第13話 日常

「そういえば、なんでここの電波塔だったんだ?」

『くた?』

「あのデカいテレビ塔じゃダメだったのか?」

『それにここで十分だったからクタ。』

「あの時、金環日食みたいなもんって言ってたのは?」

『ある物がなければ発動できなかったんだクタ。』

「ある物って?」

『とんでもなく貴重なものクタ。これのおかげであのチートみたいなことが出来たクタ。』


「んじゃ、そろそろアレがなんなのかを聞いてもいい?」

『わかんねぇ…。わかんねぇクタ…。』


 ここら見ると爪楊枝で作ったみたいに見える塔、その先端から忘れもしないあの光の波が夜空に広がっていく。


「組織のじゃないのか!?」

『違うクタ…。』


「防ぐ方法」

『無理クタ。』

「手の打ちようがないってか。」


 また何か事件が起きている。





 あの魔法がなんであったのか、それはスグに分かった。


「知ってるか?沢崎先輩 魔獣に襲われたらしいぜ。」

「…へ?あぁ、ガチか?」

「ガチ、昨日まで入院してたってさ。TIJもダメんなっちまったんだってよ。」

「TIJって」

「バイクだよ、バイク。沢崎先輩が乗ってたヤツ。」

「へー」


 そうやって友人だいすけが当然のように魔獣という単語を使う。


「そんで魔法少女に助けてもらったって言っててさ」

「ホントにいるのか」

「テレビもネットも何も見てねぇのか?生で見たって話も耳すませてりゃ聞こえてくる。」

「そんな気がするような気がしなくもないような」

「あー、これこれ」


 そう言いながら突き出されたスマホの画面に映っているのは、あの赤色の少女と黄色の少女の二人が並んだ写真。ネットニュースの記事のようだった。

 記事の見出しを見ていくと、懐疑的なものもあるが、魔獣を倒し、人々を守るのように書かれているものが多い。


「そういや部屋どこだっけ?」

「えーと、508」


 魔法少女だって普通に会話に登場する。

 歪みだした日常。


「先に飲みもん貰っとこうぜ」

「そうだな」

「ほい」


 大輔だいすけにコップを差し出してくる。渡すというには少し上の方に。


「あざっす」

「……なんか…縮んだ?」

「ファ!?」


 女性としては背は高い。だがしかし、男だった頃と比べれば少し低い。


「……今日はヒールないからじゃね?」

「あー、なるほど。」


 こちらを見ながら納得した彼の手元から緑の液体が噴き出し、バシャバシャッと辺りに飛び散る。

 彼が着ていた白いTシャツに緑の斑点が浮かぶ。


「なぜ氷を後から入れた愚か者」

「話に夢中でこんがらがったでそうろう


「だぁーもう、早く歌おうぜ!!」


 そう言って彼は [→510~515]と示されている廊下を進む


「逆!左!」


 慌てて彼を呼び戻す。


 歪んでいるのは俺か世界か。まぁ、なんだっていいか。

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