気侭な一人旅 Vol3ー1
ジジッ……ジジッ……
「ずっと此処に居たのか?」
「そうよ。ずっとここに居たわ」
「随分探したよ。最初から此処に来てれば」
「ありがとう。あたしを魅つけてくれて」
彼の腕が優しくあたしを包み込む。
全身を彼に委ねるあたしをそっと。
『もうっ! さっきから何よ? ノイズ混じりにイメージが投影されるのって』
あたしのバイクは木漏れ陽の路を行く。
風が枝や葉っぱを優しく揺らす。
心が安らぐ自然との共鳴って心地好いわ。
あまり対向車とも擦れ違わないし、まるで貸し切りの路みたいね。
風や樹々達があたしに囁くように優しく包んでくれる。
時々お陽様の晄が眩しく跳び込むのはスパイスみたいなモノ。
穏やかな日に。穏やかなあたしが。
いまここに。
その和んだ心地好い気分を一掃する瞬間は驚きを以って訪れた。
いつの間にか路は樹々のアーチを抜け出してしまったみたい。
そしてあたしの視界は急激に拓けて陶酔の様な心境から引き戻されたの。
あまりにも突然に唐突に眼の前の景色が拓けたわ。
飛び込んで来たのは素敵なお店…………?
「えっ?」
「えっと……」
「これは? これって……畑ぇ……だよね…………すっ、素敵なお店は…………?」
「ドコよぉぉぉおおお!」
あたし思わず叫んじゃったじゃない。どうしてくれるのよ。
『ちょっと待て。あたし』
『冷静になって。あたし』
いやいやいや……
あたしの頭の内で何かが
ゆっくりとあたしの
そっ、そーよ!
樹々のアーチを抜けたからって直ぐお店が在るなんて限らないじゃない。
このまま少し行ったら素敵なお店が佇んでるかも知れないじゃない。
素敵なお店は無くても素敵な景色に出逢えるかもじゃない。
下調べもしないで気の向くままに疾ったのだから仕方ないじゃない。
『そーよね。きっとそーよ。そーに違いないわ』
そんな希望的な自己完結を試みた。
あ・た・し。
少しスピードを緩め、辺りを見廻しながら疾しる。
ずぅぅぅん……………………
あたしの視界に映るは畑ばかりかな…………
「ほうぉっ。イイじゃない。そー来るなら!」
「えェ。イ・イ・ワ・ヨッ。女は度胸って云うじゃない!」
イイエ。 オンナ ワ アイキョウ ノ ホォ デショ。
普段は滅多に出てこない『脳筋なあたし』が猛ってる。
『エンジンは熱くなってもアタマはクールに行けよ?』って
映画か何かで聞いた台詞をどっかのアタシが頭の片隅から囁いたわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます