第16話 再会

 運が良かった。もし、彼女が激情に駆られたまま動いていたら。何も言わずに斬りかかってきたら、その一刀のもとに斬り捨てられていただろう。



「何故、何故、貴女が死神と居るの?セレスティアさん」

 うろのような目で首を傾げている少女。



 黒髪の中を彩る青、シャツの右胸から背中に咲く桔梗が青からこの少女を青色と呼ぶことにしよう。

 体の左側を守るように付けられた篭手や肩当、胸当など見ると、下はロングスカートではなく袴であることに気がつく。

 だが、それよりも、失望に満ちた赤錆のような目が、憤怒が溢れて震える手に握られた薙刀に目線がいく。


「まだ君たちに名乗った覚えはないんだけど」


 目が離せない。

 この少女は限界まで振り絞られた弓に等しい。あとはもう手を離すだけだ。なら、1秒後、1秒前、どんな瞬間放たれてもおかしくない。


「…ねぇ?何故なんです?」


「何故?どうして?」


「なんで?」


「なんで?なんで?」


「なんで貴女が…」


「貴女が!!」


「銃を向けている!!!?」


「貴女と共にいるのが!!!」


「ソイツなの!!!!?」


 絶叫、青色の少女は眼前いた。

 薙刀の刀身が煌めく。

 咄嗟に銃を掲げて身を守れたのは偶然だ。


「壁を消してシーゲア」


 ボソリと呟きが聞こえた。


「はやく」






 壁が消え、自由に動ける場が広がる。


 俺は後ろに飛び退いて距離をとる。少女は逃がさないとばかりに迫り来る。軍配は彼女に上がった。


「っ!?」


 想定以上に速い彼女に向けてやぶれかぶれに撃つ。


 彼女が弾を避けて、軌道を変えた。薙刀が俺を狙う。




 首、右脇、脚

 上段か、中段か、下段か

 三択




 5本の細く黒い帯が俺の影から伸び、俺の脚を斬ろうとした薙刀とぶつかる。


 新たに習得した魔法に命を救われた。


 引き金を引く。


 しかし、クッと身をそらされて避けられる。


 流れるようにそのまま薙刀が再び振るわれる


 切り上げ


 手、いや


 反射的に腰を引く


 できた隙間に突きが飛ぶ


 体制が崩れるのを利用して前転宙返り


 薙が来た。


 あのままだだったら胴に食らっていた。


 1連のコンボが終わった硬直



 だが、完全に相手の間合い、有利不利なら硬直を含めてなんとかイーブン。前か後ろに行きたい、しかし相手の方が速い。


 弾避けとか嘘みたいなことができる奴だ。


 速いステップ、発生の早い攻撃、流れるような連携、短い硬直


 手練だ、詰んだかも。


 そして彼女は右に左にとブレて狙いがつけられない。


どうする、飛び込んで近接は冷静に対応されたら終わる。間合いを取って銃も難しいだろう。加速はあちらが上、射撃も予測なのかなんなのか避けてくる。



 ん?今俺迷って、やば


 冷水を被ったように頭が冷え、体を反る。


 鼻の上に刃がある、


 刃がちょっと上に浮いて、その次は


 まっずい

 銃を横に構える、がこの姿勢では踏ん張れない、倒れたらそのまま斬られる。


 振り下ろしが来る。



「ふぬぬぬぬ」

「……」


 背中側に黒帯を伸ばし、支えとする。


「な、名前聞いても?」

「……ハープーンと、こういう時は名乗っています。」

「す、素敵な、お、名前で」


 力負けしている。押し込まれている。







 霧が立ち込める。


 一瞬で視界が灰と黒に染まる。


 来た!羽鳥ちゃんだ!


 黒帯を1本使ってポーチから筒取り出し、投げる。


 目を帯で覆う、爆音が鳴り響く


 一瞬だけ、緩んだチカラ

 見逃さない、ソレを狙っていたから










 ……………………

 ………………

 …………


「俺!!!生きてる!!!!!」

『死ぬかと思ったクタ』


全身刀傷まるけでボロボロの俺は生を噛みしめる。


 あのリングから脱兎のごとく逃げ出した俺は今、弦展げんてん駅のホームの屋根の上にいる。


「ねぇほら見てキレイ。ホタルみたい」

『いやだからそれ血みたいなもんクタ』


俺の傷から漏れ出た魔力が輝き、宙を舞う。


「世界がうつくしい………」

『戦いの高揚か逃避か分かないクタけど、おかしいことは分かるクタ。羽鳥が来たらさっさと帰るクタ。』


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