ダメダメな兄貴に死に別れた妹と恋する資格はありますか?

星色輝吏っ💤

序章 復讐してやんよ

復讐してやんよ①不慮の事故に巻き込まれて

幽霊ゆうれい


 そんな不確かな存在なんて、信じていなかった。



 ――あいつと再会するまでは。



 ……今でも信じられない。こんなことがあっていいのか?


 ああ、俺の人生はいつも不幸だった。もう死んでもいい、と思っていた。まぁ死ぬ勇気があるのなら、とっくに死んでいるんだけどな。


 しかし今は幸せだ。


「おにぃちゃ~ん!」


 俺にだけ聞こえるその元気な声が、俺に幸福をもたらしてくれる。


 俺の妹、星谷雫ほしやしずく。俺にとっての唯一の家族だ。


 兄でも一目で惚れてしまう程可愛いというのに、雫は俺に胸を押し付けて魅惑してくる。その感触は全くないし、なんだか冷ややかな空気さえ感じる。正直ぞっとするけれど、雫の顔を見た途端、俺の顔は、照れて真っ赤になってしまうのだ。


 それから可愛い幽霊は、にっこり微笑ほほえんでこう言う。


「もぉー。お兄ちゃんたらー。か・わ・い・い」


 プフッ。


 自然と笑いが漏れる。…………ん? なぜ笑っているのかって?


 そんなの――妹が笑っているからに決まってるだろ!



 俺の名前は、星谷良平ほしやりょうへい。2つ下の妹がいる、普通の男子中学生だ。


 それに対して、妹の雫の方は、美麗で繊細な黒い髪と、雪のように白い肌。兄の俺でも見惚れてしまうような、儚げで透き通った目。そして、なんといっても可愛すぎる。存在すら幻想的で、なにやら神秘的で……もぉとにかく可愛い!




 ………………だから、こいつが『』なんて信じられるわけがない。



 ――3年前、俺はあの最悪の悲劇を、今でも鮮明に覚えている。



 こいつと会話した、最後の日のことを…………。




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 ピーポーピーポー……。――救急車のサイレンが騒々しく鳴り響いていた。



 警察の方たちが、跳ね飛ばされた車とビルの小さな隙間を、必死になって瓦礫がれきやコンクリートの塊をどかしながら、とある親子を探していた……らしい。


 何時間も、何日も――。




 ――俺は、『手術中』と書かれた標示灯を見つめていた。赤い光が少し眩しい。


 激しい貧乏ゆすりをしながら待っていた。というより、『待っている』というのを意識して、他のことを考えないようにしていたと言う方が正確かもしれない。


 それは、無理だったけれど。


 プツンッ。――赤いランプが消えた。


 ガラガラガラ……。


 すると中から、俺の母親が運び出された。その後、そのまま真っ直ぐ病室へと運ばれていくようだ。


 その光景を眺めていると、手術をした主治医の先生がこちらに向かってきた。そして、比較的明るめの声で言った。


「手術、成功しましたよ」


「よかった……」


 心の底から嬉しかったはずなのに、その声はなぜか小さく、覇気のない声だった。俺は俯いたまま、涙を必死にこらえて唇を嚙んだ。


 ああ、なんでこんなことになったんだ? あいつは何か悪いことをしたのか……?


 そんなことばかり考えて、刻一刻と時が流れていった。



「クソが――っ!!!」


 何度も何度も、何の罪もないこの世界を睨んだ。


 ただただイライラして。


 もうすべて受け入れたはずだったのに、まだ怒りが抑えられない自分に腹が立って。


 俺は毎日のように家の壁を殴りつけて。瞳の裏に涙を滲ませて。


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


 交通事故――それは世界、いや日本だけに限っても、必然のように起こってしまうものだ。


 交通事故で、『死に至る』というケースも少なくない。



 その〝よくある死〟に、俺の妹は巻き込まれた。



 ――戻ってきてほしい。



 そう、毎日願い続けている。そんなの無駄だとわかっていても、なぜだか淡い希望を感じてしまう。この現実を受け入れられていない。


 もう、何も失いたくない……。


 だからもう、俺から何も奪わないでくれ……。


 妹が、俺の生きる全てだった。俺のことを励まして、優しく支えてくれた。辛いときも悲しいときもいつだって、俺に勇気をくれた。


 そんな妹が――大好きだった。

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