番外.私が魔法少女 編

extra-1 Shall we be heroes?

犬がいた。

何か服でも着せられているのか、真っ赤でよく目立つ。

しかも、校門のすぐ横だから嫌でも目に入る。

なのに、誰も騒がないし、そもそも気づいてすらいないように感じる。

誰かの飼い犬?私が知らないだけで日常的な出来事?ではないよね。


「あかりちゃん、あそこ、ワンちゃん見える?」

「んー?ホントだ、ワンコおる!」

「だよね、なんでだろ?」


プリントを受け取りながら前の席にいる沢崎あかりと話す。私が最初に見つけたのかな?


まぁ、いいか。


意識を窓から机へと移し、プリントの空欄に丁寧に名前を書く。

高橋桃花たかはしももか


……


「じゃ、またねー」

「またねー」


……


「あれ?それ冬休みの宿題じゃない?」

「手袋をしているうちはお正月だよ、モカ」

「そんなことはないと思うよ。」


……


「なんで冬のこの寒いときに持久走やるのー!?」

「ホントなんでだろうね。」


……


「あれ?答えが違う。」

「んー、ん?」

「計算はあってるのに…」

「いやなに、落ち着きたまえよ、モカ君。君は初歩的なミスをしている。」

「えっ!?どこ?」

「解く問題が違うのさ」

「……ホントだ。」


………

……


「まだ居たね!?あのワンコ!」

「そうだね、ビックリした」

「休みのうちになんとかするのかなって思ってたけど全然いたよ!」

「しかもなんかずっとこっち見てる。」

「だよね!気のせいじゃないよね!?」


わめくあかりちゃんの後ろ、窓の先にはこちらを、3階の教室をジーッと見つめる例の犬がいる。


「やー、やっぱりアレかな?」

「私もそうだと思う」

「うぇぇ、またかあぁぁ」


うなだれるあかりちゃん。


「うちらなんか呪われてない?」

「そんな気もするや」


私も気だるい。次から次へと嫌になる。




その日から、赤い犬は私を追いかけて、話しかけてくるようになった。


もうすぐ大変なことが起きる。君や君のまわりの人達が危ない。君の力が必要だ。どうか助けてほしい。


四六時中ずっと話しかけてくる。授業中、塾、習い事、家。逃げても逃げてもついてくる。


「私はなにもできない中学生です。無理です。」

「そんなことないテル、君には力があるテル」

「そこの野村君とかの方がありますよ。野球ずっとやってて体力テストも一位です。あちらに行っては?」

「いや、君じゃないもダメなんだテル」


幸い、今のところ襲ってきたりと危害を加えてくる気配はない。


「それが分からないんですよ。」

「ちょっとだけ、ちょっとだけ触って貰えば分かるテル」

「お断りします。」


私の手に頭を擦りつけてこようとする、守護者テルミットとか名乗る気色の悪い犬を避ける。


「大変なことが起きる前にに1回やっとくテル!大丈夫テル、ちょっと魔法少女になるだけテル!」




「今日の当番は2班です。2班の皆さんお願いします。それでは、帰りの会を終わります。さようなら」

「「「さようなら〜」」」


「俺らで机やっとくから、桃花とあかりは牛乳パックやっといてくんね?」

「いいよ〜、ついでに水もやっとくよ」

「頼むわー」


野村君たちが騒ぎながらもテキパキと机を教室の後ろに寄せる中、お昼の牛乳パックが干してあるカゴと小さなジョウロを持ってあかりちゃんと2人、廊下を歩く。


「そういえば、牛乳パックってリサイクルして何になるんだろ?」

「んー、灰とか?」

「燃やしちゃってるじゃん。」


いくつかのゴミ袋の中に牛乳パックだけが入っているものを見つけ、その中に無理やり詰める。


「ムギュッとして、キュッとな。」


口が結びづらく、苦戦しているとあかりちゃんが器用に締めてくれる。


教室に戻る途中でジョウロに水を入れる。


教室から音がしないから、もう机を運び終わってしまっているのだろう。急ぎ足で戻る。


「ごめーん、遅くなったー」


あかりちゃんが扉を開けた。




目に入った光景は予想外だった。

机が後ろに寄せられ、スペースのできた教室の前半分。床に中田くんや三木くんが倒れ、その先には天井が低いとばかりに猫背になっている、ぶくぶくと膨れ上がった化け物がいた。びらびらと細長い手の中からはだらんと力ない野村くんの脚が出ている。

化け物は血走った目で私たちをみると、目や口が多かったり少なかったりする顔を歪めてニタァとわらい、手にしていたものを捨てる。

一瞬見えた野村くんは黒い、じゅくじゅくしたものに包まれていた。


「っぁあ!」


あかりちゃんを引っ張り、戸を全力で閉める。

ドカンと衝突音。


なにあれ、なにあれ。今まであんなのはいなかった。悪夢なら早く覚めて。


逃避に走る頭は、隣で床に座り込んで泣きそうになりながら口元をおさえるあかりちゃんの姿を見て現実に立ち戻る。


「逃げるよ」


あかりちゃんの手を引いて、夕暮れの薄暗い校舎を走る。


――ガラララ


後ろで戸の開く音。




階段を駆け下りているとアレが足や手を使って這うように追ってくる陰が見えた。距離が縮まっている。


どうする?どうする?どうしようもない、どうしようもないよ。


でも、あかりちゃんが私を見ている。

涙をながして、すがるように見ている。


……。


「あかりちゃん」

「ゃだ、だめ」

「大丈夫だよ」


手を離す。背中を押す。


あかりちゃんを逃がし、私は立ち止まってアイツを待つ。




モカがなにしようとしてるかなんてすぐ分かった。いつもみたいに、足の遅いうちを引っ張って、囮になってうちの逃がす。私は足が早いから大丈夫って言って。

実際、それで何度も助かってる。モカも疲れた~って平気で戻ってきて。

なんでそんなことできるのって聞いたら友達だから助けたいじゃん?なんてゆう。じゃあなんでウチは友達置いて逃げてんの?取り繕うこともできないで、悲壮感たっぷりで、大丈夫なんてゆう友達置いてさ。

今回は前までと違うことなんてあの顔みたら分かる。全然大丈夫じゃないことなんて分かってる。でも、ウチがなんにもでないことも、逃げないとモカの頑張りが全部意味なくなっちゃうことが分かっちゃう。


「なんで、なんでかなぁ…?」


ウチはなんでこんなにみじめなんだろ。弱虫で、なにもできない役立たずで、友達を助けに行くことなんてできやしない。


変わりたい。

変わりたい。

だから


「逃げ惑う者よ、汝、力を欲するならば、力はここにありテリ。」


手を伸ばす。


「友のため、存分に振るうがよいテリ。」


黄色のヤギに触れた。






あぁ、我ながらとても頑張った。思っていたよりも時間を稼げた。

あかりちゃんは神社にたどり着けたかな。


グラウンドの片隅で、とうとうコレに捕まった。私を掴むコイツの手の感触が不快で仕方がない。


もういっそのこと、サクッとやってくれないかな。


きっと、私はこいつに食われるのだろう。理不尽だと思う、許せないと思う、嫌で嫌で仕方がない。でも、無理、もう指すら自由に動かない。


(おうち、かえりたいなぁ)






「へーい!そこの彼女!どうせなら最後に魔法少女にならないテルぅ!?」


そういえばいなかった赤い犬がなんかいた。


「力欲しくないテル!?いっぱつ殴り返してやしたいとかさっきの子守ってやろうとか思わないテル!?」


必死の形相で訴えてくる。


「1時間だけ、いや、30分でいいから


魔法少女になろうテル!」





冷えきった心に熱が戻る。ピクリとも動かせなかった体に力がみなぎる。


「はぁぁぁぁぁアアア!!!」


それらを世界へ発露する。化け物の手を振りほどき、醜い顔に拳をたたき込む。


「/UKYACkAUKYA/」


しかし、くり抜かれたかのように穴の開いた顔は下卑た笑みを保っている。


『くるテル!』


乱雑に振り払うように腕をぶつけられる。


「効かないよ」


受け止めた左手の先には、光で作られた壁があった。

不思議だ、体が知っていた。左手に集められた熱は、外界へ抜け出て、光の壁を作っている。

そのまま、腕を押しのけ、裏拳で脇を、顎を殴りつけ、その場で回転し、踵を後頭部に叩きつける。


『魔法少女、いいかがテル?』

「…いいよ。いままで逃げるしかできなかった。だけど、戦うことができる。」

「なら、ウチも一緒に戦わせてよ。モカ」

「え」

「とぉぉぉ!!!」


乱入者の不意打ち飛び蹴りは見事に化け物を捉え、地面に倒す。


そこにいたのは、水兵帽とセーラー服風のワンピースを着たあかりちゃんだった。髪の色も目の色も雰囲気も違う、けれどあかりちゃんだという確信があった。

そんなあかりちゃんの手には、銀色の拳銃が握られていた。


『アステリ!生きてたテル!?』

『当然、死んでないから生きてるテリ。』


テンションが急上昇するテルミット、しかし、目の前では化け物がふらり起き上がる。


「うりぁ!」


あかりちゃんが化け物に銃口を向け、引鉄を引いた瞬間、

――ZAP!

光が閃き、化け物の体は穿たれていた。


「/KYULUKYULuKyULU/」


それでもなお、息がある。随分としぶとい。でも、


「あかりちゃん」

「うん」

「一緒に戦って」

「もちろん」


負ける気なんて全くしない。






化け物から取れた“魔石”を持ち、野村くんたちを見る。

3人とも目覚める気配はなく、野村くんにいたっては真っ黒なマネキンのようで、制服の名札からしか野村くんだと分からない。


『さっき光の壁を作ったみたいに、魔石を活性化させるテル。』


言われたとおりにすると、魔石が輝き、魔石から野村くんたち3人に光の粒子が流れ、3人を光で覆う。


それが収まると、そこには元の姿の野村くんと中田くん、三木くんがいる。眠っているが、息がちゃんとある。


「助けられた…の?」

『あぁ、もう大丈夫テル』


手に握っていた魔石はさっきよりも小さくなっていた。




「もう既に知っているかもしれないテルが、さっきのヤツのような、魔獣と呼ばれる存在が人を襲っているテル。

しかも、恐ろしいことに魔獣は人為的に作られた存在テル。」

「自然には増えないってこと?」

「その通りテル。誰かが目的を持って作り、街に放っているテル。」

「そんな、ことを…」

「許せない、度し難いことテル。でもテルたちだけでは戦うことができない。一緒に戦ってくれる者がいなければ、何もできないテル。」


「ももか、あかり、テルたちと、魔法少女になってテルたちと共に戦ってくれないかテル?」






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魔法少女にされたら才能の塊だったわwww ちりれんげ @Reimon

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