第4話

 家に戻ったところ居間からがやがやと声が聞こえたので覗いてみると、弟に加えて、かずくんとゆうくんがおりました。三人でこたつと菓子を囲みゲームをしています。春や夏、あるいは秋であれば外で遊んでいることもありましたが、生憎この時は恨み募るほどの寒さが押し寄せる冬で、外に出る理由など彼らにとって微塵もなかったのです。すると私がその数日前に暇つぶしに外へ出たのはある種の奇跡のようなものだったのかもしれません。その偶然を私はこうして何年も鮮明に引き摺っており、今もなお消費することを恐れているのですから、女々しいというほかに言葉がありません。

 さて時刻は二時を回った頃で、お腹の空いていた私はダイニングとキッチンへ向かいました。そこではマッサージ機に乗った祖母が再放送のバラエティー番組を見ておりました。内容はよく覚えていませんが、芸能人と一般人が交流する類の番組で、面白く見ていた覚えがあります。相変わらず石油ストーブは赤い光を放っており、チッチッという音がゆったりとした雰囲気を醸し出しておりました。それから六人掛けのテーブルにある、昼食の残りのエビピラフを食べました。最中、祖母が皺の寄ったえくぼを作って「どこ行っとったの」と尋ねてきました。その問いは怪しんでいるのでなく、純粋な興味から来ているようでした。「神社の方まで歩いて来た」私はテレビを注視したまま答えました。「あんなところまで歩いて来たのか。珍しいね。なんかあったのかい?」「いや、ちょっと気が向いて」「そうかい、そうかい。まあ信心深いのはいいことだもんで」と話すのですが、私はあえて何か答えることをしませんでした。


 それから従兄弟たちに混じってゲームをしておりましたが、ふと風に揺られた風鈴の音を聞いた時、私は少女の普段の姿を知りたいと思いました。しかし直接聞いては彼女との繋がりを晒すことになるので、なんと尋ねようか悩んだことを覚えております。大体こんな会話をしました。

「ゆうくんって、今、六年生だよね」「うん、そうだよ。だから来年から中学生」「中学校はどこにあるの」「小学校と同じだよ。校舎も同じ」「なにそれ。じゃあ何も変わらないじゃん」「そうだよ、当たり前だよ」何を言っているの、とでも言いたげに私を見てくる四つの瞳は真っ直ぐでした。「小学校と中学校って別でしょ」と弟。「そんなわけないじゃん。別にしたら全然人数がいなくなっちゃうよ」かずくんが大げさに手を振って、まだ声変わりのしていない高い声で豪語します。「いなくなっちゃうって、今クラス何人くらいいるの」「僕の学年はね、九人」かずくんは八個の名前を読み上げます。「女の子は」「四人。で男の子が五人」当時私の通っていた小学校では、一クラス二十五人前後で四クラスあったので、なるほど田舎はそんなにも人が少ないのかと、口には出しませんが驚いたものでございます。「運動会とかどうしてるの」「おとうとかおかあもいるから。もちろんボク達もずっと動いてばっかだけど」

 それから私は修学旅行とか授業の様子とか、そんなことをたずねました。その間中ずっと私はそこにいて、しかし実は全く違う処におりました。私は彼らの例の少女と平日を過ごすことをうらやみ、また彼女の普段がどんなものなのかを想像してばかりおりました。彼女は初めから疑うことを知らないようでした。上辺では特定のことに対して興味がないことを見せつつ、内にあらゆることを蓄積させ、ぼろを出さぬよう怯えてもおったのでございます。


 しかしどれだけ普段の様子を聞いたところで例の少女に関する情報は得られませんでした。当たり前です。当時の私が彼女について知っていることは容姿と絵を描いていることだけだったからです。名前すら知らなかったのです。するとその関係すら相当希薄なもののように思われます。彼女についての情報は必ずあったのでしょう。ただその判別がつかなかっただけなのです。

けれども確かに、そのなかに彼女がいるとはわかっておりました。

だから一向に、体中の重たい熱も、口の中の粘り気も無くらなかったのです。

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