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「お前……廉音か?」
不意に声をかけられて振り向くと、そこには通っていたカフェの店主のうちの一人がいた。珍しいことに翡翠色の瞳を持つ人だ。しかも純日本人である。
「
思わず驚いて声が上ずってしまった。
「久しぶりだな!」
そんなふうに笑う彼を僕は眩しいと思いながら眺める。
「お店、辞めちゃったんですか?」
「いや、もうちょっと都会の方に移転したんだよね」
漆緑さんは自慢げにそう言った。僕は「よかったですね!」と言いながらもう戻るつもりがない
ふと、昔聞いた噂を思い出した。彼が営んでいたカフェの噂だ。オカルトみたいな噂で、あの頃の僕は全く信じていなかった。
「あの、黄泉の国との橋渡しだって噂本当ですか?」
それを聞いた瞬間、漆緑さんの表情がサッと厳しいものに変わった。答えは聞かずともわかった。漆緑さんの表情が全てを物語っているような気がした。
「本当だ」
僕が言う言葉は決めていた。あとははっきり言うだけだった。
「僕を雫のところに連れていってください」
彼の表情は変わらなかった。なのになぜか、その表情に寂しさが過ぎったように見えた。
「それでいいのか」
「もちろん」
「黄泉の国に石原雫がいるとは限らないぞ?」
「大丈夫です。漆緑さん。だって、僕は一言も黄泉の国に連れて行ってくれとは言ってないんですから。僕は、雫のところに連れて行ってくれって言ったんです。それで漆緑さんが黄泉の国だと認識したなら雫はそこにいるんでしょう?」
「……嵌められたのはこっちかよ…。まぁ、会える事を祈っている」
「僕も、楽しみにしてます」
唐突に光に包まれた。意識が薄れていく中で僕は何かの影を見た。それは、翡翠色の瞳を怪しげに光らせた黒猫と、いつか見た雫の幻想だった。僕は密かに一人微笑んだ。
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