第31話
まずは、グランド・テックに巻き付いているモノリスのワイヤーをどうにかしなければ。
だが、廻が精神波を送れるのはグランド・テックだけで、モノリスのワイヤーまでをも操作できるわけではない。
「グランド・テック、ダメージレベル上昇中! もう機体がもちません!」
兵士の叫ぶような声が響く。さて、どうする?
すると、痺れを切らしたのか、廻がぐいっと霧香の右腕を握り締めた。そのまま目を瞑るようにと告げる。
霧香には、何をどうしたらいいのかさっぱり分からない。だが、今は廻に従うべきだと、自分の本能が告げていた。
それを自覚した直後、ゴォン、という轟音と共に、グランド・テックに巻き付いていたワイヤーが外れた。四肢と首、計五本全てが地面に落ちたのだ。
はっとして瞼を開き、目を凝らす。グランド・テックの身体各所には、薄い赤紫色の壁があった。
ワイヤーを外され、自由の身になったグランド・テック。しかしモノリスも黙ってはいない。上空から光弾を撃ち出すべく、すぐさま頭上に光球を形成し始める。
それを、グランド・テックは真正面から受けて立った。レールガンを拾い上げ、出力を最大に。
そして、まるで意思の疎通を図ったかの如く、モノリスとグランド・テックは同時に光線とレールガンを撃ち放った。
それは互いの中央上空で衝突、バシッ、と鋭い音がする。接触はほんの一瞬。しかし、この光景を見ていた人間は、自らが失明したと勘違いしたかもしれない。
それほどの光量が発せられたのだ。
霧香は視野を赤外線に切り替えて、状況を見計らった。ごくりと唾を飲む。
モノリスは上部が半円を描くように、グランド・テックは頭部をもぎ取られるようにして、そこに立ち尽くしていたのだ。
「ああ……」
自分でもわけが分からず、息をつく霧香。そんな彼女を現実に引き戻したのは、他ならぬ廻だった。
「まだ終わってない。あの大剣で、モノリスを両断しないと」
廻には当然赤外線視野というものはない。が、状況はきちんと把握できているようだ。
しかし、精神波を受信する頭部アンテナは既に消滅している。どうやって操縦するつもりなのか。
すると、思った以上の力で右腕を引っ張り上げられる。
「バリアをお願い」
「りょ、了解」
すると、グランド・テックが一歩を踏み出した。何の命令も受け取れるはずがないのに。
一歩、もう一歩と足を踏み出すグランド・テック。バリアを介して命令を受信しているのか。
モノリスもまた、全身を震わせて迎撃体勢を取ろうとしている。が、遅い。
背部大型バーニアから水平に推力を得たグランド・テックは、勢いよく前進し、大剣を掴み取った。人間が装備するのとは比較にならない暴風が、グランド・テックの後方から排出される。
そして、目にもとまらぬ速さで大剣を引き抜き、袈裟懸けにモノリスを斬り払った。
その時響いたのは、なんとも心穏やかな鈴の音だった。りん、となったその瞬間――それは、グランド・テックの大剣が引き抜かれることを表していた。
グランド・テックの正面で、ゆっくり向こう側に倒れ行くモノリス。しかし、それでもグランド・テックの気は済まなかったらしい。グランド・テックは思いっきり全身の重量を載せてミドルキックを繰り出した。
今度はドーン、と巨大な銅鑼を思いっきり叩いたような音が聞く者の耳を聾した。
それからグランド・テックは再び両手で大剣を持ち、ズン、と横たわったモノリスを地面に縫いつけた。
モノリスからは不気味な赤紫色の光が発せられていたものの、それもすぐさま収まった。最初に出現してから三十年間、ずっと絶やされることのなかった光がだ。
きっと気が済んだのだろう、グランド・テックもまた、大剣の柄を両手で握りながら、片膝を地面につく姿勢で動かなくなった。
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