第8話 彷徨



(あー、銃当たんねぇんだろぉなー。)


 1日サボると3日分下手になると聞いたが、ただの脅しの誇張だと信じたい。


(他も色々抜けてそうだなぁ。)


 クタに教えてもらっている魔法についての内容を忘れていないかも不安だ。

 別のことに気を向けるべく、携帯を取り出す。



 だいすけ

 ​───────​───────​──────

 18:43既読

〔くぅ~、疲れましたwこれにてテスト終了です!お先に失礼します!あ、君は明日もだっけ?頑張ってください!>


 18:43既読

 < くたばれカス〕

 ​


(即レスやんけ)


 友人を煽ると思いのほか早くカウンターが来て面を食らう。


(“終わったらカラオケ行こうぜ”と)



『次は~西弦展にしげんてん~西弦展』




「えー、君がいない間に重大な事実が発覚したクタ。」

「なんと、誰のプリンが?」

「羽鳥氏クタ。ではなく、南方勢力ナンファンの存在が確認されたクタ。」


「ナンファンとは」

「我々と敵対しているやべぇ勢力クタ。」

「それで何が起きるん?」

「魔獣以外の敵が出現するようになるクタ。」

「人型?」

「クタみたいな変な姿の可能性もあるクタ。」

「人は撃ちたくないなぁ」



「あれ?ドレーさんじゃね?」

 地下駐車場、組織の車両、火器や盾、装備など、その他よく分からないものが所狭しとと並ぶ。整備科の隊員が作業しているなぁと見ていたら知っている顔だった。

 彼はバイクの整備をしているようだ。詳しくないから分からないが、比較的大きく、丸く大きなランプがどこか可愛らしい。


「趣味?」

「ん?立町か。ま、半分くらいそうだな。任務で使うとはいえ。」

「任務だとあそこの白いやつのイメージが強いです。」

「乗っけてもらってることも多いしね~。一人だとよくコイツ乗ってるかな。

 それより、今日は早いね。なんかあった?」

「暇なんで偵察という名の散歩を。預けてある銃だのを受け取りに。」

「クタ研究官も一緒?」

「一緒です。」

「じゃ、なんとかなるか。気をつけてね~。」


「あ、鍵の棚のとこのマドレーヌ食っていいよ~。鳥ちゃんの名前が書いてないやつね。」






 すっかり夜になり、通りは夜の賑いといった様子だ。人で溢れていて、塾の帰りなのか遊んでいたのか制服姿の学生も居る。そんな中俺は


(ストーカーとか言われないよねぇ!?ねぇ!?)

(黙って歩くクタ!)


 女子高校生を追いかけている。面識もないひたすら女子高生を追いかけている。

 クタが『あの女学生追いかけろクタァ!』とか変態じみたことを言い出し、俺はそのクタの何やら鬼気迫る様子に圧倒され、ストーキングをしている。


(クタさん、今なら戻れる。なんなら俺でよければ代わりになるから。道をたがえてはいけない。)

(アホ吐かせクタ。)


 彼女は早足でどんどん進む。俺もはぐれまいと歩く。


 気づかれてないか?これ。と思った瞬間、彼女はカバンを抱えて走り出す。


『追いかけろクタ!』

「ええぇぇぇマジかよ!!!」


 俺も楽器ケースのストラップを握って走る。

 彼女の足はとても早く、変身していなければ撒かれていたかもしれないほどだ。しかし、していなければの話だ。

 彼女を追い、右に左に曲がり、建物の隙間のような細い道を抜けると、急に視界が開く。鳥居があった。周りを建物に囲まれ、日陰の中にポツンと小さな社がある。

 彼女は境内でカバンを持ったまま体を捻り、


「でぇぇぇい!!!!!」


 魔獣にフルスイングした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る