KAC2022 8回目『私だけのヒーロー』
蛇足:せめて『私』からは100点を
――これは5割が作者の
「行っちゃったか……」
私は駅のホームの奥で歩き去っていく彼を、見えなくなるまで見つめていた――
「……」
――思い返せば、あれは中学1年……つまり2年前の12月頃だったか。
――豪雪で電車が止まっている中、駅のベンチで彼は、私と一緒に電車を待ってくれていた。
「私って、変かな?」
私は、ぼーっとしている彼にしれっと悩みを相談してみた。
「どこが?」
虚空を見つめていた彼の目が私に向けられる。
――『どこが?』って1つしかないでしょう…………
『ぶっちゃけ、アイツ男じゃね?』
『それな!』
『なぁ、誰か触って確かめてみろよ』
『ちょ、お前それはヤバすぎだろ』
『お前行って来いよ』
ガヤガヤと、聞こえる声で話す男子たち。
――小学校の時、水泳の前に着替えをしていると、1人の男子生徒に……見られたことがあった。
――もちろんその生徒は先生にきつく指導されて、親と一緒に私の家まで謝りに来た。
――私は、1日中泣いていた。
「髪、とか……」
――私は決めた。
ここで彼が変だと言ってくれれば、母と私が大好きな髪形をやめて、髪を伸ばそうと。
「髪の……どのあたり?」
「……?ほら、私って皆より髪……短いからさ」
――返事が怖くて、自然と顔が
「あぁ、別に気にしてないし、むしろ……好きだよ」
「え?」
――私の
「あぁ、好きってのはあれだよ?変な意味じゃなくてね!?」
「……そっか、ありがと」
私は顔を上げて彼の目をしっかり見て言った。
「あれ、お前泣いて……」
自然と目頭が熱くなっていた。
――このままここに居たら私は、また泣いてしまう。
――彼の胸の中で、ずっと、そうしていたくなってしまう。
「うん、ちょっとあくびしただけ」
声が少し震えてしまった。
「あぁ、そう?」
バサッと勢い良くベンチから立ち上がり、
「寒くて眠いからさ!コーヒー買ってくるよ!」
「あ…………」
彼の返事を聞かずに自動販売機まで走っていった。
普段は絶対飲まないブラックコーヒーを自販機で購入し、ゴクゴクと勢いよく飲んだ。
「……ぷはぁ、あったかい…………」
気持ちが落ち着いたところで彼の分のコーヒーも買って私は彼の元へ戻った。
「はい、コーヒー」
「え、あぁ、ありがと。いくらだった?」
「いいのいいの、いちいち財布出すのめんどくさいから」
「あぁ、そう?」
そう言って彼は缶を開けて、コーヒーをゆっくりと飲み始めた。
「熱ッッ」
「ふふ……猫舌じゃん」
(可愛いところあるなぁ。)
――彼のお陰で、私は、自分の好きをまた好きになれた。
――自分の好きを、相手の好きに合わせなくてよくなった。
――だって、彼が好きって1回言ってくれれば、他のの誰かが100回バカにしてきたって。立ち直れる。
彼は、私の好きをしっかり正面から認めてくれた。
私のヒーローだ。
私だけの、ヒーローなんだから。
駅から遠ざかっていく彼を見ながら私は言った
「じゃ、
さっき言えなかった言葉を、今更ながら言葉にする。
そんな遅い言葉は彼に届くわけもなく――
「…………」
私は、彼に背を向けて、再び歩き出した。
僕の心は言い出せない 寝癖のたー @NegusenoT
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