復讐してやんよ②ちょっと変わった趣味なだけなのに
――三月下旬。やっと、つまらない学校生活が終わり、ゆったりと過ごせると思ったのに、明日からはバイトの日々だ。
はぁ……苦痛だがまぁ仕方がない。
三年前までなら、両親と妹と家族4人で、暮らしていたが、今は俺しかいない。俺しか残っていない。
星谷家の残り物のような俺は、食事も洗濯も掃除も、全部自分でやらなくてはいけない。
〝学校生活が終わった〟というのは『春休みに入った』という意味ではない。もう学校に行く気はないのだ。
高校に入り、少しは気を紛らすことができるかと思ったが、全く
俺は以前と同じようにようにいじめを受けた。自分で言うのもあれだが、殴られて、蹴られて、もう……ボロボロだ。悪質ないじめにどう対処したらいいのかわからなくなってきて、諦めてきている自分がいる。
中2の頃、俺が遊び半分でクラスの奴らにクモを手づかみして見せびらかしたことがその始まりだった。
俺は虫が好きで自慢したかっただけなのだが、クラスのみんなから変に怖がられてしまった。
そこから『変質者』と言われ始めた。筆箱を隠されたり、下駄箱にごみを入れられたり。無理矢理に女子トイレに押し込まれて、女子に汚物を見るような目で見られて…………キャーッ――いや違う。そんなんじゃなかった。『ギィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』というのが正確だろうか。そんなふうに叫ばれて。
もともと『変質者』と呼ばれているだけあって、その悲鳴は格段と激しかった。
それから先生にもがっつりお説教された。『無理やり押し込まれた』と本当のことを言っても、『ああそうですか』みたいな信用の欠片もない感じ。
中3では虫好きの奴が他にもいて、そいつと仲良く雑談していたからまだよかった。俺の悪いイメージも薄れてきてはいたが、力のない俺はそのときもまだ差別され続けていた。でもまあその時は、久しぶりに仲のいい奴ができて嬉しかった。
しかし俺へのいじめが悪化していき、〝『変質者』コンビ〟結成とか言われ始めた頃には、そいつも俺と関わろうとしなくなってしまったのだ。
……そしてまた、一人ぼっちになった。
そんな頃、俺の父親は、よくボロボロになって帰ってくる俺を見て、俺が不良になって殴り合いをしたんじゃないかと、意味の分からないことを言い出した。こんな親だだからいじめを相談する気になれなかった。だが何度目かに勇気を出して、いじめられている、と言っても信じてもらえなかった。
俺はその態度に
俺が? ――そうじゃない。父親が、一方的にだ。
「俺は暴力なんかやっていないって言ってるだろ!」
「嘘を吐くな!」
ドゴッ。
何度目かの重い響きが俺の額を撃ち抜く。。。
お前が一番暴力してんじゃねえか……。
そんな心の声も虚しく。
――ポタッ。
額から、血が流れ出る。
「だから嘘なんか吐いてない!」
「なら、それを証明しろ!」
「証明する! だから暴力はやめろって言ってるだろ!」
「父に向かってなんだその態度は!」
交渉は成立しない。自分の息子のことなど信じていないのだ。
俺はもう半分諦めていた。…………でも。
父が拳を振り上げる何度目か。
「――やめて! お父さん!」
妹の声が聞こえて。
「雫、……どうしたんだ?」
「どうしたじゃないよ! お兄ちゃんに何やってんの? ずっとお兄ちゃんはやっていないって言ってるんでしょ? なんで聞き入れようとしないの? バカなの? 本当にお兄ちゃんのお父さんなの? 信じられない」
「…………」
唐突な罵倒のマシンガン。あまりの出来事に、言葉が出ない俺の父親。
「そ、そうか…………?」
妹に怯え、声が震えている父。これで、俺の家族の力関係がよく分かるだろう。
「はぁ? そうかじゃないよ。さっさと消えろよ、クソ親父! 出ていけ!」
「……す、すまんかった。言うことも聞かずに」
父親は今までとは別人のように俺に謝罪し、素直に自分の部屋へと戻っていった。よっぽど妹に嫌われたくないようだ。……ほんとに泣けてくる。
――この事件があってから、父親は俺に対して冷たくしなくなった。誤解も解けた。全部、妹のおかげだ。
でもまだ、学校でのいじめは終わらなかったのだ…………。
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