第2話 服毒
「えっと、僕は
「ふむ、タチマチ セイメイ君、タチマチ君、セイメイ君…。いや、タチメイ君だな、よろしくクタ!」
「よろしくお願いしま…す?」
「なに、長い付き合いになるクタ。フランクにしてくれて構わないクタ。」
(馴れ馴れしいし、クタクタうるせぇし、つかどうやって鳥が喋ってんだ?)
やたらとよく喋る鳥に面食らっていると肩から鞄がズリ落ちる。
「それでは、タチメイ君の状況説明と予定組みをしようクタ。まず、その体クタ。」
改めて自分を見みると、服装が変わっていた。いや、元に戻っていた。
上着、スボン、靴、全てが大き過ぎる。ダボダボでサイズがまるで適していない。
「君は不思議な力で変態?したクタ。」
「ふしぎなちから へんたい」
「水素2molと酸素1mol詰めて点火したら爆発して水1molできました、みたいな説明は君にとって無意味クタ。知らない物質、原理、現象のパラダイスクタ。だから不思議な力で十分クタ。」
「さて、ここで問題が発生するクタ。見れば分かるとおり、変身前の旧メイ君と変身後の新メイは別物クタ。」
「不思議なことに。」
財布の免許証と学生証を確認してみると、そこには写真写りの悪い男の顔がある。言わずもがな、俺だ。
「このままだと誰も君を立町 晴明とみなしてくれないクタ。そうなると公的にも私的にも浮いてしまうクタ。そうなった時、君がどうなるかは……、まぁ分からんクタ。」
「とりあえず、ヤバそうなことだけ分かる。」
「というわけで、これを解消するクタ。」
「どーやって?」
「組織の力クタ。」
…………。
「……なんだそれ…今更か。」
「なに、不思議な力も組織もだんだん分かるクタ。とりあえず、クタが今言えることは、クタの言う通りにしたらなんとかなるクタ!」
(胡散くさぁ)
鳥は 翼を使わず 何故かスッと浮き上がり 覗き込んでくる。
「一緒にいこうクタ?タチメェイ君?」
もはや笑えてきてしまう。変な生き物、謎の力、見え透いた地獄への道。一体なんなんだ。何が起きてんだ。
でも、逃げようったってこの体でどうする。家に帰ったってどうする。父も母も兄も友人達も誰も俺を俺だと思わないだろう。
つまり、もう、手遅れ。
それなら、それならば、仕方ない。嫌でも何でもしょうがない。ド畜生。
「ハハッ、いいよ、毒と一緒に皿まで食べてやるよ。」
「まずは変身するクタ。」
クタの姿がぼやけ、ぼやけ、ぼやけて、黒いモヤのようになる。
モヤは俺にまとわりついてきたが、思わず瞑った目を開ける頃には消えいた。
代わりに、俺は黒い服を身にまとっていた。それはこの体になった時に着ていたものと同じものであった。
「なんか、ポカポカ?ワクワク?テンション上がる感じがする。」
『そいつがさっきから言ってる不思議な力、クタたちは“魔力“とか“マナ“って呼んでるものが身体中をめぐりだしたんだクタ。』
「<
『やりたいならやればいいクタ。タイミングを合わせてポーズとるだけクタ。』
『それでは、
「
『一旦止まるクタ。』
速度を落とし、立ち止まる。
数キロを全力で走ったというのに息が切れるどころか汗の一滴もない。
(すごいなこの体)
『すごいのはこれからクタ。』
(!?)
『これから魔力を使って走ってもらうクタ。』
『まずはスキップ クタ。』
コタッ、コタッ、コタッと足音が鳴る。
『前にトーン、トーンとボールが
夜風がオーバーソックスを突き抜けて脚を冷やす。
『後はテンポを早くして、前へ前へと強く意識をし…クタ?』
風がシャツの下を滑り、外套がなびく。
『既に魔力操作できてるクタ、上手いクタね。』
いつまでも加速できる気がする。
流れる風景がぼやける感覚が楽しくて仕方ない。
『しょっぱなから飛ばし過ぎじゃないかなクタァ?』
地面を
屋根を、電柱を、
マンションの屋上に足が着いたらまた
『クタ!?クタッ!?』
ビルを飛び越えたら
低中高と階段みたいに並んだ建物があった。そんな垂涎のシロモノがあったらもちろん
上へ、上へ、屋上から屋上へと
『ちょ、待っ、待てクタ!待つクタ!』
昇って、昇って、昇りきったら、
『一旦止まるクタ!まだ、というかそもそもまだ君魔力制御じたい
目の前、落下防止の柵の向こうには弦展市街の光が見えている。
大丈夫だろうか、大丈夫だろう。どうしてだろうか、そうしたいからだ。星にでもなってしまいそうだ、流れ星なら本望だ。
前に、前へ駆けて
『まっ、あっ、クタァァァァ!!!???』
そのまま飛んだ。
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