第9話 出会

状況を理解した俺はすぐさま楽器ケースを下ろした。


魔獣は仰け反り、そのまま倒れる。しかし、すぐ立ち上がり、彼女に襲いかかる。やたらと手の長い巨体の魔獣と少女ではやはり魔獣に分がある。時間の問題だろう。少女もそれを理解しているのか険しい表情をしている。


着剣し、魔力を流し込み、イメージし、心の中で“ブレード”と叫ぶ。銃の先端に取り付けられた銃剣は光に包まれ、刀身を俺の腕ほどに伸ばす。


少女は突き飛ばされ、尻もちをついており、魔獣がのしかからんとする。

だが、


「伏せろ!!!」

「っ!?」


少女は頭を抱えて転がり、俺は魔獣を叩き切る。


「真っ二つ、といきたかったんだがな。」

「/AAAAAAAAA/!!!!」

「みじん切りにしてやらぁ!!!!!」


魔獣が振り向き、その力を使って腕をこちらに叩きつけんとする。

切り上げてその腕をぶっ斬り、そのまま踏み込んで胴体に刃を突き刺した。


「/GAAAAaaaaaaaaaa/!!!」


これが決定打となったらしく、魔獣は霧散する。


「はぁ、っと」


気が抜けて息が漏れる。忘れてはイカンと振り返ると、利発そうなセーラー服の少女と目が合う。


「…大丈夫ですか?」

「ひゃっ、はい、大丈夫です!」

「そっか、よかった。」


何話すん?何話すん?何話したらええん?逃げていいかな?下手に話してストーキングしてましたとか言っちゃわないかな?


少女は深呼吸した後、


「私はみなみ 千代子ちよこといいます。あなたは…?」

「…たちm」

(まてまてまてクタ!なんのためさっきに話したクタ!)


そうだったわ。一生懸命考えたやつあるわ。


「セレスティア とこういう時は名乗っています。」


初めて名乗るけどね!


「セレスティアさん、綺麗な名前です。」


あ、やばい、ちょっと恥ずかしい。






「……っぁ…ぅ…」

「チクッとしますよ~。」


地面に倒れ伏し、苦しいのかあえぐ男の首を大鎌を当て、そのまま


ジャクッ


っと刈る。男は体から力が抜け、こと切れた。ように見えるだけ頭と胴は繋がっており、息もしている。


察するに、魔獣の瘴気か何かにあてられたのだろう。直接襲われたのならばもっと重症であり、喰われたのならば更に酷いことになっているはずだ。


最近こういうの増えたなぁ。


自分が魔法少女こうなったのが去年、魔獣が現れたのは今年に入ってから。そして、出没量は増加傾向にある。それと比例してこのように被害者も増えている。


このように被害者を偶然見つけて意識と取り付いた瘴気を刈り取ることも稀にだがある。


辺りを見渡し、他にも被害者はいないか、魔獣がまだ近くにいないか確認する。


確認を終えると、ローブを脱ぐ。すると大鎌はするりと消え、容姿も変わる。


「セイちゃんもう来てるかなぁ。」






ドレーの主な仕事は 偵察 と 配達 である。偵察は魔獣や地域の調査など、配達は潜入している仲間や協力者に荷物や文書を届けたり、連絡したりなど。


微妙かな。


歩行者信号が点滅しているのが見える。距離を考えると信号はちょうど赤だろう。


「ここ一面に水が入るんだよな~。」


弦展駅から30分ほどのこの辺りは建物よりも田畑が多い。ヘルメットのバイザーを上げれば、堤防、河に川にかかる大橋、さらに遠くの山脈までしっかりと見える。

故郷では水田など見たことがなかった。今は水が抜かれているが、5月6月になればまた一面に水の鏡が貼られるだろう。


「やっぱり、赤だ~。」


対向車線も横も誰もいないが減速、停車。エンジンの回転数が下がり、下から残念がるような音が聞こえる。


早く変われ~と祈る。


――真横に1台の二輪車が入り込んで来る。


驚いてそちら向いたドレーは息を呑んだ。


ライダーは黒のペンキがぶちまけられ、そのまままとわりついたかのような身なりにボヤっと赤い双眸が浮かんでいる。左腕からカマキリのように刃から飛び出ており、人一人分くらいの大きさがある。

注意して見てみるれば、黒くまとわりついたそれはブクブクと泡立ち、ヌチョヌチョとうごめいている。

怪物と呼んで差し支えない、そんな代物が目と鼻の先でこちらを覗く。


魔人だ。

これはかなりマズイ。ヤバい。ドラゲナイ。


「こんばん↑は、星が綺麗ですね!」

……


言葉通じないよね!わかってた!


だが、こちらを斬らないのは?後ろから襲いかかることもできたし、今も必中だろう。なぜだ?


すると、こちらのそんな疑問をかき消すように、ライダーはエンジンを吹かす。


響き渡る高音、こちらを嗤うようにリズムを刻む。


これは挑発だ。こちらを煽っている。

このライダーが何を望んでいるのか理解したドレーは、クラッチを切り、スロットルを開け、レスポンスを確認する。

メトロノームのように正確に鳴っていた重低音が一転、全身を突き抜け、天に響く中高音。


「10秒ついてこられたら上出来だ、ガキ」


犬猫の喧嘩のように2つのエンジンの唸り声が交差する。


歩行者用信号、左右の信号、そして真正面の信号全てに―――赤が灯る。

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