第12話 事故


「来ますかねぇ?」

「来るだろうね~。」

「ひぇ」


 作戦は3つの段階に分けられる。

 1,誘引 : 鉄騎兵を釣り、誘導します。

 2,降ろす : 鉄騎兵をバイクから降ろします。

 3,攻撃 : かかれ皆の衆。


 現在の段階は1、鉄騎兵をを釣ろうとエサ役のドレーさんと俺はウロウロしている。


 正直に言うと俺は2回斬られて鉄騎兵がちょっとトラウマになっている。


「来ないでほしい…」

「いやいや、来てもらないと」

『でも前の作戦も失敗したクタ…。』

「アンタもかい」





「ピィ」

「来たか」


 遠く、どこかからこの3日で脳裏に刻まれたあの音がこだまする。

 血の冷えるような感覚。冷水を被ったみたいだ。全身で恐怖を感じる。


「捕まってて」

『はいクタ』

「クタさんもではあるけど」


 頭の中がだんだんと白くなる。思考が霧散する。

 そんな俺とは反対に、ドレーは泰然自若としてただ一言


「さて、やろうか。」






 あぁ!近づいてくる。近づいてる。こっち向かってきている。高層ビルに反響する音が如実にその事実をあらわす。

 すぐそこにいる!すぐそこにいる!きっとすぐに


「目視ぃぃぃぃぃ!!!」


 見えた。あの平行四辺形のふたつのライト。真っ黒なライダー、間違えようがない。

 俺がそう叫ぶと同時にドレーさんはスロットルを全開にする。

 穏やかに奏でれられていたエグゾースト音が暴力的な轟に変わる、メーターが踊る、暴力的な加速に振り回される。

 スピードが命綱だ。馬力が正義だ。加速は俺を守る母衣ほろだ。


 それでも、ミラーをチラリと見ると奴はグングンと迫ってくる。


「っぅ」


 なんか涙出てきた。


 景色が流れ、世界を置き去りにしている。でも、あいつはずっとそこにいる。離れない。どこまで逃げたって逃げきれないんじゃないか?曲がることはできない。減速した瞬間にアイツに追いつかれるから。走り出したその時からもう逃げることはできないのだ。


「はっ、大丈夫さ」


 ドレーがそう言った時ぐらいだろうか。差が詰まらなくなった。一定の距離を保って離れなくなる。


「うわぁぁ頼んだぁぁぁ!!!」

「おう。」


 更なる加速感が俺を襲う。ん?なんで加速した?スロットル残してた?






「来たよ!」


 羽鳥が声を上げる。


「よし、行くぞ!!」


 オレク中佐が第二段階の開始を指示する。







「そろそろです!」

『約100メートル クタ!』

「3秒ってとこか、十分だな。」


 前方には文字通り十字の交差点、道が壁を裂いたみたいに手前も奥も建物がある。信号は空の星のように光を放っていたがシュルシュル迫り、こちらを睥睨へいげいしている。


「捕まってろよぉ!」

「しっかりとぉぉぉおおおお」

 ドレーが道の端に寄せる。

「突入!」


 高速で交差点に侵入

 すると

 見えた、横に、真っ直ぐ突っ込んでくる 20トン超













 後ろで鳴る、耳を塞ぎたくなる悲惨な音




 ここがこの作戦のキモだった。

 鉄騎兵に仕掛けた罠。この罠はある状況を作ることだった。それは、出会い頭事故。この交差点で俺たちが通過する瞬間に大型トラックを突っ込み、後ろから付いてきた鉄騎兵には事故ってもらう。そんな最低な作戦だ。


 第2段階も無事に完遂、作戦は第3段階に移る。




 トラックの下からそいつは這い出てくる。

 あぁ、やはり生きていた。それに、こんなのでは死んでも死ねないだろう?そもそも、恐ろしく丈夫で銃弾すら大して効果がないくらいだ。分かっていた、だから、完全装備のジェイ隊、オレク隊、魔法少女2名、組織の戦闘員全員がお前が出てくるのをずっと待っていた。盾だの槍だのを携えて。俺も既に着剣し、銃を短槍にしていた。



 我々を刷毛はけで塗るように眺めたあと、彼は欠けた左腕ぶきを持ち上げ、構える。戦う意思は折れていない。


「お覚悟を」


 誰かがそう言った。









「疲れた…」


 俺は最後以外はドレーさんにひっついているだけであったし、魔法少女なので肉体の疲労はしていない。しかし、凄まじい疲労感がずっとある。精神がすり減っているというやつだろうか。


 あの後、鉄騎兵はあの場の者全てを相手に死闘を繰り広げた。彼はバイクの速度を使うことで鉄すら斬ってしまうあの脅威的な攻撃を誇っていが、バイクを失い、彼は攻撃力も機動力も格段に落ちていた。にも関わらず、現在、多くの隊員が療養中である。彼の凄まじさは討伐後のジェイ隊の防具の歪み、凹み、傷が雄弁に語っている。


 また、驚いたことに彼は人に戻った。倒れ伏し、動かなくなった彼を羽鳥ちゃんが斬った。すると、彼の体から黒いもやが流れ出し、倒れた男だけが残っていた。


 男は生きていた。目立った外傷はないが、意識を失っていたため組織の息のかかった病院にかつぎ込まれることとなった。


 男は身元を特定できるものをなにも持っていなかったが、男を知る者がいた。俺だ。


 名前は沢崎さわさき 一心いっしん

 友人の部活の先輩、と関係は少し遠いが、大学が同じなこともあり度々世話になっている。


 思わぬ顔見知りに俺が動揺したことは言うまでもない。


『人に戻る時現象は魔法少女が変身を解く時と酷似していたクタ。恐らく魔法少女技術を流用していんだクタ。』

「魔法少女ってのは最後にはああなるか?」

『あれは技術の悪用みたいなものクタ。正しい処理のしていない粗悪品をその辺にいた素養のある人間で試した、って所クタ。』

「素養のある人間」

『この場合だと保有魔力量クタ。ちなみに、この素養という点では君はアイツの数万倍あるクタ。』

「は?」

『堅牢で有名なレーエン銃を魔力込めただけでぶっ壊すヤツなんて歴史を漁ってもいねぇクタ。』

「そんな事あったなぁ。」

『クタのセーブが外れてるかと思ったクタ。ま、だいぶ慣れたみたいだから、そろそろ制限緩めてくクタ。』


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