偶然の様な必然の出逢い Vol4ー1


 上の空でお返事だけはしたけど、もしかしてあたしはお祖母様に揶揄われたの?

 何と仰っていたのかしら?

 ちょっとポカーンってしちゃって言葉が頭の中をぐるぐる廻ってる感じだわ。

 えぇっとぉ………………


『そんな所が気に入ったんだけどねぇ』


 あれっ? 気に入ったと仰った?

 お祖母様があたしを? えっ? っと……?

 落ちつくのよ! 弥生っ! 

 反芻してみて! 弥生っ!

 …………………………………………!!


 こんなに恰好良い素敵な方に気に入って貰えるなんて光栄だわ!

 お祖母様みたいにあたしも素敵になりたいなっ。

 こう云う感じに歳を重ねていけたら素晴らしいわよねっ!

 お祖母様をいっその事をお師匠様ってお呼びしたいくらいねっ!

 


「……あの…………婆ぁば? あの……」


「どうしたんだい? 弥生」


「えぇ……っと、もしあたしが師匠とお呼びしたら気分を害されますか?」


「なんだい? 藪から棒に。まぁ、弟子からあたしゃぁ師匠と呼ばれちゃいるが……弟子入りしたいのかい? いったい何処からそんな話しを聴いたんだい?」


「へっ?……弟子入り?…………もしかして本当にお師匠様なのですか?」


「まぁ、一応そう云う事にはなってるよ。あたしゃぁ彫師でねぇ。仏像やら観音様やらの彫刻が仕事なのさ。どうしてそれが判かったのかねぇ」


「いえ。存じ上げませんでした。失礼しましたっ」


「そうかい。なら何の師匠なのさ?」


「人生の……いえ。素敵な女性としての師匠です」


「本当に面白い娘だねぇ。お前さんから視れば年の功ってなだけだ。素敵なんてモンには無縁だよ」


「もし宜しければ秘訣をご教授下さい。お願いします」


「秘訣ねぇ。そんな物は無いんだが。あたしゃぁ昔話と孫の話し位しか出来ない只の年寄りだよ。弥生がそれでも良いのなら構いやしないがねぇ。しかし師匠ってのは無しだよ。そんな戴そうな者じゃないからね」


「判りました。師……婆ぁば。宜しくお願いします」


「全く……何を宜しくするか皆目見当もつかないけどねぇ。まぁ良いさね」



 こうしてあたしは目出度く弟子(仮)入りを果たした。

 ファンファーレが鳴り響かないのは残念だけどっ。

 何となくノリと勢いで云ってしまったけど良いわよね。


 謙虚とは少し違う感じだから、謙譲の美徳ってこういった事を云うのかしら?

 言葉とは裏腹な自信やオーラが漂っていて、逆に凄味の様になってる気がするわ。

 あたしの内では『褥 師匠』として崇拝させて戴きましょ!

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