話す②
私、どんな顔して教室に戻ればいいか分からなくて。どんな表情でなんて言ってみんなの輪に入ればいいんですか。分からないんです。みんなの反応が、みんなの心が、怖くて。私に注目が集まってるあの場所が怖いんです。あの場所で、私だけ異質だから。変なものはみんな面白がってジロジロ見るでしょ?どう接してたらいいか分からないから、遠巻きにチラッと見たり。もしくは遠慮がちに話しかけたりします。「おはよ、元気…?」って。
気を遣わせてるのが申し訳ないし、どう答えてもまた気を遣わせるだけなんです。だから、教室に行きたくない私にとって、私を教室へ連れていことする人たちが怖くて。でも母も教師もクラスメイトもみんな教室に行くことが正しいって考えてるから、それに反論も反発もできませんでした。ただ、泣いて、ごめんねって泣いて、教室に行かなくてごめんなさいって泣いてました。毎日。
保健室で休んでると、担任の教師が「○○ちゃんどう?」って様子を見にやって来るんです。言われた瞬間に、「ああ、この『どう?』は教室戻れそう?って意味なんだ」って分かって、怖くなって泣いてしまいました。教室に戻れそう?の問いに対して、NOの選択肢しか用意できないことが申し訳なくて、泣いてしまいました。みんな善意で私のことを対処しようとしてくれているのに、私はそれに応えられない。その罪悪感で、また泣いてしまうんです。
それが今もまだ、トラウマなんです。
私、今、カウンセリングに来てるじゃないですか。そして先生にこうやって、気持ちを話してるじゃないですか。
今日、カウンセリングがあるっていうのは分かってました。でも行けなくて。来たら何話したらいいんだろう、先生はこんなカウンセリングが必要な私のことどう思ってるんだろう。カウンセリングだから先生は当然、なぜこの人は不登校になったんだろう、なにが原因だろうって考えますよね。それが怖いです。私のことなんて考えないでください。そこらへんの石ころだと思ってください。石ころの様子を数十分観察するだけです。何も考えなくていいです。石ころはそこにある石ころですもんね。それ以下でも、それ以上でもありません。だからといっても、汚い石ころより、子綺麗にツヤのある石ころの方が先生も観察してて気持ちいいんじゃないかなって思いました。だからせめて、身支度をしよう。そう思いました。汚い石ころからマシな石ころになるために。髪の毛に櫛を通して、ヘアアイロンでまっすぐして、ヘアオイルでツヤを出して。顔も洗って、日焼け止めを塗って、パウダーで肌を白くして。眉毛も描いて、アイシャドウとペンで目をキラキラにして。リップで血色の良い唇も演出しなきゃですね。あと、服もちゃんとしなければいけません。スーパーの端っこにある服コーナーで買った980円の、ヨレヨレになったパーカーじゃなくて。アウトレットで買ったブラウスを着ていこう。
…それができませんでした。そこまでの気力がないんです。体力がありません。何もやる気が起きませんでした。不登校だった時期は2年ほどでした。そのあと引越しして、別の学校に行くとゆっくりとですが教室に行くことができました。はい、そうです、新しい教室には「不登校だった私」を知ってる人はいません。だから、私は転校生のふりをすればよかったんだす。いや、実際、転校生なんですけど。世間一般の転校生に擬態して、転校生らしく「リコーダーってここに置くの?」「理科室ってどこかな?」「このあとは算数だよね?」って聞いていけばいいだけでした。それは、昔の学校ではできないことでした。不登校というレッテルがある私には、もう気軽にはクラスメイトに話しかけられる存在ではなかったんです。引っ越しして環境を変えるしかもう残ってなかったんですね。その方法を選んでくれた親には感謝しかありません。そのおかげで私は普通の生徒になりすますことができたから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます