第5話 家路

【弦展駅 西口ロータリー】

「立町さんって何してる方なんです?」

「一応、大学生してます。」

「へ~、近くですか?」

「そうだね、ここから東西線で30分くらい。」

「もしかして、弦展大学ゲンダイですか?」

「えっ、うん。」

「私そこの付属校ですよ。」

「え、ホント?」

「はい。」


「というか高校生なの!?」

「逆になんだと思ってたんですか?」

「落ち着いてるし、金髪だしで大学生かと。」

「魔法で色が変わってるだけですよ。」

「こんな深夜に出歩いてるし。」

「恥ずかしながら魔法少女をしていまして…」

「わぁお」

「立町さんも今は魔法少女ですからね?」

「ワァオ!?ってそうだった。」

「先輩として色々教えてあげますよ。魔法だったり、組織の人たちからお菓子もらう方法だったり。」


「組織ってどんなところ?」

「いいところですよ。お菓子貰えますし、宿題も手伝ってくれます。」

「それはどうなんだ?」

『言い忘れてたけど給料でるクタ。』

「え、ホント?」


 

 あの後、とりあえず家に帰りたい旨を伝えると、羽鳥ちゃんがどこかに電話をし、「ドレーさん、えっと、組織の人が送ってくれるそうです。」と、送ってもらえることになった。今はそれを待ちながら駄弁だべっている。


「立町さん、明日はなにか予定ありますか?」

「組織とやらを訪問しようかと。」

「案内しますよ。でもその前に、一緒に買い物に行きませんか?」

「あ~、そっか、服とか全部買わないといけないのか。って明日は何を着たらいいんだ!?」

「んー、」

「…変身したらいいんじゃね?」

『やめとけクタ。まだ君は力の制御ができてなくて完全じゃなくて危険クタ。』

「これが力の代償か…」


「そうだ、明日迎えに行きましょうか?服も貸しますよ。」

「えっ…、助かる。」

「でも流石に下着は後でコンビニ寄ってもらいましょうか。」

「さ、流石にそりゃね。」


 気恥ずかしさだのドキドキを押し殺し、必死に平静を装って喋っていると、1台の車がロータリーに入ってくる。

 どこにでもいるような白色の商用ワゴン車だ。

 羽鳥ちゃんはその車に手を振り、車はウィンカー出して目の前に止まる。


 窓が下がり、中の様子が分かる。

 運転席と助手席に男が2人乗っていた。どちら一般人のように見える。


 助手席側の男が声をかけてくる。


「おつかれ~鳥ちゃん。お~、その子が例の?」

「そう。かわいい子でしょ?」

「ホントホント。後ろ片付けてあるから乗ってね~。」





 家の場所を伝えると、助手席の男もといドレーは運転席の男と

「分かる?」

「いえ、カーナビに従います。」

「お~け~、発進。」

 と短いやり取りの後、車は動き出す。


「鳥ちゃん、チョコいる?」

「いります。」

「だはは!相変わらずだねぇ。ほい、どうぞ。お嬢ちゃんもよかったら」

「やったぁ、ありがとうございます」「あ、ありがとうございます」


 菓子をくれるという話はどうやら本当らしい。

 あま。


「そうだ、鳥ちゃん。クタ研究官は?」

『ここにいるクタ。』

「うぉ!?」

『あれ持ってきてくれたクタ?』

「え、えぇ。」

『タチメイ君に渡してやってほしいクタ。』

「こんなものをですかぁ?」

『羽鳥ちゃんの鎌みたいなもんクタ。自衛のためにも必要クタ。』


 ドレーはぎっしりと詰まったウエストポーチ、さやに入った刀身の長いナイフ、そして、を渡してきた。


「な、なんですか!?」

「んー、レーエン銃、レーエンライフル、正式名称RNO4マークII?」

「ホ、ホンモノですか!?」

「刻印付きの本物。」


 古い銃と言えば伝わるだろうか。戦争映画、世界大戦のころの映画で見るようなライフル銃。長い銃身、木製のストック、そして映画なんかのスナイパーがよくカチャカチャといじるボルトアクション機構。


 What is this?なにこれ?なんで?

 まぁ、いっか。とりあえず、ポーチを装着。ナイフは多分ここか?


「研究官、使い方分かります?」

『兵役の時に使ったクタ。』

「じゃあ大丈夫ですね。」

『まぁ、今日は使わないから抱えとくだけクタ。』





 運転席の男が声を上げる。


「前方、敵影1、不定形。曹長、指示を。」

「えー、まじー?いつもなら回避だが、

 今は魔女がいる。撃破だ。」「了解」

「鳥ちゃん!手伝って!」「はい」

「研究官はお嬢ちゃんを!」『クタ』


 ドレーが指示を各々に飛ばす。


 停車する。俺以外の3人は車を飛び出る。

 俺もよく分からずに外に出る。

 ドレーと男は突撃銃アサルトライフルを抱えていた。足元にでも隠していたのだろうか。


 そして、俺は奥のを目にする。


 高さは俺の数倍あり、道を塞ぐほど大きな黒い、半透明の粘体。

 しかし、あれはもしかして生物なのだろうか?

 全体に血管や葉脈のようにスジが走り、そのスジが点滅する。まるで脈拍にあわせているようだ。


 おぞましい何か、を見てしまった俺は叫ぶ。


「キモイ!!!」

『え?そうクタ?』


 ドレー達はなんの躊躇ちゅうちょもなく発砲する。

 銃弾が黒い塊を湿気ったクッキーのようにボロボロと崩していく。


 だが、塊も抵抗する。

 塊から数十の触手が生え、ドレー達を叩き潰さんと振り回される。

 ドレーも幾許いくばくかを撃ち落とすものの、全てを落とすことは叶わない。

 ドレーに触手が襲いかからんとする瞬間――


 羽鳥ちゃんがひと薙ぎで全てぶった斬る。


「かっこよ。」

『まぁ、あの程度の魔獣モンスター余裕クタ。』


 それから1分もしないうちに魔獣は消え去った。


「すげぇーかっこよかった。」

『ドレー達も頑張ってたクタ。』


 羽鳥ちゃん達が振り返りこちらを向く。しかし、3人はこちらを向いた瞬間、顔が《驚き》に染まる。


「走って!!!」

 羽鳥ちゃんが叫ぶ

「へ?」『クタ?』

 かげる。悪寒が走る。

 前にすっ飛ぶ。後ろを見る。


 そこにも塊があった。先程よりも大きく、先程のと様子が違う。

 さっきは半透明で、粘体が蠢くように動いていた。だが、目の前のものは爬虫類のような鱗もち、ラメラメと光を反射している。

 手なのか足なのかがうねうねと動き、そのうちの1本は俺が立っていた場所に打ち付けられていた。

 最も特筆すべきは、口だ、口がある。だらしなく開いた中に粘液が糸をひいている。


「嘘だろ!?」


 3人のもとまで走る。


 ドドドンッと発砲音が鳴るが、


「標準弾じゃダメです、曹長!」

「鳥ちゃんいける!?」

「魔力ない!」

「だからさっき使ってなかったのね!?」

「ドレーさん、魔術弾は!?」

「来る前に使い切った!」


 4人そろって逃げだす。


「ライフル弾ならどう!?」

「貸して!お嬢ちゃん!」


 ライフルをドレーに渡す。


「ポーチに弾!」


 とにかく引っ掴んで渡す。

 ドレーはライフルを操作し、弾を押し込み、構える。


“ダァン”

 銃声が鳴る



“グシュン”

 弾が魔獣にくい込む。


 が表面で止まっている。


 ドレーは“ガシャン”とコッキングし、

「効果認めず!!!」


 魔獣は見た目とは裏腹に速く、距離は縮まっている。


『こうなりゃ一か八かクタ!ドレー曹長、タチメイ君に銃を!』

「了解」「なんで!?」


『3人とも走るクタ!タチメイ君は魔力で突っ走れるクタ!』

「囮ってことかよ!?」

『よく聞けクタ!今その銃は引金を引けば撃てる状態クタ!指かけるなクタ!』

「お、おう」


 魔獣はジワジワとこちらにせまる。


『空をふっ飛んだ時と同じように魔力込めてそいつをぶっぱなすクタ。』

「いや、できる気がしないぜ!?」

『四の五の言うんじゃねぇクタ!』


 ドレーの見よう見まねで構える。夜空を滑った時の感覚を、屋上で見た魔法を思い出しながら何かを、祈りを込める。


『その銃も君の一部と思うクタ。君は今からアイツをソイツでぶん殴る、そんな感覚クタ。』


 魔獣のあまりの大きさに、どこを狙えばいいか分からなくなる。


『ど真ん中狙えクタ。アイツをぶち抜くイメージするクタ。』


力を、祈りを、ただひたすらに込める。


『いい感じクタ。あんだけデカくてこの距離ならどうやったって当たるクタ。』


 魔獣はすぐそこだ。速度は変わらない。このままならかれるだろう。


『まだクタ』


 緊張で呼吸が荒れる。恐怖で手が震える。だけど握ったコイツが何とかしてくれると信じる。だから、必死で願う、祈る。


 魔力を流し込む。流し込む。流し込む。流して、流して、流して、流して、流して、流す!!!!!

 真っ白な頭でひたすら力を込め、待つ。


『撃てクタァ!!!』

 この一言を。




 星が流れた。俺の鼻先から1メートルもないすぐそこから。コイツの銃口から。

 白なんだか黒なんだか分からなくなるような光の奔流が全てを飲み込み、消し去る。

 絶大な力の前に立っていられるものなどなく、先程までそこにいた魔獣は塵も残さず消えていた。

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