第4話 愛のかたち

私には彼氏がいる。

前の職場に中途で入社してきた、歳は1歳上の彼氏。

入社当時はメガネを掛けていて、いかにも真面目そうな、

某アニメののび⚪くんを連想させるような雰囲気だった。


入社当時は何の感情も抱かなかったが、きっかけは上司が開いた家飲み。

事件がなかったわけでもないがそこは省くと、

私と彼はなぜかその飲み会で意気投合し、二人でお酒をかけたジェンガをしていたと思う。

初めて会ったのにその空間は初めてではないような感じで、

その場にいたみんなに後で冷やかされたりもした。

そのときの彼はメガネをかけていなく、まるで別人でかっこよかった。


その次の日、私は思い切って彼にもお礼のメールを送り、

ご丁寧な性格の彼からご丁寧な返事が返ってくる。

私はその返事に心を踊らせ、どうしたら次の会話が続くかを考える。

そうしていつの間にかLINEをゲットしていた私は、(当時どうやってこぎつけたのか覚えていない。)ドライブに連れて行ってもらう話までとりつけてしまったのである。


ここでひとつお話しておかなければならないのは、私にはこのとき別に付き合っている人がいたということ。

だが残念ながらその彼氏とは馬が合わず、どうしたら別れられるかを考えていた

タイミングであったため、非常識と思う方もいるかもしれないが

こういう人間もいるということは知っておいてもらえたらいいかもしれない。


ドキドキのドライブデート当日。

後から聞くと彼は私のLINEの文面から、相当仕事で思い悩んでいると

心配をしたらしくその日は私を労る会と思っていたようだった。

車を走らせ横浜へ。何を話したわけでもなく、くだらない話は尽きなかった。

山下公園のベンチでハンバーガーを食べ、お散歩。本当に幸せな時間だった。


夕方になりさあ帰ろうか、という頃。正直私は帰りたくなかったが、

彼が今日は帰らないと、という雰囲気を出していたため

仕方なく帰宅する心持ちに切り替えていた。

帰り際、なんとなく赤レンガ近くの原っぱに咲いていたシロツメクサで

不器用なりに花輪を作ろうとしたのだが、どうやらそれが彼のトリガーになったらしいことは後々聞いた話である、、。


後ろ髪引かれる思いで車に乗り、長い長い下道をゆっくり帰宅。

途中寄り道もしながら、ついに自宅付近になったとき、

車は私の実家近くの公園に止まった。

私たちは車を降り、何気なく公園をふらつく。

特に大した話もしなかった。

が、突然私の体は彼に包まれた。

私より大きな体に、太い腕に、大きな手に、抱きしめられていた。

嬉しかった。私のことをなんとも思っていなかった彼が抱きしめてくれたこと。

女に興味なんてないというような彼が、私を好きになってくれたこと。


そんな最初があって、私たちは付き合った。

だがそんな甘いストーリーもうまくは行かず、私たちはよく喧嘩をした。

付き合ってすぐ、1Kの彼の家に転がり込んだので無理もない話だ。

彼を優先してずっと一緒にいたい私と、

自分を優先しそれなりの距離をおいていたい彼。

大体私が直接何も言えないまま鬱憤を貯め、突然溢れ出し、

それに対して彼がごめんと言う。

それでも伝えたことを直そうとしてくれる彼の姿勢に救われていた。


付き合いはじめて1年も経たずして、「別々に暮らそう」という話になった。

彼は家族の愛をほとんど知らないまま育ってきたようで

大切なのは友達との電話やゲーム、一人で観るアニメ。

そこに私はいないと感じ始めたことからのケンカがきっかけだった。

「終わった」と思った。もう一緒に暮らせはしないのだと。

私たちはもう別々で、これ以上付き合うことはできないのだと。

だけど彼は言う。「別れるわけではない」と。

当時はその言葉を理解出来なかったけど、

即行動の私はその週末に二駅先に引っ越すことを決め、そそくさとその家を出ていったのである。


私たちはそのまま別れたと思うだろうか。

だが、私はその彼と今正式に同棲をしている。

正直一緒に暮らしていても理解できないことは多々あった。

流した涙も今まで付き合ってきた誰よりも多いし、他のカップルを見て悲しくなることもあったし、別れようと思ったこともキリがない。

だけどそれでも私は今彼と一緒に暮らしていて、今は彼といる時間を大切にしたいし、同時に自分の時間も大切にしていきたいと思っている。


カップルであったとしても、所詮そこに存在するのは人と人でしかない。

もちろん上を望めばキリがないと思うし、

もっといい人いるよと言われることも少なくない。

出会った当初のような初々しい感じはないし、片時も離れないなんてこともない。


わかったことは私たちは他人と他人なのである。完璧なことなんて何一つない。

価値観なんて多分真反対で私が不満を感じるときもあれば、

一方で彼が不満に感じることもある。

それでも一緒にいたいと思えるのだから、彼はすごい。


最近も愛を感じられず長い言い争いをした。相当鬱陶しかったと思う。

でも結果として私たちはお互いを少しずつ理解しながら、

足りない部分を補い合いながら

ゆっくりと歩みを進めていけている気がしている。


これから先もこの彼とずっと一緒にいられるかはわからない。

だけど、私の思っていた愛の形は誰にでも通用するものではなくて

まるで他国の言語のように、相手には理解できないこともある。

私たちのペースで一歩ずつ歩いて行こう、急ぐ必要なんてない。

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頑張らない、時に頑張る。 さち @sachifoi

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