復讐してやんよ③また、妹頼みかよ
あれから2か月。シズのおかげもあって俺の親が学校にいじめのことを連絡したらしく、いじめの件についていじめっ子たちは叱られたそうだ。
それで、表立って差別されたり暴力を振るわれたりすることはなくなった。しかし、靴箱から靴が落ちていて、「あ、ごめんね~。まちがえておとしちゃった~」みたいなわざとらしい嫌がらせをされたり。
快楽を植え付けられた獣たちは、獲物を誰にも譲らせない。独り占めして、いたぶりつくす。
俺は自分のことを情けないと思いつつも、嫌がらせのことを今度は妹に相談した。
「シズ、いじめの件。あれで一件落着って感じだっと思ったんだが実は……俺、まだ嫌がらせを受けてるんだ」
ぎこちない言い方だった。
恥ずかしい。本当はこんなこと言いたくなかった……。
でも……もしかしたら…………。
「しってた」
「え?」
微かな希望を抱いてはいたのだが、ちょっと驚く答えだった。いつもこんな感じだから、『ちょっと』だけど。
「もっと早く相談せんか〰〰い」
彼女はとびきり大きな声でそう言うと、俺をイヤらしい目で見つめる。
「もっと私を頼ってよ、お兄ちゃんっ。私、心配なんだ。あ、お父さんじゃなくて私に相談したのは褒めてあげるけどね」
「シズ……」
シズというのは雫の呼び名だ。
「お兄ちゃんから話してほしかったんだ。相談してくれてありがとう。でももっと早くしてよね」
「いや、妹に助けられるのって、兄として、すごく虚しいことなんだぞ」
俺がそう言うと、シズはめちゃくちゃ意外そうな目をして、俺をバカにするような目つきをする。
「へぇ〰〰。お兄ちゃん、そんなプライドあったんだ〰〰。でもね、お兄ちゃん。私たち兄妹なんだから。た・す・け・あ・い❤」
そう言って、満面の笑みを浮かべた。シズは人差し指を唇に当てて、真っ直ぐにこちらを見つめる。
可愛い、そう思わず口に出してしまいそうだ。
「も~う、お兄ちゃんは、ダメ人間なんだから、私を頼らないとダ~メ!」
地味に傷つくこと言うな、お前。
「ふう……」
気を取り直して。
「それで本題に入るんだが…………」
「全部しってるよ?」
当たり前でしょ、と言わんばかりの顔でシズ。
「ふぇ? 知ってるって何を?」
「お兄ちゃんをいじめてる奴らと、奴らのしたことについて!」
「どどどど、どういうことだ?」
「だ~か~ら~、お兄ちゃんの中学行って調べてきたの」
「……本当か?」
前にも同じようなことがあったので、それほど驚きはしなかったが、冷静に考えると、すご過ぎやしないか? 本当に? 本当に小学5年生?
「じゃあ、主な容疑者を挙げてくよ」
「お、おう」
シズは、勉強机の上から二番目の鍵付きの引き出しの奥から、『お兄ちゃん救出大作戦』と書かれたノートを取り出す。それからパラパラとページをめくって言った。
「容疑者1
合ってる。峰は最初に俺へのいじめを始めた張本人だ。
「容疑者2
そうだ。静隆は、遊びで俺に嫌がらせしているような、一番ムカつく奴。
「容疑者3
はこの3人かな」
そう。丹武橋は、俺を奴隷のように扱おうとしてくる女子。こいつ以外の女子は、気持ち悪がって、俺に見向きもしない。
殴る、蹴るといった目立った暴力をしてくるのは、主にこの3人だ。クラスで圧倒的権力を持っていて、この3人の影響で、クラスメイトは俺から離れていくと言ってもいい。
今の俺はもう虫なんていじめの原因になった最悪の生物としか思っていない。虫なんて気持ち悪い。そんなのがいなければ、俺はいじめられずに、幸せに暮らすことができたんだ……!
うぅ……。思い出すと吐きそうだ。
『雑草。いや、それ以下。今すぐ消えろ』
俺が近づくと、クラスメイト達は小声でそう言う。俺への挨拶のようなものなんだろうか。こういう悪口には慣れたもんだが……暴力のほうは、耐えられない。
クソォッッッッ!! ――一旦落ち着こう。今ムキになってもしょうがない。
ふう……。深呼吸したて、呼吸を整える。
「で、具体的にどうするつもりなんだ?」
俺が聞くと、真剣な眼差しでシズ。
「私がぼこぼこにする」
「……は?」
……何を言ってるんだ……?
「お兄ちゃんをいじめた分――いやそれ以上、いじめ返してやんよ!」
活気に満ち溢れた声だった。
「行くよ、明日。お兄ちゃんと一緒に学校行く。小学校は運動会が土曜にあったから、月曜は代休なんだー」
はぁ…………。また、妹頼みかよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます