うえる

ペットとかって飼ったことあります?

例えばほら、犬とか猫とか、鳥とか。


実は僕って小学生だった頃、飼育係やってたんですよ。

学校の中庭の辺りにウサギ小屋があって、毎日昼休みになると餌をあげたり掃除がてら小屋から出して散歩させたりして。

まあ僕って動物は好きだけど触るのは怖いって感じで、あんまり直接触ったりは出来なかったんですけど。


それで確か僕が5年生の頃かなぁ。

いつもみたいに昼休みになってウサギを小屋から出して中庭を散歩させてたんですよ。

その時にふと花壇に目をやったんです。

別に普段はそんな花壇を毎日見るようなタイプでもないんですけど、その時は自然と目がそっちに行っちゃったんですよね。

多分美化委員の生徒とかが手入れしてたんでしょうけど、そこにね、何か妙な物があったんですよ。


小さい色んな花が咲いてる所に割り込むみたいな感じでね、小さいアイスの棒みたいなのが刺さってたんです。

その棒には「ぽち」って書いてあったんです。

それを見て当時の僕は、ああペットが死んじゃってここに埋めたのかなあって思ったんです。

だってどう考えたってペットの犬とかに付ける名前じゃないですか。

で、今だったら絶対そうはしないと思うんですけど、まだ幼かった僕は誰にも言わずにいたんです。


そうやってその棒に触れもせずに普通に過ごしてたんですけど、ある日急に学校中の生徒全員が早退させられるっていうことがあったんですよ。

理由は説明されなかったんですけど、あの日の僕は「早く帰れてラッキー」って思って気にも留めてなかったんです。

でも後日学校中で変な噂が流れ始めてて、その時にクラスメイトから聞いちゃったんです。


中庭にある花壇の中に子犬の死体が入ってたらしいんです。

その子犬は酷く痩せこけてて、それこそミイラみたいな見た目になってたそうで。

それを聞いて僕は、あの棒はその犬を弔うためのものだったんだって思いました。

何かのペットのお墓だろうとは思ってたんですけど、まさかそこに入ってるとは思わないじゃないですか。

だってそこの花壇って、本当にちっちゃい花壇で、それこそ子犬ですら入れられないような大きさなんですよ。


で、まあ当時はそれで凄い怖いなって思ったんですけど、今になって思ってみるとあの噂って多分尾ひれがついたものなんですよね。

内容が刺激的過ぎたから怖いっていう感情が上回ってましたけど、冷静に考えてみると馬鹿みたいな噂ですよね。


でも、でもね。この間同窓会があって久しぶりに昔の同級生達と会ってきたんですよ。

その時に当時の担任も来てたんで、僕、気になって聞いたんです。

そしたら担任もちょっと悩んでる様子だったんですけど、もうあれからかなり経ってるからって話してくれたんです。


あのね、あそこに入ってたのは当然子犬の死体なんかじゃなかったんですよ。

やっぱりあの噂は嘘っぱちだったんです。

でも先生が言うには、あのアイス棒の下にはね、ティッシュが入ってたんですって。

それも一つや二つじゃないですよ。掘り出された空間の中に何十個ものくしゃくしゃになってるティッシュが入ってたそうなんです。

しかも、そのティッシュが全部血塗れだったんですって。

ティッシュそのものが真っ赤になるくらいに血を吸ってて、ぱっと見だとティッシュだって分からないレベルだったらしいです。


でね、担任は言わなかったんですけど、僕気づいちゃったんですよね。

あの日どうして全員早退させられたのか。

あの後どうしてあんな噂が流れたのか。

噂が流れ始めた時期にどうして先生が一人減ってたのか。

ねぇ店長、どう思います?

あの人は結局何がしたかったんですかね?

ただの証拠隠滅なのか、それとも愛ゆえになのか。

僕にはねぇ、先生の気持ち、ちょっとだけ分かる気がするんですよ。


あっ、ワンちゃんが呼んでますよ店長。

ほら、お腹空いてる時の鳴き声じゃないですかこれ?

僕この鳴き声苦手なんですよね。

だって、可哀想じゃないですか。

体の中が空っぽになるのって、めちゃくちゃしんどいじゃないですか。

人も動物も、飢えには勝てませんからねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

よりもの(まがるもの) 鯉々 @koikoinomanga

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ