第18話 趨勢

「えー、定例幹部会議をはじめます。今回は久々に堤防から我らが組織のボス、ファドセイさんが来てくれてます。」

「久しぶりファド」

「相変わらず鳥みたいな頭クタ」

「てめぇもだろうがファド」




「クタからの報告は以上クタ。」

「会話可能な怪人か。集団の奴と魔法少女と一緒の奴らはみんなそうなんだろうな。」

「アイツらに先を越されたのは腹立つファド」

「クタとしてはファドと同じ気持ちクタ。」




「という感じファド。」

「これは…マズイですね。」

「感ずかれたか?」

「ハッキリとは分からないが、怪人がウロウロしてて迂闊に動けんファド。」

「ところで計画のほうは?」

「最終段階ファド」

「じゃあ、かなり手荒にやっても大丈夫ですね。」




「装備の配備が間に合っててよかった。しかも、おまけ付き。」

「ですね、それじゃ、やりますか、怪人殲滅作戦」






「お、おつかれ。会議どうだった?」

「またアイツらと戦わなきゃならないクタ。」

「そっか、じゃあまた戦える訳だ。」

「悪いクタね」

「いや別に全然。ならアイツら3人とも戦える気がする。」

「気に入ってもらえたみたいでよかったクタ。」


俺の手には鞘に入った剣があった。

重厚な黒の上に金の様々な細工がなされており、柄も細かな装飾が施されている。引き抜けば薄く長い刀身がその姿を俺たちの目に映る。


「日本人的にはやっぱ違和感あるな」

「日本刀と違って片手で扱かうことがメインにできてるからクタ。あと何度も言うクタけど、斬り合えるようにできてないから、絶対にやっちゃダメクタよ?」

「へいへい。」


俺はクタに手を伸ばし、変身する。


サーベルに魔力を流し、呟く


満天星どうだん


俺の背には大量の幾何学的模様が浮かぶ。


「こんないかにも魔法使いなもの渡されたら、喜んで魔法使うから安心してよ。」






「今回の作戦目標は怪人の殲滅だ。」


開始した作戦は当初の予想とかかけ離れた展開となかった。

堤防に点々と集まる怪人達を各個撃破するという流れを元々は予定していた。それは昨日までなら問題なく遂行されたであろう。しかし、今日は違った。


「聞いてた話と全然違う」

「俺もだぜ鳥ちゃん」

「誰がこんな作戦建てたの?」

「オレク隊長」


「敵砲撃くるぞ!!」


「あ〜も〜」


羽鳥が呪文を唱え、蔦が伸び、隊員達をトラス橋から放たれるノナクの砲火から守る。


堤防からその対岸の堤防まで垂直に伸びる400m近い大橋、そして、その付近の堤防と河川敷に怪人、魔法少女が集結していた。


少数の敵を叩いて潰してやろうと油断してノコノコと突っかかっていったオレク隊は想定以上の敵を前に防戦一方となる。

今は羽鳥が魔法で隊員を強化し、各種攻撃から守っているため敗走にまで至っていないが、それも時間の問題だ。


「ナイス、鳥ちゃんまだもつ?」

「なんとか。そっちは?それと青色は?」

「こっちもなんとか。青色は動いてない」


赤色の少女シーゲアの盾と羽鳥の蔦が入り交じる戦場の中、組織側の火力が集中している場所がある。


「あのボロボロの盾?」

「そう」


青色の少女が隠れている地点だ。

先程から彼女がいたところは盾が砕けるまで撃たれ続けている。

しかし、彼女を抑えつけるのに火力を使っている分、ただでさえ数が足りていないのに更に火力不足となり、被害が増えている。


「これからどうするの?」

「隊長しだいかなぁ」


そろそろ逃げるか、と羽鳥が考えたとき、数多の流星が頭上を通る、敵陣で爆ぜる。

そして、砲塔と鋼で身を包みゴツゴツとした車体に、文字通り上に乗っかったり、しがみついている者たちがいた。

多くは見知った鎧に身を包んだジェイ隊の皆。その中に紅一点、先頭で指揮刀を掲げ自慢げにしている彼女がいた。


『『『ジェイ隊!見参!』』』

「やっぱ恥ずかしいっすよコレ。」


そうは言いつつ、彼女もポーズを取っていた。






『俺に続けぇぇぇ!!!』


ジェイ隊の突撃を支援するように魔法を放つ。絶え間なく大量の魔弾を放つ、辺り一帯をひっくり返すような、魔弾の砲雨を降らせる。夜が昼間のようにな明かりに照らされて世界の輪郭がハッキリする。

たまに飛んでくる銃弾や怪人を増量キャンペーン中の黒帯で防ぎ、叩き落としているうちに戦いの流れは完全にコチラのものになる。

魔法少女連中含め、敵を弾幕で押さえつける。どんどん前に進む。


「勝てる」


したり顔で呟いた俺に黄色ノナクの砲弾が飛んでくる。


「んにゃわくの!?」


しかし、直前で砲弾は大鎌に斬られ、いや、《消され》、俺は事なきを得る。


「大丈夫だった?」

「あ、うん」

「失敗すると爆発しちゃうから緊張したよ〜」


そう言って羽鳥ちゃんは俺の肩に手をのせ、指をさす。


「頼りにしてるから、頑張ってね」


羽鳥ちゃんはそう言い残し、赤褐色のポンチョをはためかせながら後ろに下がっていった。魔力がもうないのだろう。


「よし、やるぞクタ」

『別にクタは必要ないだろクタ。』


動揺をクタに見抜かれつつ、河川敷に降りた敵と魔法少女達のいる大橋に魔法を放つ。


潰してやる。近距離を完全に捨て、命中精度を捨て、弾速を捨て、タイマンの殴り合いなんてする気は一切ない。 対価として得た絶対的な火力で制圧する。もし、かいくぐって俺の所まで来て、討ち取られれば負け。その時はきっとあっさりだろう。

有利時はとことん有利だが不利な盤面はとことん不利になる。

圧倒的優勢に見るが、砂上の楼閣なのだ。

だから、今、優勢の今、潰す。


「ふはははは!俺の弾幕から逃げられるかな!?」


奥に奥に逃げる3人の魔法少女を追って大橋を進む。




大橋の3分の1の地点まできた。


赤色が盾を斜めにして俺に角が向くようにして後ろの面々をかばう。

砕け散った盾の後ろにまた別の盾が置いてある。横幅を捨てて、奥行を使った分厚い防御を展開しているらしい。


「うぉ、危ね」


攻撃に集中していると黄色を忘れそうになる。

増量延長キャンペーンをしている黒帯を伸ばし、迎撃。爆炎も届かない。


その間も魔力の塊、光弾を撃つことをやめない。


「宇宙船になった気分、にしても、こいつら一体何してたんだ?」

『さぁ?クタも分からんクタ』


魔力量と火力で封殺している現状は以前と比べてとにかく楽だ。余裕をこいてクタとの会話に興じる。


「最近はこの辺でずっとウロウロしてたんだっけ?」

『そうクタ。中には川に潜っている奴もいたクタ。』

「まぁ、広いし深いから夏になると泳いでる奴もいるな。」


親の話では昔はよくこの川で泳いだらしい、俺はないけど。


そんなふうに視線を一瞬横に向けた時に、見えてしまった。


川が…光っている。水底に線が引かれ、その線が輝いている。その線たちは曲がり、折り重なり、どこか電子回路にも似た、何か意味のある紋様を描く。俺が展開しているような、を。


ぶくぶくと水が泡立つ。稲妻が走る。水流は自然の理を捨てて魔法陣に沿うようにグルグルと周る。

時空が裂けた。

眼下に宇宙がある。何も無いけど何かがあるりその先に無限の広がりがある。本能の警鐘がガンガン鳴る。理性と狂気が混ざり合う。

しかし、そのあってない虚実の世界はスルスルと萎み、時空はパチンと閉じる。《あるもの》を残して


軍艦、ひとことで言えばコレに尽きる。橋の上から見てもデカい。砲塔、機関銃、艦橋、煙突、が立ち並ぶ。全部含めて一体何メートルあるのか。

河川敷で生きながらえた怪人達が歓喜の声を上げて走っていく。


「『なんだそれ!?』」






この時、意識が完全に船に向いてしまった。攻撃の手が止まってしまった。そして、彼女たちはその隙を逃してはくれなかった。


「「今!」」


赤色の少女シーゲアは真っ白な長弓を構え、青色の少女ハープーンが飛び出す。


帯は間に合わないと、手に持っていたモノで身を庇ってしまった。


欠けるサーベル。


「もっろ!?」

『だからそういったクタ!』


とにかく、青色だけは止めなければ。

辛うじて生成できた魔弾を青色に差し向ける。

だが、俺が目にしたのは


「一、二、三、四、五、六」


魔弾を斬りながら一歩、一歩押し進む青色の姿。


ああ、確かに銃弾と比べてはるかに遅く、弾だって大きい。だが、それでも銃弾と比べてだ。


逐次ではなく、溜めて、同時に複数の方向から攻めなればならないのは分かる。でも、これを止めた瞬間、止めた瞬間にコイツは喉元を食い破ってくる、確信めいた予想。

止められない、止められない。


「十ぅ!届いたァ!!!」


パキン、絶望の音。右手の先には折れたサーベル。


そして一か八かと上に飛んで、青色の薙ぎ払いを避ける。



『おい立町!撤退するぞ!不味いことになってる!』

「無理ですぅ!サーベル折っちゃいましたぁぁ!!!」

『そうか、達者でな、立町』

「見捨てないで」『この薄情者クタァ!』



青色と赤色に挟まれ、前と後ろからの攻撃に対処を強いられる。


「まっずいまっずいまっずい」


必死に黒帯達を操る。

とにかく逃げる隙を探す。

逃げ道はある、だが、このままだと撃ち落とされる。






ぽつん、影がひとつこちらを見ている。


中には誰も何もいない。ただ、真っ暗な闇が赤褐色のポンチョを着ていた。


影は蝋燭の炎のようにユラユラ揺らめき、背丈は2メートルはある。袖先からただれでた影は太く、大きな塊になって羽鳥が持っていた大鎌を握っている。

フードの中に2つ、空色の炎、普通なら目玉がある場所。輪郭は分からない、だが、その形は決して人間のそれではない。クチバシのように突き出た口には頬の後ろまで細かな歯が並んでいる。


「羽…鳥……ちゃん?」


ヒッと漏れた悲鳴は誰のものなのか。


悲鳴に呼応するようにユルリと影が近寄る。


「死神…」


呟いたのは青色の少女ハープーンだった。


「せやァァァ!!!」


彼女は鬼気迫る表情で影に袈裟斬りを放った、そのはずだ。

間違いなく、赤褐色のポンチョに当たった。その先の、肩から腹へと刃は滑った、なのに、彼女の渾身の一刀は空を切った。


「なっ」


彼女は信じられないとばかりにもう一度斬りつける。しかし、ヒュっと風を切る音がたつだけだった。

しかも、影にはその風すら当たっていない。コイツはそこにいて、そこに存在しないのだろうか。そんな妄想をしてしまう。


次に刃を振るったのは、影だった。


青色は切り裂かれた。




影は次に赤色に向かった。


赤色は懸命に盾を構え、展開する。恐慌状態とはいえそれは普段と変わらない、いつもの堅牢な盾であった。赤色は盾に囲われ、俺からは盾しか見えなくなった。


影はそんな大盾の林を真一文字に両断した。全てを切った。


崩れていく盾、その下には、きっと、赤色が


影は頭部だけを回してがこちらを見る。目が合う。


そこからは、理性を介さず、本能に従い俺は動いた。魔力不足でひび割れ、変身の解けかかった青色を抱えて、橋から飛ぶ、初めて魔力を使ったように、空中で姿勢を整え、川に落ちた。

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