繋がる手

lager

私だけのヒーロー

 とあるコンビニ店員の話だ。


 彼は子供の頃から変身ヒーローが好きだった。

 彼のコンビニで、放送中のヒーロー番組とのコラボ企画が実現した時、困ったことに転売ヤーが現れたんだ。

 おまけの玩具目当てだったんだね。

 あの手この手の言い訳で買い占めようとする男に、店員はきっぱりそれを断った。


 その後、小さな手に500円玉を握りしめて来た子供にコラボ商品を売ったとき、その子の嬉しそうな顔を見て、その店員は報われた気持ちになった。


 その子供は家に帰って早速動画撮影を始めた。

 最近の子供はスマホの操作もお手の物。

 手に入れた玩具でポーズを決めて、お父さんにメッセージを送ったんだよ。


 それを受け取ったのは警察官の男だった。

 忙しくて中々帰れない日が続いて、心底疲れ果てた彼のスマホに、『お父さん、お仕事頑張って』のメッセージ。

 もう嬉しいのなんのって。

 涙で視界が滲んでしまったね。


 その滲んだ視界を、一台の乗用車が猛スピードで通り過ぎた。

 おいおいスピード違反だ。

 だけど、その警察官はそれに気付けなかったんだね。


 そのまま車は市街地を走り抜け、とある産婦人科に辿り着いた。

 車から降りた若い男は、必死の形相で分娩室に入った。

 苦しそうな表情の妊婦さん、一体どれほど勇気づけられたことだろうね。


 しばらくして、元気な赤ん坊の声が聞こえてきたよ。


 さあ、今日もまた、その資格を持つものがこの世に生まれ落ちた。

 彼は一体、誰にとってのヒーローになるだろう。

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