだけどね。
師匠と彩華さんは引き続きテーブルに置かれた様々な物を冷蔵庫に入れたり、食器棚に戻したりと手早く片付けてる。
でもこればっかりは勝手の知らないあたしだとお邪魔になるからお手伝い出来ないわね。
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