第2話


 期末テストの結果はひどいものだった。夏休み中補修授業に出なければならなくなった程だ。


「高取君、もうすぐ夏休みだね」


 テスト結果の出る頃には、中桐さんの表情も柔らかくなり、ますます僕はひかれてしまった。


「ま、補修あるけどね」


「じゃあ私も、補修出るよ」


「え? なんで」


 全てのテストを満点をとった彼女は、校内で注目された。そんな彼女がなぜ補修に来たいのだろう、まだ勉強したいのだろうか。


「高取君に、会いたいから」


「え?」



 彼女は驚く言葉を平気で言う――――





 蝉の声にも慣れ始めた頃、補修の為、僕は教室の机に向かっていた。隣には誰もいない。


「やっぱ、来るわけないよな」



 僅かだったが、期待していた自分が情けない。早く補修を終わらせて帰ろう。茹だるような暑さの中、窓から見える街の景色はいつもと違った。

 道に露店が準備し始め、慌ただしく人々も動いていた。



「そっか、祭りか……」



 地元の祭り、幼い頃はよく行ったが、今となっては友達とも行かない祭り。


 夕方になり、街はすっかりお祭りモードになっていた。いや、お祭りモードになっているのは街だけではない、補修に来ている生徒達も同じだ。


 補修に来ていた生徒が、ギャーギャーと騒ぎながら校門を後にする中、僕だけは誰とも話さずに最後を歩いた。



「おい、高取」


 早く帰って、クーラーの効いた部屋でゲームでもしよう。


「高取って」



 僕を呼ぶ声に気が付いたのは二回目に呼ばれた時だった。声の主を見て僕は開いた口がおさまらなかった。



「行こ」



 山吹色の帯に紺藍の浴衣を着た中桐さんだ。心臓が高鳴り血流が早まるのを感じる。



「でも、制服だし」


「いいよ、そんなの」



 華奢な手が、僕の手首を掴んだ。こんなところクラスの誰かに見られでもすれば、冷やかしの対象だ。



「ちょっと」


「大丈夫、大丈夫、誰かに見られたらこう言えばいいんだよ、俺の彼女だ! って」


「え? それって」


「いいよ、私と付き合いたいんでしょ? 私も、付き合いたいもん」



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