初めての彼女の秘密

OFF=SET

第1話

「転校生の中桐香住なかぎりかすみさんだ」



 その転校生が来たのは、中学二年の夏が本番を迎えた七月の終わりだった。



 「席は、高取。お前の隣だ」



 担任は僕の隣を指差して中桐さんを誘導して、新しく用意した机をガシャンと突き合わせた。

 隣に立つ中桐さん。顔の輪郭に合わせたようなショートボブカットに、透き通る程白く艶やかな肌。澄んだ大きな瞳と長いまつげに、僕は吸い込まれるように見いっていた。



「教科書とか、間に合わなかったから高取、お前の見せてやってくれ」


「ええ?」 



 本心とは逆に言ってしまうのが、僕の悪い所なのか、素直に二つ返事はできなかった。



「ええ? とは何だお前、今日からクラスメートなんだから親切にしろ」



 中桐さんが小さく頭を下げる。



「ごめんなさい」


「あ、いや」



 彼女と交わした初めての言葉だった。


 授業が始まる、恥ずかしいという気持ちと嬉しい気持ちが交ざりあってなんとも言えない気分だ。

 お互い無言のまま時間だけが過ぎる、勿論授業の内容など頭に入る訳がない。話しかけるべきか、何をはなせばいいのか、そんなことしか考えていなかった。



「ページ、いいですか?」



 話してきたのは中桐さんからだった、小さな声で、柔軟剤の香りだろうか、それともこれが女子特有のいい香りというものだろうか、フワリと甘い香りを感じる。



「いい?」


{え?」



 よく見ると授業の内容は既にページが進んでいた。



「あ、うん」



 つい声が這ってしまう、教室中がこちらに注目する。



「何だ高取」


「あ、なんでもありません」



 焦る姿が可笑しかったのか、それまで強張っていた中桐さんの表情が緩んだ。

 よかったのか、うれしかったのか、何故か僕も口角が上がった。



「ご、ごめん」


「なんか、楽しいね、こういうの」


「え?」


「私達だけ時間を共有してるみたい。よろしくね、高取結城たかとりゆうき君」


「あ、うん」



 彼女が僕の手の上に手を乗せる、「女子の手はこんなに柔らかいのか」と、思ってからは、頭が真っ白になり、何も記憶にない。




 


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