第37話 その恋を、『俺達』は語らない

 翌日、俺は一人通学路を歩いていた。

 すると、タイミングが良いのか悪いのか、伊色と依代に遭遇してしまう。


 しかも、俺に気付くなり、依代の奴は堂々と手を振ってきやがった。


「あ、スドだ。おはよう」

「須藤くん、おはよう」

「ん……? あぁ、うん。……はよ」


 昨日の今日で顔を合わせるのが気まずく、俺が適当にそう返すと二人の様子が変わっていく。


 最初から少し緊張気味だった伊色はともかく、今さらになって依代が昨日のことを思い出して顔を赤くしていたのだ。……いや、遅ぇだろ。


 そして、そんな気まずさMAXの雰囲気の中、突然依代が声を上げた。


「―あ、猫だ」


 学校前に差し掛かったところで、道端を堂々と闊歩する自由気ままな猫と遭遇したのだ。


 依代がそれに気付いて近付こうとするも、プイッとそっぽを向かれて学校の塀に昇られてしまう。


「うわ、可愛くない猫……」

「そんなに勢い良く近付いたら、大抵の猫は逃げると思うけど……」


 そう言って伊色がため息を吐く中、俺は塀の上に居る猫に軽く手を振る。


「……ほれ」


 すると、それまで警戒して降りてこなかった猫が俺の前まで降りてきて尻尾を振っていた。そんな俺と猫を見比べると、依代が感心したように声を上げる。


「はぁ~……すご。……スド、猫好きなの?」

「……なんで?」

「いや、なんかそうなのかなって。慣れてるっぽいし」


「少なくとも、アレルギーではないな」

「いや、聞いてないし……ライクかラブかって聞いたんだけど……」

「それしか返事が用意されてないなら俺は答えられん」


「は? いや、なんで……何? 猫が嫌いってこと?」

「いや、俺は日本人だから『はい』か『いいえ』でしか答えられないからな」

「しょうもな……同じ意味じゃん」


 正直なところ、昨日のことを引きずっている為、あまり素直に反応出来ないということもあった。……いや、だってあれ、もはや告白みたいなもんだろ。


 俺はそんな気持ちを隠しながら、それを伊色と依代にバレないようにこじ付け的に言葉を返していく。


「母国語を話すのは普通だろ? ネイティブじゃあるまいし」

「……はあ。じゃあ、好きかどうか、『はい』か『いいえ』で答えてよ」

「イエスでもあり、ノーでもある」


「……その顔に猫パンチお見舞いして良い?」

「いや、なん―ちょ、それ……要らんだろ」


 いつの間にか、猫の後ろに回って抱きかかえていた依代からあまりにも変なことを言われ、動揺して変な返事を返してしまう。……なんだよ、猫パンチって。


 可愛い―というのは猫の話で、別に今の反応で依代を意識したとかそんなんじゃない。


 鼓動が強くなった俺がため息交じりにそんな反応を見せていると、伊色と依代は目を合わせる。そして、依代は猫を放すと鞄に手を入れて何やら取り出し始めた。


「はあ……まあ、良いや。それより、これ、あげる」

「……なんだよこれ?」

「見て分かるじゃん。猫と犬」


「いや、なんでそんなもんをくれるのかが分からなくて聞いたんだが……てか、これ犬二匹じゃねえの?」

「ちょっと! どう見ても猫でしょ!?」

「……それ、私と翠で作ったんだよ」


 伊色が俺に嚙みついてくる依代の隣に並ぶと、犬っぽい二つのぬいぐるみからきちんと犬の形をした方を依代の手から掴み上げ、俺へと向けてくる。……つまり、あの犬っぽいが猫(?)らしい生物のぬいぐるみは依代のってことか。


「……現実ってのは残酷だな」

「どういう意味!?」

「翠は初めて作ったし、仕方ないと思うよ」


「まあ……別に、けなしてるわけじゃねぇよ。……これが最初ってんなら、よく出来てんじゃねぇの?」

「あ……」


 俺はそう言って伊色と依代からそれぞれぬいぐるみを奪うと、それを見比べた後に鞄へと丁寧にしまった。


「……とりあえず、もらっとく。……サンキュー」


 そんな俺の反応に、伊色と依代は顔を見合わせた後に笑みを浮かべていた。


 それを見届けた後、俺は二人に背を向けて学校へ向かっていた足を一人進め直す。


 同じ部活に入っても、俺達の関係が『都合のいいトモダチ』から変わったわけではない。


 これからも過剰に接することはないし、俺はあくまでも手芸部の幽霊部員としてこいつらに利用されるだけだろう。


 理由があってこいつらが俺と別れたって言うなら、俺は今まで通りの関係を保つだけだ。


(……部屋にでも飾っておくか)


 それが、こいつらと一緒に居られる為だってんなら、俺はそれでも構わない。


 何もせず、ただ馬鹿話をする関係ってのも悪くはないから。


 だから、その恋を―『俺達』は語らない。


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