名前に秘められた想い Vol2ー2



 師匠の「御開き」の言葉が切っ掛けになって、後片付けに取り掛かったわ。

 あたしと彩華さんは食器を洗ったり、少し残ってしまったお料理にラップ掛けしたりと手分けして動いてるの。

 師匠は彩華さんが乗って来た車をサロン前に停め、紫音ちゃんと彩音ちゃんを後部シートにそっと寝かせてる。


 そう云えば、師匠に声を掛けて戴いてからまだ数時間しか経ってないのよね。

 なのに、この居心地の良さったらどうなのよ。

 ずっと前からお知り合いだった様な感じだわ。


『なにか凄く心地好いなぁ』


 ここに来るまで、あたしの内に渦巻いてた閉塞感やら圧迫感やら固定概念やら、その正体は何だか解らないけど、凝り固まってた塊みたいな物が溶けて行く様な気がするわ。

 水面に落ちた雫の波紋が拡がる様に、あたしの心の奥底から湧いて溢れる暖かな何か。

 穏やかに優しくなれる人の傍に居るのがとても落ち着くの。

 この感じって開放感? それとも解放感?


 ずっとここに居れたら良いのに。



 この瞬間ときあたし自身でも気付かない仄かな淡い晄が、あたしのこころに燈ったのを知らないで居た。

 そしてこの声にも。


 《マカセナサイナ。 アタシ ガ チャント シテアゲル。 デモ アナタニ ワ  ナイショ》



 ジジッ……ジジッ……

「そうか。それならその涙を俺に刻んでくれないか」

「刻んでどうするの?」

「忘れないように。寂しい想いをさせないように」

「涙を拭おうとしないのね?」

「だってその涙は悲しいものじゃないだろ?」

「そうよ。悲しくなんて無い」




「良く眠ってますね。とっても可愛らしいです。ほっぺツンツンってして悪戯したくなっちゃう」


「これくらいの子は寝るのも仕事なんだよ。良い塩梅に昼寝させるってのは、なかなかどうして」


「もしかして、お昼寝させ過ぎちゃうと夜に眠くならないから? ですか」


「それも在るんだが。恐らく今夜はこの子達を寝かし付けるのに往生する筈さ」


「それじゃぁ、今は起こした方が良いのでは?」


「そうじゃないんだよ。今日は弥生が家に来るだろ? それでさ。二人共、好奇心旺盛って云うか、物怖じしないと云うか。家は人の出入りが多いから馴れたのかねぇ? 肝が据わってるんだよ。生意気にも」


「生意気な紫音ちゃんと彩音ちゃんって見てみたいですね。きっとそれも可愛いらしいに違いないですもの」



 サードシートやフロアにお鍋や食器やら運び込みながら双子ちゃんを覗き込むと、何とも愛くるしいわね。

 彩華さんの云う通りだわ。まるで天使ね。

 すやすや眠りながら時々ムズっがったりしてっ。

 でも、悪戯したい衝動は抑えてるのよ。大変だったけどね。

 だって、すっごく可愛らしいんだもの……





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