偶然の様な必然の出逢い Vol5ー1
穂含さんが早速あたしのバイクを点検してくれてる。
作業場と言うより小規模な工場といった方が近い、立派な佇まいだったのには驚かされるわね。
出入口近くに大きなツールキャビネットが置かれて、壁には所狭しと様々な工具が整然と張り付ける様に掛けられているの。
あたしが視た事の在るバイク屋さんって、もっと狭くて雑然としてたのに……
土地が在るから広々したスペースを確保出来るのかしら?
それに機能美と云って良いほど小綺麗な感じがするのは、穂含さんの几帳面さの顕われな気がするわね。
あたし達はゆっくりした足取りで近づくと穂含さんに話し掛ける。
「どうでしょうか? 修理出来そうですか?」
「パンク修理は問題なく出来ますね。ただ、少し時間が掛かりますので……」
「なんだい璃央。口幅ったいねぇ。もしや、時間が掛かるから手間賃を弾めとでも云いたいのかい?」
「違う違う。修理代なんて旅先で手持ちが少ないってなら、帰ってから振り込みでも何でもしてくれれば良いんだからそんな事じゃない。もし急いでるなら別の応急処置的な修理で時間の問題はクリア出来るって事でね」
「あぁそう云う事かい。弥生、どうなんだい?」
「あたしの方は時間はいくら掛かっても問題ないのですが……ただ……」
「ただ? 何だって云うのさ?」
「この辺りに旅館やホテルの様な宿泊出来る場所は在りますか?」
「!?……お前さん、まさか声掛けて最初に云ってた気の向くまま来たってのは本当の事だったのかい?」
「はい。お恥ずかしいながら、そのまさかです……」
「はぁっはっは! 益々気に入ったよ。本当に面白い。そんな事なら家に泊まれば良いさ。部屋なら空いてるんだから」
「婆ぁばは旅館をされてるのですか?」
「何て事ない普通の家で、ちょっと広い家ってだけだ。なぁにっ。遠慮は要らないよ!」
「あの家がちょっと広いだけって云うなら、ちょっとじゃなきゃどんだけデカイんだ? 婆ぁば」
「そんなに大きなお家なのですか?」
「ええ。築百年くらいの、他所じゃなかなかお眼に掛かれない御殿の様な家ですよ」
「璃央は大袈裟なんだよ。宮大工代々の家だから古い建物ってのは認めるがね」
「年代を経た建物って凄く素敵でロマンが在りますね。婆ぁば。もしもあたしがお世話になる事がご迷惑で無ければ是非お願いします」
「大袈裟だねぇ。なんせ古い家だから都会の家みたいに快適じゃぁないだろうけど、今夜は家に泊まると良いさ。璃央、彩華に電話しておくれよ」
「了解、了解。弥生さん、婆ぁばは言い出したら聞かないから悪いね」
「いえ。あたしこそお知り合いになったばかりなのに、図々しくも甘えさせて貰ったみたいで」
あれよ、あれよと云う間に、ポンポンとお話しが決まってしまったの。
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