魔法少女にされたら才能の塊だったわwww

ちりれんげ

0.俺を魔法少女 編

第1話 当選

 照門を覗き、照星を化け物に合わせる。

 距離は十分にある。落ち着け、落ち着け、手順を思い出せ。


 フッ、と息を吐き、息を止める。


 右手、人差し指に力を入れる。ゆっくりと、銃口がぶれないようにゆっくりと、

引金を絞る。


 カツンっと小さな振動とほぼ同時に


 ―――


 と強烈な音と衝撃が発生する。


 分かっていたのに思わず目を閉じてしまう。

目を開ければ、化け物の上半分は飛散し、残った部分も霧散していた。


『お~ヒットクタ。おめでとうクタ。』

「どーも」


 耳を経由しないで声が聞こえる。


「この前はこの半分でも外してたのに。頑張ったね。」

「ありがと」


 すぐ横にいた少女が言う。

赤褐色のフードから白金の三つ編みを垂らし、を抱えている。


 いまだ慣れない。銃も、化け物も、声も、彼女も。なによりも、カーブミラーに映っている少女じぶん

 なぜか自分が女になっていること。これには今もさっばりと慣れない。






 風が顔を舐め、身震いをする。太陽の暖かさが有る昼間と違い、夜更けは冷えきっている。照らす寒色の街灯が寒さと静かさを際立たせ、鼻の奥を刺す寒さの匂いにまた雪が降るのではないかと思わせられる。


 この暗さと寒さの中を一人とぼとぼ歩いているせいで俺は虚しくて、むしゃくしゃするのだろうか。


 いや、この気持ちの原因は分かっている。あの名ばかりの合コンと言うやつのせいだ。

 たいして好きでもない酒を、大して飲めないのに無理やり飲む。さして好きでもない話題でも、場を読んで黙り、喋り、笑う。

 そしてなによりも、人数がたりないから出てくれ、金は出す、と言ったのを全て忘れてさっさと2人抜け出しやがった馬鹿野郎のせいだ。


(ちくしょう。)






カラオケでも行くか…。

 苛立ちと悔しさと惨めさを無理やりどこかに封じ込め、明日からの連休について考えていると、ふと見つけた。


自動販売機がある。


 近づくと居眠りから覚めたみたいに明るくなる。何か温かいものでも買おうか、と見てみる。

 しかし、ペラペラの軽い財布を開くとそんな気持ちは消えてしまい、結局、眺めただけで終わった。


(さっさと帰ってさっさと寝よ。)


 前を向き直し、また歩き始める。そのときに――


 人だ。


座っている?いや倒れている。


 自販機の陰に少女が倒れている。


 あぁ、もう、やだ。踏んだり蹴ったりだ。なんで見つけてしまったかな。無視したい。何も見なかったフリをしてそのまま過ぎ去りたい、けれども仕方がない。


「…大丈夫ですか?」

 …

 …

 …


 だー、クソ。嫌だな。


119番の用意をする。寝ているだけ、寝ているだけだと念じながら、少女の肩に手を伸ばす。


 しかし、不意にと乾いた音、掴まれた感触がした。


 掴まれた。は?掴まれた?


 反射的に掴んできたその手を見る。だけどもそれは真っ黒で、光の反射がなくて、そこだけ世界から欠けてしまったような、深淵からのびてきたようななにかが少女から伸びていた。


 彼女が頭をもたげた。顔は、顔は、見えない。いや、見えている。見えているんだ。なのに、そこにあるのは影?そんなものじゃない、闇だ。彼女はそこにない。


 嫌悪感、恐怖どうしよもない違和感がある。自らの根源から発され拒絶に連動して鳥肌がたつ。


(え、は?何?なに!?なんだこいつ!?)


 少女が立ち上がる。少女がこちらの腕を引っぱりながら近づく。

俺の足元で何かがうごめき、絡みついてくる。さわられたところから身体がぼろぼろ崩れていく、しゃりしゃりと削れていく。


(やばいやばいやばいやばい)


「おや、これは…、なんと素晴らしい、理想的クタ。」


「君、ちょっと魔法少女になってくれたまえクタ。」


 なにかきこえた








 目が覚めた?気がついた?瞬きをした?


 突っ立っていた、ただ自販機の陳列を見ていた、家に帰ろうとしていた。それだけ。


 な、訳がない。


 足音が違うと下を見れば買ったこともない真っ黒、厚底、強そう、編み込みブーツ。


 厚手でしっかりしたマントかコートよく分からん、金属のボタンがかっこいい外套。


 顔と首に感じる明らかに長い髪。しかも、細く、なめらかで、濡烏ぬれがらすのよう。きれいだねぇ。


 じゃねぇよ、誰だこれ。なんだこれ。


  なのに目、口、首、肩、腕、手、指、腰、脚、膝、足全て思い通りに動く。視覚、聴覚、触覚と五感も異常がない。


『聞こえるクタ?』


 声が響く


「…!?」


『お、聞こえてるクタね。

 おかしな所や痛みはないクタ?』


 辺りを見る。


『ん?声が出ないクタ?』

「へ、え、あ……大丈夫…みたいです。」

『よかったクタ、見たところも異常なしクタ。』


 慌ててしたその返事は自分の声とは思えないが、自分から出たとしか思えぬ声。


『クックックタ、完全無比の逸材、運良く空前絶後の大成功、ここまでうまくいくとはクタ。』

「ふぇ?」

『おっと失礼クタ。』


 一瞬、熱がスッと抜ける感覚がする。すると目の前に黒い何かがいる。


 黒い鳥。反射的にカラスと呼びそうになる。しかし、どうにも違う。普通のカラスより少し大きく太いような。いや、とてもずんぐりむっくりとしている。


「クタはクタ。どうぞよろしくクタ。」

 と片手(片翼)を挙げる。


 先程から話しかけてくる変な語尾の奴はこいつで間違いない。

 幻聴?幻覚?あぁ、俺はいつ頭をおかしくしたのだろうか。

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