第3話 魔力


 大気を裂き、星空を昇る、しかしいつしか頂点を過ぎて飛翔は落下に変わる。


『クタァァァァアアアァァア!!!???』


 地面は遠く、眼下には高層建築物の赤い点滅、ビル、アパートや家などの住宅の光、暗黒をぶった切る道の光などが見えている。

 向こうには市街の光が牛乳を零したみたいに広がっている。

 終電は既に行き、人の消えた深夜の都市は穏やかで、静かで、雪明りのようだ。


 目に映る全てを脳が処理をし、速度・距離・高度を弾き出す。


(上手く着地できそうな場所は…)

『アアアァァァァァアアアアァァァァァ』


 夜空にぶら下がって地上を眺める。


(この道が良さそうだな)

『ア゛ア゛ア゛ア゛アアアァァァァァァァァァァァ!!!』



 落下先を決めると直感的に魔力なにかを放出する。魔力はコートに流れ込み、空気抵抗を無視して動きだした。

 後ろに流されていた袖が翼のように横に伸びて風を掴む。


(よく分からんけど体制よし、あとは着地をどうしようか。)

『ァァァアアアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?!?!?』


 目星を付けた道が近づく。


(ローラーとかあったらなぁ、けど、そんなもんないし)


 明るくて真っ直ぐで幅が広く、


(うーん、まぁ、よく分かんなけども)


 人も車もいない道は


「なんとかなるだろ!!!」


 すぐ下だ。


 足が着く、体が前に傾く、気合いで足を踏み出し、度胸で地面を蹴り飛ばす。


 転倒を空中で回転することでなんとかいなし、体制を無理やり整え、本能に全てを任せて足を動かす。


『死んだクタ!死んだクタ!死んだんだクタァ!』

「止まんねぇぇ!!!!!」


 下向きの力は驚くほど簡単に消えてしまったものの、前方への力はそのまま残り


「にょああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 止まるという意志を抱えたまま、俺は走り続けた。







『生きてるクタ!?生きてたクタ!』

いてぇ」


 結局、この運用数時間の体では足が絡まってしまい、すっ転んだ。


 クタはくたぁぁぁぁ…………。というデカいため息してから


『なーんで、あんなバカなことするんだクタ?!魔力がもう使えてる、クタの目は間違いなかったくクタ!happy⤴︎︎︎とか思ってたら、クタは止めまくったのに君は何故かそのまま魔力量と出力に全て任せて屋上から立ち幅跳び、羽ばたき、宵闇にFly away!訳わかんないクタ!』

「なんか…飛べるんじゃね?ってなって…その、魔力の魔力に取り憑りかれたと言うか…」


 なんでなんだろう、と自分でさえも疑問に思う。立て板に水を流すように文句を言うクタを聞き流しながら、怪我を見ようと手や膝を見る。

 しかし、血は一滴も流れていなかった。代わりに、淡く光る粒子がこぼれていた。


「なん…だ…これ?」

『いっくら凄い体と力を手に入れたからといって普通屋上から飛び降…クタ?』


 クタクタと喋っていたのを止め、ちょっとの間のあと



『それは変身時に言っていたポカポカ、ビルから飛んだ時に使った力この2つの正体、魔力クタ。』

「目に見えるものなのか。」

『活性化した時の光が見えているんだクタ。例えるなら電気かなクタ?雷が落ちた時、ものすごい光と音を感じらるクタ。でも、その光は電気そのものではないクタ。電気のエネルギーの一部が光と音になったものを感じているだけで電気は見えていない。みたいなことクタ。

 そして、君の体はエネルギーの塊みたいなものなんだクタ。』

「ふーん……?俺がエネルギーの塊なら全身光ったりするかもしれないのか?」

『できなくはないクタけど…、その光は体を修復しようとする魔力が活性化したことによる光クタ。化学反応、燃焼みたいなもんクタ。

 殻があって、殻の割れたところから魔力が漏れ出る。漏れ出た魔力は殻を直そうとして活性化。みたいなクタ。』

「血みたいこもんなんだな。」

『君の場合はクタ。』



「つまり、この体は血とか肉じゃなくて魔力で出来てると。」

『そういうことクタ。それにしても、よくその程度の怪我で済んだクタね。運がよかったのか、スペックのおかけなのか、両方かは知らないがクタ。』

「ところで、血と肉はどこにいっちゃったんだ?」

『変身前はほぼ血と肉からクタよ?』

「へぇ、そうなんだ。え、今はどこに?てかほぼ?」

『燃やした木はどこへいった?みたいなこと聞いても仕方ないクタよ。』

「燃えちゃったの俺の体!?」

『さっき変身解いた時にちゃんとあったでしょクタ!』

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