双子ちゃんの吸引力
あれ? 師匠が電話で云っていたお昼って何の事だろ?
もしかして昼食の事かな? お弁当をここで戴けるのかしら?
きっとそうね。
時間的にもその位だし。
こんな天気の良い日にお弁当でお昼ご飯なんて、とても気持ち好いだろうなぁ。
どんなお弁当なのかしら?
お弁当って蓋を開けた時が楽しいのよね。ワクワクして。
あらっいけない。
ちょっと惚けてたみたいだわ。
「それでは穂含さん、バイクの修理を宜しくお願いします」
「任せて下さい。あと僕の事は璃央で良いですよ。穂含って言い難いでしょうし」
「ありがとう御座います。お言葉に甘えますね。璃央さん」
「いえいえ。紫音と綾音の悪戯が過ぎたら構わないので叱って下さい」
「可愛いから甘やかしてしまいそうですけど、頑張ってみます」
穂含さん……いえ璃央さんは苦笑しつつ修理作業に掛かってくれたわ。
あやねちゃんの云ってた笑顔はあれね。
はにかむような優しい愛情の籠った印象的な笑顔だわ。
もう少し璃央さんとお話ししたいけど小さな娘を二人っきりにしてしまってるから心配だわ。
またお話しする機会も在ると思うからいま優先すべきはしおんちゃんとあやねちゃん達ね。
あたしはペコって会釈のようなお辞儀してサロンに向かって踵を返したの。
「やよいねぇね……ばぁばわ?」
二人の顔はちょっと不安そう。
置いていかれて少し落ち着かないのかも知れないわね?
やっぱり優先順序は間違って無かったわ。
こんなにも不安そうな顔をさせてしまってるのだもの。
大人なら何でも無い事でも子供には心配になる事って在るのよね。
あたしはそんな不安を一掃するように満面の笑みで――
「婆ぁばはちょっと御用でお家に行ったの。スグ戻って来るから心配しないでね」
「そうなの……?」
「それまで、あたしと仲良くしてくれる?」
「やよいおねぇちゃん あそんで くれるの?」
「そうよっ! 一緒に遊んでくれるかな?」
ぱぁって、まるでお花が咲くように満面の笑顔に変わる二人が可愛すぎて辛いっ。
だってギュゥってハグしたくなっちゃうもの!
元気いっぱいのしおんちゃんはショートカットで、チョットだけ内気な感じのあやねちゃんはポニテ。
性格や髪型は違うけどお顔はそっくりだから双子さんなのかな?
それに身長も殆んど同じに視えるからきっと間違い無いと思うけど、聞いてみるのはお話しの切っ掛けにもなるし丁度いい話題よね。
何して遊ぶか相談する前に予備知識は有っても損しないわ。
それじゃぁ質問タイムと洒落込みますかねっ!
「しおんちゃんとあやねちゃんは双子さんなのかな?」
「「うんっ!」」
「やっぱり双子さんなのねっ! そうすると一卵性双生児かな?」
「「?????」」
「やよいねぇね? えっと……いちりゃんせいソーセージ?」
「あっ! ごめん、ごめんねぇ? 難しかったわよね? 一卵性双生児って云うのはね、一つの受精卵か――違う……えぇーとぉ……そぉっ! しおんちゃんとあやねちゃんみたいにお顔がそっくりな双子さんの事よ」
「うんっ! わたしと あやねは そっくり みんな ゆーから ソーセージなのよっ!」
あらっやだ……変な言葉を教えちゃったかしら? 双生児を食べ物と勘違いしてるかも?
「パパもママも ばぁばも じぃじも リオにぃも みんなソーセージだいしゅき なのよっ! ばぁばきゅ? すると みんな モグモグ しゅるのよっ! やよいねぇねは ソーセージ きらい?」
「婆ぁば焼いちゃダメぇ!!」
「「えっ???」」
やっぱり変な言葉教えちゃったみたい。どーすんだぁ あたしぃぃ……
「あっ! 何でも無いわ、何でもね? えっとねぇ……食べ物のソーセージと双子さんの双生児は違うのよ。似てるけど違うの」
「やよいおねぇは おりこーさん だね! むずかしいこと いっぱい しってりゅ もん」
「うんっ! ねぇねは おりこーしゃんね!」
ダメだわぁ。可愛い過ぎて何処からツッコミ入れたら良いのやら……
「あっ、ありがとね。しおんちゃんもあやねちゃんもすぐいっぱい解るようになるわ。あたしよりずっとずっとね」
やっぱり小さい子のパワーって凄いわぁぁ。
一卵性双生児から婆ぁばを焼いちゃうまでお話しが飛ぶのだから……
チガイマスヨ!
ワザワザ ヒロッテ スットバシタ ノワ ア・ナ・タッ!
小さな子供ってビックリするほど不確定要素の塊よねっ!
ちょっと興奮して舌っ足らず口調が可愛い過ぎて辛いわぁ。
お持ち帰りしたいくらいよ。ホントっ!
でもちょっと猟奇的過ぎるわよね?
そんな不穏当な考えは頭の隅に追いやってと……
「喉乾いてない? お水飲む?」
「ちゃんと おみず のんだもんっ!」
「「ねぇぇー」」
「ねぇね? おみず のみゅ?」
「そうね。戴こうかしら」
「わたしが ねぇねの もって くりゅわっ」
「ありがとう。でもあやねちゃん出来る?」
「しおねぇの ぶんも わたしが もってきた にょよ?」
「そうなの? 凄いわねぇ。それじゃお願いしようかしら」
「ちょっと まってて いたxxきゅるきゃしら?」
「ぷぷっっ……お願いします」
欲しいっ! あたしもこんな可愛い子ほしいぃぃ!
あたしも女なのだし産めるわよねっ!
いぁっ、産みますっ!
スグ ニワ ムリデショ。 ダンナワ? イナイ デショ?
サイテーデモ カレシ ワ ヒツヨーヨ。
むっ、無理でしたぁぁぁああ!
あたしったら最低限もクリアしてないの忘れてたぁ……
だってお仕事が忙しくて出逢いなんて無かったしぃ。
大学生の頃だって友達以上の感情になるなんて事も無くて、恋愛って都市伝説なのじゃ無いかって想っていたくらいよ。
そうそう、クリアって云えば。
小学生の頃に流行っていた簡単なゲームもクリア出来ないまま放置して、学校の友達との話しに付いていけなかった過去が……
これもあたしのぷち黒歴史だわ。
双子ちゃんって本当に不思議ね?
以心伝心って云うのかしら?
息はピッタリなのに性格はちょっとだけ違うみたいなの。
しおんちゃんは……そぉねぇ……『やんちゃ』って云うのがしっくり来るわね。
あやねちゃんはちょっとはにかみ屋さんで、おねぇちゃん気取ってて『おしゃまさん』って感じ。
でも、ハモって同意する所なんて阿吽の呼吸だわっ!
「はい どーぞ めしあがれ」
「ありがとう御座います。あやねちゃん難しい言葉を知ってるのね? 凄いわ」
「ママがね、ごはん とき ゆーの。いただきます すると どーぞ めしあがれって」
「それで覚えたの? とても素敵なママね! ママの事好き?」
「うんっ! だいしゅきっ!」
「あら。良いお返事ね。しおんちゃんは? ママの事好き?」
「ママはねぇ。きょうあさ、ごはんの ときに めぇって したのよ。だから きらいっ!」
「えっ? そうなの? 何でママは しおんちゃんに怒ったのかなぁ?」
「それはね。しおねぇが わるいの。ごはん たべないで パパと おはなし したから」
「だって パパに おしえて あげたんだ もん……」
「何を教えてあげたの?」
「きのう ねてたらね。ゆめ みたの。それでね、それでね。わぁーってなって。ぎぃーってなって。ばんってなったの」
擬音来たぁぁ! 全っ然解らん……
うん。それは叱られるわよねぇ。何て説明しよ……
「しおんちゃんは これからね。いっぱい大っきくならなくちゃいけないのね。それにはご飯食べなきゃなのよ。ママはしおんちゃんが大切だから、めぇってしたんじゃないかな?」
「うん……」
「しおんちゃんはママに御免なさいした?」
「してない……」
「じゃぁ。お家帰ったら御免なさいしよっかっ」
「ごめんなさいしても……また めぇってしたら……?」
「その時はあたしも一緒に御免なさいしてあげるから、御免なさいしてみない?」
「やよいおねぇも いっしょ?」
「うんっ!一緒よ。だから御免なさいしよーねっ」
「うん。する……」
しおんちゃんは元気一杯だったから気が付かなかったけど、今朝ママに叱られちゃったみたいね。
ちゃんと御免なさいすれば許してくれるわ。きっと。
この双子ちゃんの可愛さにあてられず躾も出来るなんて素晴らしいよね!
あやねちゃんはママ大好きって云ってるから、きっと物凄く愛情も注いでるのよ。
流石、師匠のご家族だわっ!
素敵なママさんなんだろうなぁ。
あっ! そうかっ!
これが師匠が仰ってた『飴と鞭』なのね?
なるほど。これは確かに対をなす両翼だわ。
どちらが欠けても駄目。
こんなに深い教えをたった一言でなんて……
我が師匠ながら畏るべし!
今晩はお家にお邪魔させて戴くからママにもお逢い出来るかしら?
仲良くさせて戴けると良いのだけど。
さっきはあやねちゃんに心配させてしまったから、ニュートラルな気持ちで居ないといけないわ。
璃央さんの時も杞憂だったのだし何事にも先入観は禁物だって事よね。
それに好奇心も在るけど
特にキュートな子供の産み方とか、可愛らしく育てる方法やコツを是が非でもお聞きしたいし。
他にも色々と後学の為にもご教授願いたいものだわ。
「それじゃ、何して遊びましょうか? 皆で出来る事が良いわね」
「やよいおねぇと たんけん したい」
「探検ゴッコ? どこを探検するの?」
「やよいねぇね リオにぃンち ごあんない しゅるのよ」
「「ねぇぇー」」
「あらっ。二人で相談してたの? あたしを案内してくれるんだ。嬉しいわ」
「きまりっ! やよいおねぇ こっちこっち!」
「あぁー! しおねぇダメよ。きち じゃなくてココからよ」
しおんちゃんとあやねちゃんがあたしの手を左右から引っ張り合ってる。
まさに両手に花だわ。これはまさに至福のひと時ね。
これが素敵な男性二人ならあたし的に今世紀最大のモテ期なのだけど……
アナタ ノ モテキ ワ マダマダ サキ ミタイネ。
「折角だから、ここのサロンから探検しましょうか。良いかな?」
「つぎは わたしの ばん だからねっ! イイ? あやね」
「じゅんばんねっ! つぎ しおねぇで イイわよっ」
「どこから案内してくれるのかなぁ? 楽しみねぇ」
探検って言葉に反応したのか、改めてサロンの内装を繁々と眺めて視たわ。
でも何でサロンって呼んでるのかしら?
やっぱり喫茶店とかレストランみたいな雰囲気だからかなぁ。
ちょっとお洒落なインテリアと照明でもっと素敵になりそうだわ。
あたしだったら……そぉねぇ。
板が剥き出しの壁はそのままに木の素朴さを活かして、照明は間接照明で眩しさを抑て少し赤み掛かった柔らかな色調が良いと思うわね。
テーブルには和紙で覆ったキャンドルを灯してお料理の色彩も映える明るさに。
壁にリトグラフや写真を飾るともっと素敵になる筈よっ。
木製のチェアには羊毛やふかふかのクッションを敷いて寛いで貰うのも良いわね。
白いテーブルクロスを斜めに掛けて、天板の少し荒っぽい木の質感とクロスのコントラストで演出してみると良い感じになりそっ。
大きな窓が在るから昼間はお陽様で健康的な明るさを、夜は全体的な照明は暗めにしてお料理が映えるようにテーブルが浮かび上がるみたいにすると、窓から差し込む月光と星の夜空が
そんな昼と夜とで二面性の在るお店って素敵だと思うのよ。
あれっ? 何であたしお仕事の時みたいな事を考えてるんだろ?
まっ不味いわね。このままじゃ重症な本物のワーカホリックになってしまう……
うーん……
でもコーデは好きだし愉しいから良しとしましょっ。
趣味と実益を兼ねてるって考えればオッケー!
「やよいねぇね ここ ごはん つくる ところ なのよ」
「やっぱり厨房設備も在ったのね。と云う事はここは元々お店だったの?」
「ばぁば いってたのよ。むかしパパが やりちらかしたって」
「やり散らかしたって……あやねちゃん意味解るの?」
「ううん。わかんない。でもリオにぃが たまに ごはん つくってるのよ」
「あら、璃央さんってお料理もするんだ? どんなご飯作るのかな?」
「ペリってして おゆいれて ズズズってする ごはんね」
あっ……これ聞くいちゃ駄目なやつだ……璃央さぁん。カップ麺はお夜食程度にして下さぁーい。教育上、良ろしく無いですからぁ。
「そっそうね。璃央さんは男の人だから……ね。たっ、偶ぁ~になら……ね?」
「しおねぇと わたし ちょーだい すると ちょっとだけ くれるの。ナイショって いって」
らめぇぇえ! 璃央さんアウトですっ! こんな小さい子に食べさせちゃうと栄養のバランスがぁ!
「んー。偶にちょっとだけならね? ちょっとだけなら。でもあんまり食べると大きくなれないからね。駄目よ?」
「おにぃちゃん ばぁばに めぇ されるよ。わたし みたもん」
「師匠グッジョブです!」
「ぐっじょぶ? ねぇねの たまに わかんにゃいの」
やだぁ……声に出しちゃったわ。
「そうねぇ、難しくてごめんね。グッジョブはね――婆ぁばの云う事が正しいって事になるのかな? この場合は」
「だから リオにぃ めぇ されるの?」
「そうね。璃央さんはちょっとだけ失敗しちゃったって事ね」
「ふうん。そぉなんだぁ……リオにぃも しっぱい しゅるの?」
「みんな失敗はするものなの。あたしもいっぱい失敗してるのよ」
「やよいおねぇ おはなし いらない。はやく きち いこっ!」
飽きちゃったかしらね。やっぱり小さい子らしくて可愛いらしいわ。ふふふ。
「あぁぁん……そんなに引っ張らなくても大丈夫よ。それじゃ今度はお外の探検しよーね」
「わたしのばんだよ。わたしのばん。おにぃちゃんの ひみつ みるの」
「秘密なの? 視ちゃっていいのかなぁ。でも、それなら璃央さんのお邪魔にならないようにしなきゃね」
「おにぃちゃん おしごとするの ちかくいくの ダメってゆーよ」
「ばぁばも そぉなの。おしごと ちかくだと おしりペンする ゆーにょよ」
「そうね。しおんちゃんとあやねちゃんに痛い痛いさせたくないのよ。きっと」
「ばぁば ペン いたいの。でもママがペンすりゅと ばぁば しないよ」
聴いた事が在るわ。子供にはどんな時でもどこかに逃げ場を創ってあげないといけないって。逃げ場の無い子供は追い詰められちゃうんだって。
「ママも婆ぁばも愛情をいっぱいしおんちゃんとあやねちゃんに注いでるのね。それって凄く素敵な事なのよ」
「おねぇちゃんは おとな なの?」
「うん。そうよ。大人よ」
「だから むずかしいの? わかんない の いっぱい なの」
「ごめんね。あたしは小さい子とお話し慣れてないから大人の難しい言葉使っちゃうのよ」
「ねぇね。おおきく なったら わかりゅ? わたしも」
「解るようになるわ。なるべく易しく云うけど、解らなかったら聞いてね?」
「らじゃぁ!」
らじゃぁって……どこで覚えるのかしら?
あたしも安易に変な事を云わないように気を付けなきゃ。
チョット キガツク ノ オソカッタン ジャナイ?
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