第4話 契約
【弦展駅 駅ビル オリーシェンタワー】
『赤のギザギザの鍵で開くクタ。
まぁ、君たちがまだ自然の摂理を全て解き明かしていないように、クタたちも分からないことがいっぱいあるクタ。』
「お、開いた。
重力はあること分かってるし、式もあるけどなんで発生してるかまだ分かってない、みたいな。」
『そういうことクタ。次、右に曲がるクタ。』
弦展駅に着いた時、既にシャッターは降りて電気も消されていた。しかし、地下道の関係者専用口から中に入ることができた。
クタは暗証番号、カギやカードの位置を把握していた。なぜ知っているか、勝手に入っていいのかと尋ねると
『ここは組織と契約してるからクタ。だから入っても大丈夫クタ。』
と返答が返ってきた。
『いいから行くクタ。』
何も考えないことにして、進む。
シャッターの降りた地下街を抜け、止まったエスカレーターを上る。
(まっ暗、誰もいない)
普段は人で混雑し活気に溢れて明るいが、今は静寂と闇に包まれている。
何度も来たことがあるのに全く違う場所のように感じる。ここがどこだか分からなくなる。
『一番の奥のエレベーターに乗るクタ。』
「はい…ところで何階?」
『ああ、言われた通りに押していってくれクタ。』
「へ?」
6F、6F、9F、2F、2F、閉、5F、7F、11F
押し終わるとエレベーターは動き出す。
(どこまで上がるんだ?)
なんとなく時間を持て余し、周りを見ると鏡が目に入る。
少女がいる。背は高く、
強そう、怖そう、カッコイイ、キツそう、1番合うのはどれだろうか。
(って俺かこれ)
自分だと認識するのに、数秒必要だった。
「目の色まで変わってんじゃん。」
『変身前は黒クタ。恐らく魔力の影響クタ。』
「すげぇ、魔力。」
\ポーン/[最上階です]
扉が開き、風が入り込む。
「屋上だ!!」
『関係者以外立ち入り禁止の幻の51階クタ。』
見上げながら外へ出る。
「おぉ、人生初の屋上だ。あれって電波塔?だよな?携帯とかの」
『
「はぁ?どうやって?」
『魔法クタ。』
「魔法ですよ。」
後ろから声をかけられる。エレベーターの横に少女が居た。白金の髪を三つ編みにして横に垂らし、椿みたいな色のタレ目をしている。ふちに模様のはいった赤褐色のローブの下は白いブラウスとチェックのスカートで、気品を感じる。
だが、彼女が抱えている死神の大鎌そのまんまみたいなデカい鎌が品だとかそんなもんを全部さらえてしまう。脳裏に浮かぶは“ぶっ殺される”の6文字。
(ぶっ殺される)
キラリと光る鎌が怖い。ニュースでたまに見る強盗に立ち向かう人達ってすごいんだね。俺には無理だ。
「先生、話はしました?」
『いや、まだクタ。』
「なるほど、わかりました。待ってますね。」
大鎌の少女はフードの下でニッコリと笑みを浮かべ、鎌を抱えたまま壁にもたれかかる。
一瞬、視界が黒に染まる。目の前に現れる、ずんぐりむっくりの黒い鳥。変身が解けたようだ。
『さて、タチメイ君、話をしよう。』
クタがこちらを向き、講義をする教師のようにゆっくりと話す。
『知っての通り、君は別人となってしまった代わりに、凄まじい力を得た。馬のように駆け、ビルの屋上を飛び、夜空を舞う事ができる。怪我をしても理外の回復力ですぐに治るクタ。』
『だが、問題があるクタ』
『君は君じゃないクタ。』
その通りだ。それを『なんとかなる』と言うからこの珍妙な怪しいヤツについて行ったのだから。
『そこで、我々は君と取引がしたいクタ。』
『我々は君がこれまで通りの生活が送れるようになる手段を持っているクタ。』
「でなきゃ、困る。」
『そして、我々は力が欲しいクタ。』
「力?」
『君の力は素晴らしいクタ。私が魔力の活性を抑えていたのにも関わらず、跳ね回り、欠乏もない。恐ろしいほどのポテンシャルだよ。』
「その力で何をしろと?」
『戦って欲しいクタ。』
「戦い?」
『この都市は危機に瀕しているクタ。』
「はぁ」
『魔獣が現れ、人を襲っているクタ。』
「は?魔獣?」
『会ったことはないクタ?幸運だったクタね。』
「…その魔獣ってのと戦うとして、俺は武道の心得はおろか喧嘩もロクにした事ないぞ。」
『大丈夫クタ。初めこそ戸惑うかもしないが、スグに君に敵うモノは居なくなる。』
「……」
『我々は君に元の生活を、君は我々に協力をしてほしいクタ。』
まぁ、毒を食らわば皿までって決めたんだ。
「分かった、協力しよう。」
『いやー、よかったクタ。』
「あー、なんかやたら緊張した。」
クタと共にため息をつく。
『羽鳥ももういいクタ。』
「はーい」
後ろを振り向けば、羽鳥と呼ばれた死神少女は俺の真後ろにいた。肩に
待って俺ずっと首狙われてた?こわ。うつまマジ?ヤッバ
思わずへたりこんでいると 、死神ちゃんが手を差し伸べてくる。
「大丈夫ですか?」
「ピッ、あっ、うん、大丈夫…だと思う。」
え、優しい。\トゥンク/ ほら、心臓も高鳴ってる。冷や汗も全身でワキワキしてる。
そのまま彼女に手を引かれ、電波塔の下まで行くと、台座のようなものの上にノートパソコンがあった。死神ちゃんはそれを何やら操作する。
「準備完了です。」
『やるかクタ。』
「それじゃ、下がってて下さい」
クタと一緒に後ろに下がる。
「え、クタも?」
『この姿じゃなんも出来ねぇんだクタ…。』
死神が歌う。大鎌が鈍く輝く。魔力が彼女から溢れてくる。歌声に呼応するように影が広がる。影のようななにかは電波塔の柱に巻き付き登っていく。あらかじめ仕込まれていたのか柱に紋様が浮かぶ。
死神は大鎌を振り上げ、叫んだ。魔力が活性化し、影が光に変わった。
電波塔の先端から波が発生した。媒質は何か分からないが、想像はついた。多分、魔力だ。きっと、魔力を飛ばしているのだ。
光の波はオーロラのように揺らめき、羽鳥の歌とあいまって幻想的に感じる。ただ、あの波はなんというか、人智を超えているような、世界を歪めるような、なんだかロクでもないようなものの気がする。
『よく見ておくクタ。』
「?」
『この魔法は奇跡なんだクタ。奇跡が積み重なって、机上の空論が現実になったんだクタ。』
「はぁ」
『ま、金環日食みたいなものだから分かんなくても目に焼き付けとけクタ。』
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