第10話 競合他社

セレスティアさんは私を送り届けると、風のように去ってしまった。私は彼女のことが気になって仕方がなかった。颯爽さっそうと現れ、私を救ってくれたあの人。彼女は寡黙で、ミステリアスな雰囲気を漂わせている。名前も恐らく偽名だろうが、酷く似合っている。恐ろしい魅力に溢れた人だ。もはや毒と言っていい。香しく、甘い、注ぎ口に口を付けて飲み干してしまいたいような毒だ。

既にその毒に侵されてしまっている私は、つい、追いかけてしまった。しかし、セレスティアを見つけることは叶わなかった。なぜなら、その前に死神を見つけてしまったから。






「よっ、羽鳥ちゃん。」

「セイちゃん!?なんでここに!?」

「散歩してたら見つけた。」


組織の拠点に帰ろうと、ビルの上を駆けていたら偶然、彼女の大鎌を見つけたのだ。


「ちょっと待ってね、すぐこの人刈るから。」

「お、おう。相変わらず誤解されそうインパクトのある絵面だ。」

「この人で3人目。魔獣があばれまわってるのかなぁ。」

「んー、それは聞いてないかな。さっき1匹倒したけども。」

『クタも南方勢力ナンファンの話しか聞いてないクタ。』


クタがそう言った時だった。


「なにしてるんですか!!!!!」


よく通る、高い声が耳をつんざく。


赤色の少女と黄色の少女、二人の少女が立っていた。

赤色の少女はサルビアのように赤い髪をし、フリルのが各所にあしらわれたミニスカートのドレスにトレードマークのような赤いリボンがついたちで、敵意を込めた目で ギッ とこちらを睨んでいる。

黄色の少女はセーラー服風のワンピースのようだった。プリーツスカートが膝下ほどまであり、ブーツを履いている。リボンこそ見えるが、特徴的な襟はコートで隠れている。

蒲公英のように明るい髪にチョンと水平帽をのせ、こちらを警戒している。おい待て、なんだその横にあるドデカい大砲は、こっちに向けるな。


「もう一度聞きます。何をしているんですか!?」

「ひとだすけ」

「そんな風にはまったく見えません!!!」


分かる。分かるよその気持ち。お兄さんとても分かる。でも“何をしている”はこっちも言いたい。何その大砲。人に向けちゃイカンでしょそれ。口径は15cmくらいかなぁ?もっとかなぁ?どうだっていいよなんそれどっから持ってきたん。


(ナンファンだクタ。)

(ホントにヤバいじゃん。)

(言ったクタ、それと分かっていると思うクタが、君らと同じく魔法少女クタ。)

(やっぱりか)


「落ち着いてほしい、話せば分かる。」

「なら、まず武器を捨て―

ザシュッ♪

――っ」


少女は息をのみ、俺は振り向く。


もちろん、羽鳥ちゃんがスパッとやった。


「なにやってんのお馬鹿ァァア!!!!!」

「苦しい、助けて ってずっと言ってたから…申し訳なくなっちゃって……」


赤い少女が叫ぶ


「あかりちゃん、やって!!!」

「っ…わかった!」


咄嗟とっさに俺たちはその場に転がる。俺の銃なんかでは比較ならない、もはや衝撃のような音が轟き、発火炎に一瞬目がくらむ。

そして、後方から再び轟音と揺れが襲う。見なくても着弾音だと分かる。


『黄色いのを撃てクタァ!』

「うぉらァァァァァ!!!」


震える手足を気合いで押し止め、発砲。


魔法少女同士の戦いが、始まった。




俺が黄色を狙うと赤色が前に出て、黄色を守るように俺に襲いかかる。


「あかりちゃんになにする!!!」

「こっちのセリフじゃアホンダラ!!!」


赤色は見たところ何も持っておらず、そのまま俺に殴りかからんとする。

俺はその場で赤色を狙い撃つ。

赤色は左手を前に突き出すと光の壁を作り出し、弾を弾く。


「んだそれ!?」


赤色は右手を振りかぶり、俺の顔目がかけて放つ。

反射的に左に避ける。耳元で空気を切る音がして、頬に風が当たる。

少し後ろに下がり、双方体制を立て直す。

黄色は赤色の後ろでこちらを苦々しそうに見ている。羽鳥ちゃんは先程の人を避難させていたようで、こちらに戻ってくる。


『赤色を盾にして大砲を撃たせないようにするクタ』

「なるほど了解」

『羽鳥、黄色を押さえつけろクタ!』

「わかった」


返事をし、羽鳥ちゃんは大鎌の石づき地面に着け、歌い出す。


「 草原の端から眺めれば

君は絶えず流れる水を踏む 」


羽鳥ちゃんから魔力が流れ出し、光が地面に這うように広がる。


「なに!?」


赤色が怯んだのを見て俺は銃剣を取り出し、赤色に迫る。


「 ぼうぼうの草が風に倒れ 」


視界の端を魚影のような何かが走る

赤色は左手の壁で俺の銃剣を受け止める


「 広野と空の狭間に神を見る 」


『離れろクタ!!!』


俺は受け止められた反動を使い、後ろにに飛び退く。

瞬間、ウサギの顔を模した蔦の塊が地面から飛び出す。

黄色は為す術なく飲みのこまれ、赤色は回避したものの、蔦は赤色を中心に螺旋らせんを描き、拘束した。





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