第3話

 人生、こんなに上手くいっていいものなのか、日も落ちて、辺りは賑やかな灯りに包まれた。



「わあ、ねえ結城、これ食べよ」


 何の躊躇いもなく名前で呼ぶ中桐さんは、かなり男慣れしているのだろう。


「焼きそば?」


 だがこっちも初めての彼女だと思われたくはない、口から飛び出そうな心臓と、動揺する仕草を必死で隠す。



「あ、これも」


「え?」


「あ、これも」



 飛び回るように僕達は祭り会場を廻った。両手に持った食べ物を、中桐さんが言う近くの神社で食べることにした。



「焼きそばに、たこ焼き、ポテトに唐揚げ、こんなに食えるか?」


「大丈夫、大丈夫」



 「楽しいね」と、隣に座る中桐さん、確かに今まで生きてきた中でこんなに楽しいことはない。


 祭りの灯りから離れた場所、薄暗い境内は、その環境だけで、心拍数が跳ね上がる。


 彼女もそれを感じているのか、急に無口になる。


 待っているのか、百戦錬磨の彼女が、なにもしないということは、ここは男のほうから仕掛けるべきなのか、僕は思いきって彼女の前に顔を出す。



「食べよ」



 焼きそばを渡され、一瞬で撃沈。



「だね」



 少し冷めた焼きそばを開ける、その瞬間、大きな音と共に、一気に辺りが明るくなる。



「あ、花火」



 降ってきそうな大輪の花火が次々と上がる。人もいないこんな特等席があったなんて知らなかった。



「中桐さん、すごいね、こんな場所――――」



 見上げた顔を彼女に向けた瞬間、柔らかい感触が口を覆った。微かな甘い香り、目を閉じた中桐さんをみて、自分も目を閉じる。



 ――――ずるいよ。

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