名前に秘められた想い Vol1ー1


 サロンの窓から食後の一服で煙草をくゆらす璃央さんが視えるわ。

 あたしは煙草を吸わないけど、とても美味しそうにゆっくり煙を吐き出す璃央さん。

 師匠や彩華さんは煙草を遣らないみたいだわ。

 でも師匠は煙管きせるで一服なんてしたら、とても画になりそぉ。


 使い終わったお皿等の食器を取り纏めてシンクまで運び、彩華さんに手渡してテーブルの上を片付けたら、ダスターで綺麗に拭いてチェアなんかも整理する。

 彩華さんはあたしから受け取ると、お水に浸しながらお茶の準備と洗い物とを並行させてる様は、実に手熟れてる感じだわ。

 師匠は食事したテーブルから別のテーブルへ移動して、しおんちゃんとあやねちゃんと話して笑ったりしてて。

「完璧な役割分担じゃない?」ってあたしはちょっと悦に入る。



「ねーママぁ。おねぇちゃん おうち きて くれりゅの? ほんとなの? うそ じゃないのよね?」


「そうよ、紫音。弥生お姉ちゃんはお家にお泊りよ。嬉しいでしょ?」


「やったぁ! やったねっ! あやね。おねぇちゃん おとまり だよ。じゃんけんする?」 


「うんっ! しおねぇ しょうぶよっ! じゃぁぁんけん……」


「まっ、待ちなさい二人共! ダメよっ。今日はダメなのよ。お姉ちゃんは今日疲れてるからね。」


「えぇぇぇーブゥーブゥー!」


「ママはケチねっ。おとなってズルいのっ!」


「紫音、綾音。弥生は明日もお泊りだよ。明日の晩に弥生に聞いてみな? それと何だい母親に向かってその云い方は。彩華にごめんなさいは?」


「「ごめんなさい……」」



『えっと? 色々と主語やら何やら抜けてて理解が……出来ないのですが? あたしも関係してるようだし。いったい何のジャンケンなの? すっごく気になるわねぇ』



「えぇ……っと彩華さん。これは? なにが何やらさっぱりなんですけども」


「あぁ。ごめんなさいね。弥生さん。これはね、紫音と綾音のどっちが弥生さんと一緒に寝て貰うかって、決めるじゃんけんなの。謂わば権利争奪戦って所ね」


「それならっ。あたしは全然構わないです。可愛らしい娘達に添い寝して貰えるなら寧ろ大歓迎ですよ。何なら二人共一緒にでも」


「弥生さん、知らないわね? ふふふ。いい? この位の子供の寝相ったら凄いのよ? ゴロゴロごろごろ転がってね。もし両脇に一緒にお布団入れたら、あっと云う間にお布団から追い出されるわよ?」


「そっ、そうなんですか? てっきり抱き枕にされる位だと」


「それが想像と現実の違う所よねっ。そんなだからこの娘達のルールなの。一緒にお布団入るのはどちらか一人だけって。ローカルルールみたいな感じかな?」


「その云い方ですと彩華さんは追い出された事が在るような?」


「勿論、在るわよぉ~。これでもお母さんやってるんだからっ」


「参考にさせて戴きます。あたしの将来の為に……きっと、そう云う未来があたしにも来ると信じて」



 シンジルモノ ニ サチアレ。 オトズレテ ホシイワッ! ホント セツジツニ。




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