意外な一面 Vol1ー1


「おにぃちゃぁぁぁんっ!」


「リオにぃぃぃぃぃぃ!」


「紫音に綾音ぇ! 悪戯したらダメだかんなぁー」



 少し離れた所から元気にぴょんぴょんしながら大声で手を振る、しおんちゃんとあやねちゃん。

 作業の手は止めず顔だけ二人に向けて、笑いながら釘を刺す璃央さん。


 璃央さんがあたしのバイクを修理してくれてる。

 もうタイヤ外してるなんて素早い手際わね。

 あれからそんなに時間経ってないでしょ?

 あっと云う間に修理終わっちゃう感じかな。

 でも時間が掛かる様な事も云ってたのよね?

 これからが時間掛かる作業になるのかしら?

 あたしは『宜しくお願いします』とばかりにお辞儀して。


 双子ちゃんに引っ張られるように作業場の隣に在るドアを開けて、二人を先に通してから店内に脚を踏み入れてお邪魔したわ。

  


「わぁ……」


「おねぇちゃん すごい? すごい? すごいっ?」


「リオにぃ まいにち おそうじ すりゅから きれい なのよ」



 まるで自分の宝物を自慢するかの様に瞳をキラキラさせて『どうだっ!』とばかりに誇らしく胸を張ってる双子ちゃん。

 そしてある意味では異質な空間を目の当たりにして、言葉を失った様に感嘆の声しか上げられないあたし。


 確かにお掃除の行き届いてる綺麗な店内。

 しかしそのインテリアの数々は、およそバイク屋さんに縁の無い物のようにも思える。

 ジュークボックスなんて映画の世界でしか視た事ないわよね? 普通は。


 そして極めつけとばかりに、バーカウンターとバイクみたいな見たことも無いインテリアを兼ねたストゥール。

 オーダーメイドで作った様にしか思えないからきっとそうなのよね。

 ストゥールには驚いたけど照明を暗くすれば小さなバーラウンジみたい。

 腰掛けたら思わず『バラライカを』なんて気取りたくなってしまいそうだわ。


 その異質な空間を言葉にするなら。

 センスが良い! この一言ね。

 狙ってもなかなか出来るものではないのに不自然さがまるで無いの。

 意図的に雑然と視せる神ががったレイアウトバランスも見事だわ。

 恐らく数センチもずれただけで、纏まり無く散らかって視えるに違いない筈よ。

 ギリギリを攻めて、それを維持するなんてとても真似出来ないって思ってしまうもの。

 もう芸術作品と云っても過言じゃないレベルだわ。


 あたしは無意識にスマホを手に取り『カシャッ!』って。



「あたしの知ってるバイク屋さんのイメージじゃない。そうね。ここはさながら大人の秘密基地って感じの場所ね」


「そぉ! パパも いってるの。ひみちゅきちって!」


「パパ おやすみのひ ここ くるよ。なにも しないで すわってりゅ」


「パパもお気に入りの場所なのね? あたしもお気に入りになっちゃったわ」


「あっ! リオにぃ だぁあ!」


「どうですか? 弥生さん。なかなか面白いスペースでしょう?」


「おにぃちゃん。どーしたの?」


「おっ! 紫音、ちょっとタバコ取ってくれよ」


「リオにぃ おたばこは いけない のよ。ばぁば おこられて しらにゃいんだからっ」


「残念! お前達が居る時でも外で吸えば怒られないんだよ」


「べぇっー。おとこ の びょーきは おんなしだい にゃんだらねっ!」


「…………………………」



 もう……眼を真ん円にして絶句しちゃったわよ。あたしはっ!

 女の子でも産まれたその時からオンナって生き物なんだわ。

 侮れないわね……

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